米中貿易「休戦」 中身が次第に明らかに

米中貿易「休戦」 中身が次第に明らかに

米通商代表は90日間の期限を堅持と発言 ファーウェイCFO逮捕の影響は?

ブエノスアイレスで1日、会談に臨む習・中国国家主席とトランプ米大統領ブエノスアイレスで1日、会談に臨む習・中国国家主席とトランプ米大統領 Photo: kevin lamarque/Reuters
 米中貿易交渉でトランプ政権の責任者を務めるロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は9日、90日間の交渉期限を堅持するとし、その間に合意が結ばれなければ中国製品への制裁関税を引き上げると述べた。
 米CBSに出演したライトハイザー氏は「合意すべき内容であれば合意する。大統領もそれを望んでいる」と話した。そのうえで、「合意は検証可能、監視可能でなければならず、過去25年にわたってみられたようなあいまいな約束であってはならない。私の見る限り、合意期限は厳格なものだ」と語った。
 対中強硬派であるライトハイザー氏は先週、ドナルド・トランプ米大統領から交渉責任者に任命された。
 ライトハイザー氏はこの日、テレビ番組に出演し、1日に始まった交渉で90日間の交渉の期限までに「納得できる解決策が得られなかった場合には」、2000億ドル(22兆5200億円)相当の中国製品に対する関税率を現在の10%から25%に引き上げると述べた。同氏はまた、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟最高財務責任者CFO)が1日、米政府の要請を受けてカナダで逮捕された件に関して、貿易交渉には「あまり影響を与えないだろう」と述べた。
 ライトハイザー氏は「この件は私が取り組んでいるさまざまな事柄とは全く別の話だ」「従って、われわれには無関係。これは刑事司法の問題だ」との見方を示した。
 トランプ大統領習近平中国国家主席ブエノスアイレスで貿易紛争の休戦について合意してから1週間を経て、休戦の詳細が次第に明らかになってきた。それは、中国による巨額の輸入、厳しい交渉、合意達成期限の変更などにかかわるものだ。
 米中両国の当局者によれば、両国の合意には中国が米国から大量の物品とサービスを輸入することが含まれ、中国は今後数週間以内に大豆と天然ガスの輸入について発表すると約束している。中国はまた、米国製自動車に対する関税引き下げを検討している。
 ラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長は9日、FOXニュースの番組の中で、中国政府からは「極めて前向きで、明るい見通しの表明がいくつかあった」と指摘し、中国の政府機関約35機関と同国最高裁が「知的財産権の窃盗行為の問題に取り組むため、新たな法律制定の作業に入っている」と語った。
 同委員長はさらに「こうした事実をつなぎ合わせると、多くの良い状況が生まれている」と分析した。
市場アクセス・知財窃盗が焦点に
 両国の了解事項によれば、交渉がまとまるまでは、中国側に輸入拡大や関税引き下げ義務は生じない。しかし両国は、早期の輸入措置が、ある種の手付金のような役割を果たし、交渉を促進すると判断している。中国側は、同国産品に対する関税を縮小するよう米国を説得したいと考えている。
 当局者らは、交渉の核心はもっと難しい問題に置かれるだろうと述べている。具体的には、米国企業が現在よりも幅広い中国市場へのアクセスを確保すること、知的財産の窃盗禁止、そして米国企業が中国でビジネスをする際、技術の共有を迫られているとされる問題の解決だ。
 当局者によると、1日に行われた習・トランプ両氏の会談で、トランプ氏と側近らは技術に関する問題をどのように扱うかについて詳しく説明した。
 だが、貿易交渉は暗礁に乗り上げる恐れがある。ファーウェイの創業者の娘である孟晩舟氏が、同社による米国の対イラン制裁回避を手助けしたとの疑いで、カナダで逮捕されたことを受けてだ。米国は孟氏の身柄引き渡しを望んでいる。この騒動を受け、中国ではナショナリスト的な反発が生じ、習氏が米国に譲歩することがより困難になっている可能性がある。孟氏の弁護人は7日にバンクーバーで行われた審問で、米国の主張に対して「強く争う」姿勢を示した。
 中国外務省が明らかにしたところによると、楽玉成外務次官は7日、駐北京カナダ大使を呼び出し、孟氏を釈放しなければ、何らかの重大な結果を招くという最後通告を出した。楽氏は8日、駐中米国大使のテリー・ブランスタッド氏に電話して逮捕状の撤回を要求し、中国政府は米国がどのような手続きを取るかに基づいて今後の対応を決めると述べた。この非難は、カナダ大使になされた抗議に比べると厳しくないように見える。
