派閥議員スキャンダル連発でも二階氏が「安倍政権の要」たる理由
派閥議員スキャンダル連発でも二階氏が「安倍政権の要」たる理由
川上和久(国際医療福祉大学教授)
まずはクイズから。
いずれも自民党の国会議員、元国会議員だが、彼らは不倫疑惑や女性スキャンダル、失言、政治資金疑惑などで週刊誌を賑(にぎ)わせた政治家だ。それだけではない。9人の政治家は「なぜか」という言葉を冠するのが適切かどうか分からないが、いずれも「二階派(志帥会)」のメンバーなのである。
もちろん、自民党の他の派閥でスキャンダルや失言を週刊誌に書き立てられた国会議員、元国会議員もいる。すぐに思いつくだけでも、豊田真由子氏、稲田朋美氏、今井絵理子氏など数人は挙がる。野党でも、山尾志桜里氏を筆頭に、青山雅幸氏や初鹿明博氏など、不倫やセクハラなどで週刊誌に書かれた国会議員が何人もいる。
しかし、二階派の「スキャンダル発生率」は、それと比較しても群を抜いていると言っていいだろう。それは偶然なのか、あるいは必然なのか。
中川郁子氏は衆院議員時代、同僚議員で既婚者である門博文氏と東京・六本木の路上でキスをしている写真を、2015年3月に『週刊新潮』で報じられた。折悪く「路チュー」を撮影されたのは、同じ二階派の西川公也農水相が、自身の政党支部が国の補助金を受けた企業などから献金を受けていた問題で辞任したその日だった。結局、2017年の衆院選で中川氏は落選した。
宮崎謙介氏は衆院議員時代、ともに衆院議員であった妻の金子恵美氏が出産のため入院している中、女性タレントを自宅に呼んで宿泊し、不倫していたことを2016年2月に『週刊文春』にスッパ抜かれ、議員辞職した。金子氏は2017年の衆院選で落選している。
福井照氏は、16年9月に岸田派から二階派にくら替え。18年2月に当時の沖縄・北方相だった江崎鉄磨氏が脳梗塞を発症して辞任したため、当選7回で後任大臣の座を射止めた。ところが就任後わずか1週間で、週刊文春と週刊新潮にそろって元赤坂芸者の告発や、地元選挙区での女性スキャンダルが「待ってました」とばかりに報じられた。
鶴保庸介氏は、1998年7月の参院選和歌山選挙区で初当選。以来、二階氏の側近となり、2016年8月に沖縄・北方相で初入閣した。一時は野田聖子氏と事実婚関係にあったが、大臣になってすぐに元妻からの告発が『週刊ポスト』に報じられた。
派閥議員スキャンダル連発でも二階氏が「安倍政権の要」たる理由
当然のことだが、入閣に際しては、スキャンダルなどで内閣の足を引っ張ることがないか「身体検査」が行われる。他派閥からの推薦であれば、閣僚になった途端に「文春砲」がさく裂するリスクもある。それでも二階氏は「この人はスキャンダルがあるからダメですよ」とすげなく断られたかもしれない人物を強引に押し込んでいる。安倍政権にとっては、支持率にも影響しかねないマイナス要因ではある。
だが、安倍首相にとって、二階氏が幹事長ポストにあることのプラス、マイナスを考えると、スキャンダルを抱えた入閣待機組を押し込まれるマイナス以上のプラスがあると思っているからこそ、二階幹事長の続投を黙認しているのである。では、「マイナスを上回るプラス」とは何なのか。
第一は「二階氏以外の幹事長では、政権が一挙に不安定化しかねない」というリスク管理である。最近、マスコミでは「岸破義信」(岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、菅義偉(よしひで)官房長官、加藤勝信総務会長)などと、ポスト安倍の候補者として4人の実力者の名前が取りざたされている。
しかし、現状では二階氏に代わって、この4人のうち誰が幹事長になったとしても、その人物がポスト安倍の一番手に躍り出るのは難しい。もっと言えば、石破派などを除き自民党内で安倍政権を支える結束が一気に崩れてしまいかねない。次の総理総裁の座を脅かす心配がない二階氏が幹事長でいることが、安倍一強の「微妙な安定」のプラス作用をもたらしているのである。
6年前の参院選では、自民党が選挙区47議席、比例18議席で合計65議席を獲得したが、この獲得議席は現行制度下では最多議席であり、次期参院選では自民党が議席を減らす可能性が極めて高い。誰もがこのタイミングで幹事長として敗戦の責任を取るのは避けたいところだろう。ましてや、安倍首相の責任論に発展するのは何としても避けたい。二階氏が泥をかぶって勇退するかどうかは「一寸先は闇」で何とも言えないが、来夏の参院選に向けて、ここでも「微妙な座りのよさ」があるのは確かだ。
第三は、小沢一郎氏の手の内を知り尽くした「策士」としての期待感だ。その小沢氏は来夏の参院選で野党を糾合して「最後の勝負」をかける策動が取りざたされている。特に焦点となるのは改選数1のいわゆる「1人区」、その選挙区の数は31に及ぶ。
小沢氏は、共産党も含めて野党統一候補を立て、1人区で自民党を圧倒することを狙っているとも言われる。二階氏はかつて、小沢氏とともに自民党から飛び出し、小沢氏の選挙戦術を知り尽くしている。小沢氏の裏の裏をかいて参院選勝利とまではいかなくても「敗北」を最低限にとどめることができれば、という思いもあるだろう。
2018年7月、自民党の二階幹事長(中央左)から要望書を受け取る安倍首相(同右)
だからこそ、「問題を起こすような閣僚を送り込んだりしたが、結果オーライだったじゃないか」というような評価を二階氏が得られれば、最後の総裁任期となった安倍首相にとっても今後の政権安定につながるのである。二階氏の幹事長続投ということになれば、ポスト安倍争いでの不安定化も避けられるだろう。