米株が下がれば日本の年金は蒸発する~増え続ける世界の負債が経済をダメにする
米株が下がれば日本の年金は蒸発する~増え続ける世界の負債が経済をダメにする=吉田繁治
米株が下がれば日本の年金は蒸発する~増え続ける世界の負債が経済をダメにする=吉田繁治
※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2018年8月30日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
米国株と運命をともにする日本の年金、この先の世界経済は…
諸悪の根源は「負債の増加」
現在の経済問題の根源には、世界の負債の増加があります。対外負債が、外貨準備より大きな新興国の通貨が、ドルの引き揚げ、つまり、「新興国通貨売り/ドル買い」によって下落し、物価インフレと債務危機を招いています。
ドル建て債務の金額が、価値が下がる自国通貨によって、増えたようになっているからです。
リーマン危機後の、金融対策費としての通貨増発は、米国FRB、欧州ECB、人民銀行、日銀の合計で$20兆(2200兆円)でした。そのマネーが、比較的金利の高い新興国の債券(国債)の購入になり、新興国の債務を増やしてきたのです。
GDPが1500兆円(2018年)と、日本の約3倍になった中国の人民元も、経済成長の減速から、元の売りの超過があり、2018年6月の1元17.4円から16.3円(18年8月29日)にまで、6.3%下がっています。
ただし中国では、過去の経常収支(いわば国の利益)の黒字から$3.11兆(342兆円)の、外貨(推計80%はドル債)があり、人民銀行が管理しています。当局が想定していない元安(元の売りの超過)に対しては、外貨準備のドル売りで対抗できるため、元は暴落していません。
重要なことは、中国では、常に「元売り/ドル買い」の動きがあり、何かをきっかけに吹き出すことです。
2015年の、世界の株価の暴落をもたらした元安がこれでした。※筆者注:このときは、1元20円の元高(15年4月)から、15.2円(16年8月)の元安にまで、対円で24%も下げています。通貨の下落は資本集出です。
※参考:http://ecodb.net/exchange/cny_jpy.html
「米利上げ」が新興国を谷底へ突き落とす
トルコのリラ(50%下落)、アルゼンチンのペソ(40%下落)、ブラジルのレアル(30%下落)、インドのルピー(10%下落)、南アフリカのランド(15%下落)では、・政府、中央銀行がもつ外貨準備が少なく、・対外負債の増加になる経常収支は赤字です(下落率はいずれも対ドル:8月14日時点)。
理由は、新興国を含む世界の負債が、特に2008年のリーマン危機以降、GDPの増加率を超えて大きくなってきたからです。(筆者注:FRBは、トランプの意見に反して、18年9月と12月に、0.25%ずつ利上げの予定を言っています)。
企業でも、GDPに当たる売上収益(粗利益)より、負債の増加率が大きすぎることが続けば、利払いと返済の危機から、倒産にも至ります。世帯も、所得より負債の増加が大きいことが続けば破産します。これが負債の意味です。
もともと足りないから借りていた。マネーが足りない中で、返済と利払いになるので、一挙に金融危機から経済危機になって行く、というわけです。
世界の経済問題の基底は、大きくなりすぎた負債
米国では、経常収支の赤字の増加からきている対外債務($35兆:3850兆円:2017年)の大きさの問題です。
トランプが、世界に対して輸入課税策(25%課税)を取っているのは、国内の減税(10年で$1.5兆:150兆円)と軍事支出の増加(7兆円増加して73兆円)から、米国の経常収支(貿易収支+所得収支)が、1年に$1兆レベルと大きくなり、対外負債が$40兆に向かっているからです。
対外債務が$40兆になると、3%という低いドル金利でも、利払いが$1.2兆(132兆円)になって、今度は、利払いによる債務の増加になって行くからです。
高い株価は、米国経済の弱点になっている
もう1点、米国の弱点は、リーマン危機以降で3倍に上がった「高すぎる株価」です。
(※筆者注:野村證券 世界の株式市場の時価総額。日本の株価時価総額〈東証一部:17年12月〉は、647兆円であり米国の約1/6です。証券業界は、米国を基準にして日本の株価が出遅れて低すぎとしていますが、本当は米国株が高すぎると認識しています)
たとえば、日本の衣料は1枚単価が、1990年の1/3に下がっています。米国でも同じです。住関連商品と家電、PCも、同じです。上がったのは、株価(3倍)と不動産価格(+50%)です。
※参考:http://www.nicmr.com/nicmr/data/market/stock.pdf
株式は劣後債の負債
株式は、株主による法人の所有権を示す金融資産です。金融資産になるのは市場で売れるからです。この株式は会社にとっては、返済の要らない劣後債の負債です。利払いは、株主からの配当要求分です。
