外国人への情報伝達のカギ「やさしい日本語」広がる

外国人への情報伝達のカギ「やさしい日本語」広がる 社会部 植木裕香子 

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 在日外国人への情報伝達手段として、案内版などの文言を平易な表現にする動きが目立っている。自治体が発信する暮らしの情報や観光情報、住民らとのコミュニケーションに利用される例もある。外国人労働者の受け入れ拡大を目指す改正出入国管理法が4月に施行され、来年には東京五輪パラリンピックを控える日本。世界各地から訪れる外国人が急増し、多言語での対応が迫られるなか、「やさしい日本語」の重要性が高まっている。
敬語使わず

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 「『電車が運転を見合わせています』をやさしい日本語で書いてください」。昨年12月に東京都港区で開かれた、災害時に外国人の避難誘導にあたるボランティアを対象とした研修会。講師の一橋大国際教育交流センター、●(=木へんに却の去がタ)田直美准教授(39)が参加者に呼びかけた。
 参加したグループの一つは、議論の結果、「電車はいま動いていません。しばらくおまちください」と記した。どう表現するか苦戦するグループもあり、●(=木へんに却の去がタ)田准教授は(1)短文・単文にする(2)敬語は使わない(3)やさしい言葉に変換する-などのポイントも指導した。

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 参加した大窪彬弘(おおくぼあきひろ)さん(73)は「敬語を使って詳しく説明するのが礼儀だと思ったが、実はそれが外国人には分かりにくい印象を与えることを知り、新鮮だった」と話した。
 港区には約80の大使館が密集し、昨年10月末時点で約140カ国・地域の2万190人の外国人が暮らしている。区の担当者は「全ての言語に対応するのは難しい。多文化共生社会を実現するうえで、日本人も理解でき、外国人にも分かる『やさしい日本語』は重要なコミュニケーションツールになる」と力を込めた。

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トラブル解消に
 「やさしい日本語」を取り入れる動きは自治体を中心に広がっている。
 多くの日系ブラジル人らが住む愛知県豊橋市では平成28年4月から、市指定のごみ袋を導入する際に「可燃ごみ」「不燃ごみ」ではなく、「もやすごみ」「こわすごみ」と記載。ゴミ分別の徹底化を図った。
 導入する際の住民説明会で配布する資料にも、難しい言い回しを避けて漢字にルビを振るなど工夫。担当者は「ゴミ出しをめぐるトラブル解消につながればいい」と話す。

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 福岡県柳川市は、留学生らの協力を得て、外国人観光客に日本語で案内する試みを始めた。市観光課の担当者は「日本語でコミュニケーションできるなら、日本語で話せばいいと気づいた。勉強してきた日本語をうれしそうに話す観光客もいる」と、観光客の日本語への関心の高さを指摘する。
災害時の安心材料
 “笑い”を通じて「やさしい日本語」の普及を図る試みもある。
 島根県出雲市では、29年12月、落語家の桂かい枝さん(49)による「やさしい日本語寄席」を開催。ベトナム人ミャンマー人の観客がその場で指導を受け落語を披露し、会場は笑いに包まれたという。市の担当者は「笑いを通じてやさしい日本語への関心が高まり、裾野が広がればいい」と話す。

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 国内では、4月に施行される改正入管法や来年の東京五輪を控え、外国人がさらに増加するとみられるが、情報伝達機能は十分とはいえないのが実情だ。昨年9月に最大地震7を観測した北海道地震では、航空便の欠航で足止めされた外国人が札幌中心部であふれるなど、課題も浮き彫りになった。
 「やさしい日本語」について研究している佐藤和之・弘前大教授(社会言語学)は、「やさしい日本語が社会的に周知されることは、災害時に情報弱者になりやすい外国人にとっては安心材料になる」と評価。「今後は、情報を伝える側が、(元々の表現を)やさしい日本語に変える際の規則を意識して使うことが求められる」と話している。

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訪日外国人の急増
 石井啓一国土交通相は今月11日、平成30年の訪日外国人旅行者数が前年比8・7%増の3119万人となったと発表した。年間3千万人を超えたのは初めてで、6年連続で過去最多を更新。格安航空会社の新路線開設やビザの発給条件の緩和により中国や東南アジアからの旅行者が増加したのが要因とみられ、国は東京五輪パラリンピックが開催される2020(平成32)年の目標数値として年間4千万人を掲げている。
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