中国「国家情報法」米に衝撃 ファーウェイと取引停止

中国「国家情報法」米に衝撃 ファーウェイと取引停止

ファーウェイ
中国・台湾
北米
2018/12/20 7:01
米国政府・議会が、中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)など5社の製品への警戒を強めている。米国の最新技術を盗み取って軍備増強に利用する中国の動きが新たな段階に入り、このままでは米軍の優位が失われることへの米国の焦燥感が背景にはある。米中対立の激しさが増す中、日本や日本企業もかじ取りを誤れば自らの首を絞める事態に直面しかねない。
「まさか、中国がここまでやるとは……」。2017年6月28日に中国で施行された新法の内容に、日米の安全保障関係者は言葉を失った。新法の名は「国家情報法」。効率的な国家情報体制の整備を目的に掲げ「いかなる組織及び個人も、国の情報活動に協力する義務を有する」(第7条)と明記する。
広義のスパイ活動は、中国だけでなく米欧やロシアなど多くの国が水面下で実施している。ただ、民主主義諸国では一般国民が自国の情報機関に協力するか否かは基本的には個人の自由意思に委ねられているのに対し、中国の国家情報法は国民に協力を強制。安全保障だけでなく、国家を挙げた自国の産業高度化にもつなげようとする。
例えば、中国に有益な米国の技術情報を入手できる在米中国人エンジニアが、中国の情報機関にスパイ行為を働くよう指示されれば拒めない。中国企業も同様だ。中国は既に、中国国民の成人などを、国家の有事の際に動員できるようする「国防動員法」を施行していたが、今回の国家情報法はその「インテリジェンス版」だ。
中国政府は否定するが、米国防関係者は中国製通信機器に「バックドア(裏口)」が仕込まれ、そこを経由して米国製の機微な軍事技術が中国に吸い取られているとみている。このハード面でのリスクに「国家情報法」という膨大なヒューマン・インテリジェンス(人的情報活動)の脅威が重なったことで、米国では中国への警戒感がかつてなく強まっている。
中国による情報窃取を野放しにしておけば「無人攻撃機の同時大量運用による米空母、イージス艦への集中攻撃」や「小型無人潜水艇による米潜水艦への攻撃」といった米軍には地獄絵図ともいえる状況が現実になる。
この「異形」の情報収集体制を組んだ中国に対し、米国の危機感が表れたのが19年度国防権限法。「ファーウェイ製品などを使っている企業とは今後、米政府は一切の取引をしない」などと徹底した対策を盛り込んだ。
米国はこうした規制に関して日本など同盟諸国にも同調を求めている。大量のデータを瞬時に送信できる次世代通信規格「5G」で中国の製品の普及を許せば、それだけ機微な軍事技術情報が漏洩しやすくなる。
5Gを含む中国通信機器の締め出しの動きでは、英国がまず先行し、オーストラリアやニュージーランド(NZ)が追随した。米英豪NZとカナダの5カ国は「ファイブ・アイズ」と呼ばれる諜報(ちょうほう)同盟を組み、平素から機密情報を共有する。
現在、この問題に詳しい日本の関係者が強く危惧しているのは、ファイブ・アイズに入っていない日本やドイツを起点とする中国向け情報漏洩が明らかになり、米国から指摘される展開だ。この問題の司令塔を務める米ホワイトハウスのピーター・ナバロ大統領補佐官は「証拠」を見つけ次第、いつでも日本政府に突き付けられる立場にある。
日本では1987年、東芝の子会社、東芝機械が国際規制に違反してソ連に工作機械を輸出し、ソ連海軍の潜水艦のスクリュー音が大幅に低下していたことが明らかになった。日米の外交問題に発展し、親会社の東芝も深い傷を負った。
日本政府は政府調達で中国製通信機器を事実上排除する指針を発表。ソフトバンクグループも中国製品を使わない方針を打ち出した。しかし対立の根深さを知る政府関係者からは懸念が漏れる。「日本も現在の米国の危機感をきちんと受けとめなければ『第二の東芝機械事件』が起きかねない」。
編集委員 高坂哲郎)