株価が高くなると、高く買った株主は、大きな配当を要求します。これは銀行借入金の金利を、はるかに超える率です。株価には預金保険と日銀が保証している預金(銀行の負債)とは違い、下落のリスクがあるからです。
大きな配当をするには、会社のROE(資本利益率)が高い必要があります。株式は、会社の資本を株主から借りたものであるという認識をもつべきですが、この自覚がある経営者は、実に少ない。
一般に、自己資本という、まやかしの言葉を使っているからです。株主資本であり、会社の自己資本ではない。資本以外の利益準備金も、所有権は株主です。配当を、将来に猶予しているものが、企業が稼いだ利益準備金です。赤字のときの補填金になるので、準備金と言う。
米国株では、個人株主が50%、内外の金融機関・ファンドの持ち株が50%と推計されます。米国の株価が、仮に30%下がると、金融機関とファンド含む株主の金融資産が、「3740兆円×30%=1122兆円」減ってしまいます。
米国株が下がると、日本の年金が蒸発する
わが国の年金も、米国の株価が下がると、一挙に、「年金が消えた」という不安を、国民に引き起こすものになります。一定額を支給する公的年金(年間56.7兆円:2017年)は、国債で運用すべきであり、株のように、価格が大きく騰落するリスク資産での運用は、行ってはならない。
その騰落率は、30%以上になる時期もあるボラティティ部分です。日経平均(225種の株価の単純平均)のボラテリティは、現在は14.48%です。1年で14.48%下がる可能性が68%はあるという意味。14.48%上がる可能性も68%です(18年8月29日)。
※参考:https://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/201803_00.pdf(16ページの社会保障給付金の、年金と医療費の項)
この問題は、麻生内閣時代の、支給漏れを起こした年金管理の不手際より、はるか大きい。年金問題をもっとも大きな原因として、自民党内閣が吹き飛んだことは、まだ記憶に新しい。その後の、民主党内閣は、2011年3.11の原発事故への対処で嘘を言って、転びました。首相は菅直人氏、官房長官が枝野幸男氏でした。
※参考:http://www.gpif.go.jp/operation/state/pdf/h29_q4.pdf
年金基金のポートフォリオは、リスクを大きくしている運用であり、公的年金では決して行ってはならないものです。5年後には「なぜこんなことをしたのか」という、大きな責任問題になるでしょう。株価が下がると、年金が蒸発するからです。
年金だけじゃなく「財政全体」が危機に
日米の株価の下落により年金基金が減れば、政府は、もともと、34兆円が赤字の一般会計(2017年度)から、補填しなければならない。
日本政府の財政は、金利の上昇だけではなく、日米の株価の下落に対して、耐性がなくなってしまったのです(筆者注:リーマン危機の時、世界の株価は約50%下がりました。これが、金融機関とファンドの資産縮小になったのです)。
株価と運命をともにする日本の年金
金融機関とファンドに預託されている米国の年金基金の金融投資額は、$41兆(4510兆円)と巨大です。世界の年金基金は、$15.7兆(1727兆円:2017年)と大きく、世界中の国債と株にもっとも多くのマネーを投資している主体です。
わが国のGPIFは、日米の国債と社債、そして株の買い手です。日本株が25%、米国株が25%の運用で、合計50%。株価が上がっているときはいい。GPIFは、利益確定のために、売ることはできません。大口の持ち手になったGPIFが売れば、株価は下がるからです。少しは売っても、ほとんどの株をいつまでも持ち続けるのがGPIFです。
下がるときの損は、大きくなります。GPIFは、今はまだ、10年間の運用で63兆円の含みの保有利益(2017年は10.08兆円)を上げたと誇っています。
しかし米国の株価が下がると、含み利益は吹き飛び、年金不安になって行きます。この収益は、株を高く売って確定した利益ではないからです。
個人の株式運用は、少ない。しかし年金資産を預かるGPIFが、2014年以降、公的資金による株買いのアベノミクスの一環として、株式投資を2倍に増やしたのです。
※参考:http://www.gpif.go.jp/operation/state/pdf/h29_q4.pdf
金融資産の中で、株価が肥大している米国では、株価が30%下がると、株主資産の下落から金融危機になります。
株価の傾向は「上がる」「下がる」のどちらか一方である
2018年、19年、20年、21年と上昇が続くのか、下降するのか。
株価は、長期で、同じ価格で維持されることはありません。「上がる傾向か、下がる傾向か」です。長期の株価を見れば一目瞭然です――