EV向けバッテリー、技術競争が加速

EV向けバッテリー、技術競争が加速

2018年12月03日 11時30分 公開
[George LeopoldEE Times]
 電気自動車(EV)市場における競争で優位性を確立するには、店頭表示価格やソフトウェアアップデートなどに加え、バッテリー技術と充電インフラの向上を実現できるかどうかにかかっている。とりわけ中国メーカーは、業界をリードするTeslaの電池技術と製造能力に対抗し、それを超えるべく、大規模な投資を行っている。
 現在のところ、ほとんどの製造能力がリチウムイオン技術に集中しているが、この他にも、バッテリー技術をめぐる状況を確実に変化させることで、電気自動車の幅を広げられるような手法も登場し始めている。また走行距離が、ガソリンが満タンの状態と同程度まで伸びていることから、最終的には電気駆動系が内燃機関を超えるまでに進化させることが可能な、変曲点も実現できそうだ。

金属空気電池の開発も進む

 新しいバッテリー技術が登場すると、新しい無線規格のデモも披露されるようになってきた。電気自動車の電池を、ガソリンを満タンにする場合と同程度の速さで再充電することが可能だという。
 研究者たちは、最近市場に登場し始めたばかりのアルミニウム空気電池や、亜鉛空気電池などの技術を追求することで、幅を広げようとしている。このような新しい技術の実現への鍵は、再充電機能を強化しながら、エネルギー蓄積コストを、キロワット時(kWh)当たり約100米ドルまで低下させることにある。
http://image.itmedia.co.jp/ee/articles/1812/03/mm3017_181203battery1.jpgTeslaは、1kWh当たりのバッテリーのコストを100米ドルにまで下げられるのだろうか
 ある予測によれば、亜鉛空地電池は、早ければ2019年にも電気自動車市場に登場し、最終的にはリチウムイオン電池よりも低価格化と軽量化を実現できる他、安全性も高められる見込みだ。EnZincやNantEnergyなど、電池開発を手掛ける新興企業は、リチウムイオン電池よりも安価かつ安全な代替として、亜鉛空気電池技術を推進している。そのエネルギー密度や再充電能力は、リチウムイオン電池に近づきつつあるという。
 EnZincは、「3次元的に充放電する亜鉛空気電池は、低コスト化に必要な出力範囲を提供することができる。軽量化と長距離化を実現し、安全性が高い上、再利用も可能だ」と主張する。
 金属空気電池の欠点としては、腐食しやすいことが挙げられる。つまり、アルミニウム空気電池などの有望な新しい技術は、蓄積電荷をすぐに失ってしまう可能性があるということだ。研究者たちは最近、Science誌に論文を投稿し、腐食を抑えるための緩衝材として油を使用するという腐食防止方法について説明している。この手法を金属空気電池にも適用すれば、電池寿命を延ばせる可能性がある。
 提唱者たちは、「こうしたさまざまな取り組みが成功すれば、軽量化と小型化を実現する空気亜鉛電池および空気アルミニウム電池を使用することで、電気自動車にバックアップ電源を提供できるだろう」と主張する。
http://image.itmedia.co.jp/ee/articles/1812/03/mm3017_181203battery2.jpgNantEnergyの亜鉛空気電池。同社は、「1kWh当たりのバッテリーのコストを100米ドル以下」は既に達成していると主張する 出典:NantEnergy

リチウムイオン電池の製造を拡大するTesla

 一方Teslaは、米国ネバダ州にある大規模リチウムイオン電池工場「Gigafactory(ギガファクトリー)」において、リチウムイオン電池の製造を拡大している他、中国にも電池工場を建設する予定だという。Teslaは、電池分野でパナソニックと協業することにより、全世界の電気自動車用電池の約60%を生産していると主張する。

充電インフラの拡充を図る

http://image.itmedia.co.jp/ee/articles/1812/03/mm3017_181203battery3_w290.jpgオークリッジ国立研究所が数年前に開発した、20kWワイヤレスチャージングシステム。同システムは90%の効率を達成しているという 出典:オークリッジ国立研究所
 Tesla、Porsche(ポルシェ)および、電気自動車を手掛けるその他のメーカーは、ガソリンタンクを満タンにするのと同じくらい早く電気自動車のバッテリーを充電すべく、スーパーチャージングのインフラを整えることに注力してきた。それ以外のアプローチも登場している。

 例えば、米国エネルギー省のオークリッジ国立研究所(Oak Ridge National Laboratory)は2018年10月、電気自動車用の120Wワイヤレス給電システムを実証したと発表した。同研究所によれば、これは従来のワイヤレス給電システムの約6倍の電力を供給できるとする。

 次のステップは、道路の下に設置したワイヤレス給電パッドによって電気自動車を自動的に充電できる、“ダイナミックワイヤレス充電方式”を検討しつつ、電力転送レベルを350kWに引き上げることだとする。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】