「日本の空軍力はアジア最強」はもはや幻想か 海外誌が日中の戦闘機性能を比較

「日本の空軍力はアジア最強」はもはや幻想か 海外誌が日中の戦闘機性能を比較



 日本政府は、アメリカから最新鋭ステルス戦闘機F-35Aを20機以上追加購入する方向で調整に入った。ロイターなどの報道によれば、既に調達が決定している42機のF-35Aは、もはや博物館級と言われる航空自衛隊のF-4EJ改の後継機として運用され、追加20機超は主力のF-15Jの一部を更新すると見られる。その後は、さらにF-35を追加購入することや当面はF-15の追加改修で対応する案も検討されているという。
 冷戦終結から30年以上を経てようやく近代化の動きを見せる航空自衛隊の戦力を、いまだ「アジア最強」とする見方もある。しかし、近年の中国空軍の急速な近代化により、もはや性能面でも数の上でも中国優位は決定的で、F-35Aの調達も焼け石に水だという論調も見られる。いつの間にか野心的な隣国との差がついた平和ボケのツケは、もはや清算不可能なのか。海外メディアの分析を紹介する。

◆旧式化が目立つ自衛隊
 2月19日付の米外交誌ナショナル・インタレストは、航空自衛隊の戦力を詳細に分析。同誌は、「日本は地域でより予防的な防衛体制を整えるため、再軍備計画を進めている。その重要なパズルのピースの一つが、航空自衛隊だ」とし、その3大ミッションは「航空防衛」「大災害などへの対応」「安全な環境の確立」だと紹介している。

 約200機が配備されているF-15Jは、米国製のF-15Cの世界唯一のライセンス生産版で、三菱重工が国内生産している。まだ世界トップクラスの性能を誇るものの、基本設計は1970年代のものだ。そして、その約半数はレーダーやミサイル追尾システムを中心に近代化改修されているものの、残り半数の100機ほどに搭載された電子機器はフロッピーディスクを使った1980年代レベルのままで、「初代ファミコン並み」だと揶揄する声もあるほどだ。
 そのF-15Jをサポートする支援戦闘機が国産のF-2だ。ナショナル・インタレストは、同機を米国製のF-16にステルス性能などを加えた”F-16改”に近い機体だと表現。このF-2が100機弱あり、F-15Jの近代改修型(F-15MJ)と合わせた約200機が航空自衛隊の”一軍”だと言える。これに未改修F-15J(F-15SJ)約100機とF-4EJファントム約50機を加えたのが、航空自衛隊の全戦闘機戦力だ。F-4はベトナム戦争で活躍したもはや博物館級の機体。航空自衛隊では改修に改修を重ねて延命を図ってきたが、同誌は「その多くが寿命を迎えつつある」と限界説を唱えている。

ソビエト崩壊により日中の形勢が逆転
 ナショナル・インタレストは、総論として航空自衛隊は今も「アジアで最も強力な空軍の一つ」だとし、今後も優れたエレクトロニクス技術を駆使してF-35などの米国製最新鋭機を改良発展させるポテンシャルを秘めていると評価する。しかし、別の外交誌ディプロマットは、それよりもだいぶ厳しい見方だ。

 ディプロマットは、日本は戦後長らくアメリカ、旧ソビエトに次ぐ世界第3位の空軍大国だったが、ソビエト崩壊・冷戦終結により、日本の空の防衛力は「著しく低下した」と記す。ソビエトという最大の仮想敵国が消滅したことにより、航空戦力の優位性を保つことを軽んじた結果、装備の近代化を怠ったことがその理由の一つ。もう一つの要因は、ソビエトの後を継いだロシアが財政難から戦闘機を含む世界トップレベルの武器を世界中に放出し、他国の装備の性能が相対的に上がったことだと分析する。

 その中でも、近年急速に経済成長を果たし、尖閣問題などで軍事的にも日本の直接的なライバルとなった中国は、ロシア製兵器の恩恵を最も大きく受けた国だと言えよう。ディプロマットは、冷戦時代のF-15は「ソビエトのMiG-31迎撃機と1985年以降のSu-27戦闘機を除く近隣諸国の全ての戦闘機を上回っていた」とするが、ロシアの技術を取り込んだ最新鋭の中国機は、F-15を完全に凌駕していると見る。

◆現実的な選択は米軍依存の継続か
 現代の中国機のベースになっているのは、1990年代末にロシアから購入したSu-27及びSu-30戦闘機だ。特にSu-30はF-15Jと互角かそれ以上と見られ、中国はこれをベースに国産のJ-11を300機以上生産。ディプロマットは、これにより日本は「技術的にも数の上でも劣勢になった」としている。さらに中国は、2014年に世界最先端に近い「第4世代++」のSu-35と、それを上回る第5世代の国産J-20を導入。これらがF-15をはるかに凌ぐことに、「ほぼ反論の余地はないだろう」と同誌は記す。

 F-15Jが辛うじて互角に戦える可能性のあるJ-11でも、搭載する空対空ミサイルの射程距離がF-15Jが75kmに対し、J-11は100kmから130kmと凌駕している。パイロットの練度については、ディプロマットは、「両軍の訓練時間や実戦経験の乏しさから見てほぼ同等」だと、勝敗を左右するほどの差はないと分析。そのため戦闘機同士の直接対決はほぼ機体の性能差で決まるとして、中国の優位は動かないと見ている。また、航空自衛隊が新たに採用したF-35Aについては、最新鋭の第5世代に分類されるが、空対空戦闘だけでなく対地攻撃能力なども考慮した多目的戦闘機であるため、空対空戦闘ではそれに特化したJ-11・J-20にはやはり苦戦するとしている。
 もちろん、日本の空の防衛力がライバル国の戦闘機との性能差だけで決まるわけではない。とはいえ、現在のアジア情勢を見れば、中国との直接的な軍事衝突が起きることを想定して装備を準備せざるを得ない状況であることも確かだろう。その点で米防衛シンクタンク「センター・フォー・ストラテジック・アンド・バジェタリー・アセスメンツ」は、アメリカが最新鋭の純戦闘機F-22ラプターを日本に供与しなかったことが、中国が戦闘機の性能面で優位に立った決定的な要素になったと、2009年の時点で指摘している(ディプロマット)。
 同誌は、直接対決で中国に敵わない日本は今や、駐留米軍に強く依存するか、独自に国産戦闘機を開発して少しでも中国との差を縮めるしか道はないと分析記事を結んでいる。それは、単純な軍事力競争で空の平和を維持するのはもはや無謀だという警告とも受け止められる。