 だが、中国当局者によると、これまでのところ、習氏は側近たちにトランプ氏との間で達した合意に従うよう指示しているという。
ムニューシン財務長官は中国が「さらに1兆2000億ドル分の輸入をする」と述べたムニューシン財務長官は中国が「さらに1兆2000億ドル分の輸入をする」と述べた Photo: Andrew Harrer/Bloomberg News
 クドロー氏は9日、貿易交渉からファーウェイの問題を切り離すよう求め、「貿易」と「法執行」という別個の枠組みにある問題だと述べた。
 米中の詳しい合意内容は当初、不明だった。米国は20カ国・地域(G20)首脳会議の直後に行われた米中首脳出席の夕食会の後、中国が貿易で譲歩すること、大規模な輸入をすることと、交渉に90日の期限を設けることで合意したと述べた。中国当局者はブエノスアイレスでの会見で、90日の期限を含め、合意の条件に関して沈黙を保った。中国はその後、期限があることを正式に確認した。
 トランプ氏は4日、交渉は「延長されない限り」90日間継続されるとツイートした。クドロー氏も幾分の解釈の幅を示唆していた。だが、ライトハイザー氏は9日、期限は厳格だとの見方を維持した。
桁外れな金額の米製品購入「ありそうにない」
 他の米当局者もテレビに出演して交渉について語っている。スティーブン・ムニューシン財務長官はFOXニュースに出演し、中国が「さらに1兆2000億ドル分の輸入をする」と述べ、「それが本当なら、貿易赤字は解消するだろう」と話した。米国は昨年、1880億ドル相当の物品とサービスを中国に輸出し、3360億ドルの貿易赤字を計上した。
 米財務省の当局者は、中国がどのくらいの期間をかけて輸入を増やすのかを明らかにしなかった。習氏はここ数カ月間、向こう5年間で世界から総額2兆5000億ドル相当のサービスを輸入するとしている中国商務省のリポートを大げさに宣伝している。
 ブルッキングス研究所の中国問題専門家で、オバマ政権時代に米財務省の中国駐在財務公使を務めたデービッド・ダラー氏は、中国による米製品買い付けの増加額について、「桁外れの水準で、不可能ではないものの、ありそうにない」と指摘した。
 米国と中国が協議対象とすることで合意した中で最も複雑な項目は知的財産権の保護問題だ。中国国内で事業運営を希望する外国企業に対し、中国が技術移転を要求しているとの米国の主張に対し、中国側はこれを否定している。しかし、先のアルゼンチンでの米中首脳会談で合意した一環として、中国側は中国の知的財産権保護の欠如について米国が長年表明してきた不満に対応する意向を示した。これについて中国当局者は、現行法規・法律の執行を強化することは中国の利益にかなうものだと指摘した。
 これは米産業界にとっても特に重要な問題となっている。米商工会議所のマイロン・ブリリアント副会頭は「中国は知的財産の窃盗や差別問題に関して、企業が現在影響を被っている幾つかの具体的案件を解決するために直ちに行動を起こすべきだ」と訴えた。
 米国は、中国からの輸入品に対する関税について、どんな場合でも合意事項を実現するための手段になるとみている。米国がこれまでに発動した制裁関税の対象額は2500億ドル。米当局者は、中国が修正に同意するだけでなく実施に移さないかぎり、関税が撤回されることはないだろうと述べた。米国は90日間の交渉期限後に追加関税を適用する可能性がある。複数の米当局者は米国の案に関し、北朝鮮の非核化問題で北朝鮮核兵器を廃棄するまで制裁措置を解除しないとする米国の姿勢と同等だとみている。
 アルゼンチンでの米中合意が貿易上の緊張緩和につながるかどうか見極める上で、当面は2つの試金石が存在する。1つ目は中国が米農産品、エネルギー製品を購入するとの約束を迅速に実施するかどうかという点。2つ目は習近平主席の経済交渉特使として劉鶴副首相がいかに迅速にワシントンでの高官レベル協議に向かうかだ。トランプ大統領ブエノスアイレスで習主席に対し、ライトハイザーUSTR代表が協議で米国側の責任者を務めると伝えた。
 中国の訪米団に関する説明を受けた関係者によると、ファーウェイの孟氏逮捕が明らかになる前の段階で、劉副首相は30人の貿易代表団を率いて12月10日からの週にワシントン入りを計画していた。孟氏の逮捕でこの計画が影響を受けたかどうかは明らかになっていない。
 米中両国の首脳には貿易協議を軌道に乗せておくだけの重要な理由がある。米当局者によれば、トランプ大統領は株式市場での株価下落に動揺しているという。株価下落には米中貿易協議の先行き透明感が部分的に影響しているとみられる。
 習主席は中国経済のてこ入れを望んでいる。同国経済は米国との経済関係に対する不透明感の影響により成長が圧迫されている。中国が8日発表した貿易統計で、同国の11月の輸出入伸び率は予想外の落ち込みを示した。成長が弱まる前兆とみられている。