米国で出てきた「もう韓国を助けるな」の声

米国で出てきた「もう韓国を助けるな」の声

北朝鮮の脅威は韓国に任せればよい」と保守派の論客


http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/1/b/600/img_1bbc11e6e23bb7e78f4b45a05d0525e5229571.jpg米国で「朝鮮半島の危険な情勢に関与する必要はもうない」という声が出てきている。写真はソウルの夜景
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「米国が朝鮮半島の危険な情勢に関与する必要はもうない。韓国との同盟を解消して、在韓米軍も撤退すべきだ」――こんな過激な主張の論文が米国の大手外交雑誌に掲載された。ソ連の巨大な脅威が存在した東西冷戦時代ならば米国の朝鮮半島関与は意味があったが、今は北朝鮮の脅威は韓国に任せればよい、とする孤立主義に近い主張である。
 論文の筆者は長年ワシントンの外交政策論壇で活動する研究者だ。その主張はきわめて少数派と言えるが、米国の一部にこうした意見が存在することは認識しておく必要があるだろう。

中国の存在のほうが大きな問題

 米国の大手外交雑誌「フォーリン・ポリシー」4月号は「アメリカはもう韓国を解き放つ時だ」と題する論文を掲載した。筆者は異色の保守派論客であるダグ・バンドウ氏である。同氏は国際問題を専門とする研究者であり、レーガン政権で大統領補佐官を務めた経歴を持つ。現在はワシントンの老舗研究機関「ケイトー研究所」の上級研究員として活動している。

 バンドウ氏は論文で、まず北朝鮮核兵器ICBM大陸間弾道ミサイル)の開発を進めて緊迫する現在の情勢について「米国はなぜアジアの小さな貧しい北朝鮮という国だけに大きな関心を向け、米国人の血を流すことになる戦争を選択肢にしようとするのか」という疑問を提起する。「アジアには、もっと真剣に対処すべき中国のような大国が存在するではないか」とも述べる。

 バンドウ氏もケイトー研究所も基本的なスタンスは、個人の自由を最大限に求め、政府の役割を極端に小さくすることを主張する「リバタリアニズム」(自由至上主義)系の思想である。「小さな政府」を主唱するという点では、保守主流派と主張が重なっている。リバタリアニズムは、外国との同盟などを減らす孤立主義を説くことも多い。

韓国に米国の助けはいらない

 バンドウ氏は同論文で以下の諸点を主張していた。
・米国が朝鮮半島に介入し、韓国と同盟を結んで、北朝鮮と対峙した最大の理由は、東西冷戦中にソ連側陣営の共産主義の拡大を防ぐためだった。朝鮮戦争で共産側と戦って3万7000人もの米国人の命を失ったのも、北朝鮮の背後にいるソ連の勢力圏の膨張を阻止するためだった。
・だが、今や世界はまったく変わってしまった。米国にとって朝鮮半島は東西冷戦中の地政学的な意味を失い、朝鮮半島での「代理戦争」はもはや過去の遺物となった。韓国を防衛することも北朝鮮核武装を阻止することも、米国の基本的な国益とは関わりがなくなった。
・いまの朝鮮半島で起きうる最悪の事態は、北朝鮮と韓国との戦争だろう。しかしこの戦争も国際情勢全体、あるいは米国の基本的な国益という観点からみれば、それほど重大な出来事ではない。米国が介入しなければこの戦争は朝鮮半島だけに限定されるので、かえって国際的な被害が少ない。

・在韓米軍は長らく不可欠な聖域のようにみなされてきた。だが、かつてカーター政権はその撤退を提唱している。
・現在、韓国には約2万8000人から成る米軍が配備されているが、もしも朝鮮戦争が起きた場合、米軍の被害は甚大となる。だが、いまの韓国の国力は北朝鮮を圧倒的に上回っている。韓国軍は米軍の力を借りなくても勝利を得られるはずだ。
・韓国にはときどき金大中政権のような北朝鮮との融和を求める政権が登場し、「太陽政策」の名の下に北に100億ドルもの援助を与えるような異常な出来事が起きる。援助を受けた北朝鮮は、その間に核兵器弾道ミサイルの開発に励んでいた。韓国は「米国の保護がある」という安心感から、そんな行動をとるのだ。だから、米国は保護をやめたほうがよい。
・在韓米軍の存在は中国の膨張を防ぐためだとする議論もある。だが、中国が朝鮮半島に進出して北朝鮮を自国の支配下におく意図がないことは、すでに明白だ。台湾や南シナ海東シナ海など、北朝鮮以外の地域での中国の攻勢を抑えるための在韓米軍の効用はほとんどない。
・韓国が核武装して北朝鮮核兵器に対抗しても、米国にとって大きな不利益はない。また、在韓米軍を撤退させた後も、米国が核の拡大抑止、つまり北朝鮮に対する「核のカサ」を韓国に提供し続けることは可能である。
 バンドウ氏は、国が朝鮮半島への関与を減らすことで、韓国も北朝鮮も自立や自主性の意識を高め、責任のある外交や戦略を展開するようになるのではないかと総括していた。
 現実的には、米国が韓国から、さらには朝鮮半島から離脱する可能性はきわめて低いとはいえ、いまの米国内にはこんな主張があることも知っておくべきだろう。