こんまり流の片づけ、中古品店はときめかず

こんまり流の片づけ、中古品店はときめかず

持ち込まれる大量のがらくたに困惑、「ごみ捨て場ではない」との声も

 どんより曇ったある日、アン・カーティスさんはステーションワゴンの後部座席にがらくたを積み込んだ。末娘の大学進学をきっかけに家を片づけたいカーティスさんは「コンドウに夢中」だと語る。「こんまり」として知られる片づけのカリスマ、近藤麻理恵氏のことだ。「ロフトや物置、ガレージを整理したくてたまらない」
 何年も使っていないゲームやくたびれたハンドバッグ、靴、装飾品、寝具などを積み、ロンドン郊外のギルフォードのリサイクルショップに行くと、汗にまみれ、いらいらした様子の年配の男性が現れた。
 「寄付の品を持ってきました」と笑顔で言うカーティスさんに男性はあきれ顔でこう言ったそうだ。「持ってこない人はいません」
 リサイクルショップで働く人々にとって、近藤氏はときめきをもたらす存在ではないようだ。
 近藤氏が登場するリアリティー番組「Tidying Up With Marie Kondo(KONMARI~人生がときめく片づけの魔法~)」の配信が今年1月にネットフリックスで始まって以来、世界中のリサイクルショップに寄付が殺到している。問題はくたくたの衣類や買い手がつかないような家電製品が大量に持ち込まれていることだ。ポルノ雑誌や剣など奇妙な寄付もある。
「こんまり」として知られる片づけのカリスマ、近藤麻理恵氏
「こんまり」として知られる片づけのカリスマ、近藤麻理恵 Photo: /Associated Press
 テキサス州ヒューストンでリサイクルショップを運営するグッドウィルの責任者、デービッド・ブラッドン氏は「私たちが寄付を歓迎するのはよく売れるからだ」と話す。
 近藤氏が著書「人生がときめく片づけの魔法」で紹介した方法で、世界中の人々ががらくたを片付けている。出版社によると、同書と続編の世界販売部数は合わせて1000万部に上る。近藤氏は「ときめく」ものだけを手元に残すよう勧めている。
 マインドフルネスの実践としてガレージを片づけたりTシャツを畳んだりすれば気持ちがすっきりする。これが世界的なブームとなり、寄付収集センターは誰も欲しがらない品物の山に埋もれている。
 オーストラリアの慈善団体ビニーズのマネジャー、ジャッキー・ドロプリック氏は「残念ながらあまり役に立たないものを持ち込む人がいる」と話す。「ここはごみ捨て場ではない」
「こんまり流」に整理された衣類
「こんまり流」に整理された衣類 Photo: sara kamouni/Agence France-Presse/Getty Images
 シドニーにあるビニーズの倉庫ではボランティアたちが寄付された衣類の仕分けを行っている。1週間の処理量は約130トン。気温が37度を超える中では過酷な作業だ。ビニーズは、1月の寄付が前年同月比で35%増えており、近藤氏の番組開始と関係があるとみている。
 シドニー郊外のグレイステーンズでビニーズの店舗を運営するレン・パイン氏は「一気に家全体の片づけを終わらせたいという切迫感がある」と話す。未処理分が増えているため、新たな寄付は見合わせてもらっているという。
 米国では通常、冬は中古品の取引が鈍い(春の大掃除のシーズンになると再び活発になる)。しかし最近、一部リサイクルショップは寄付が集まりすぎて受け付けを一時的に停止している。
 米国とカナダでリサイクルショップを運営するグッドウィル・インダストリーズ・インターナショナルでは、1月の寄付がワシントンで32%以上増えた。ヒューストンは22%増、バージニア州ロアノークは20%増、ミシガン州グランドラピッズが16%増だった。
寄付された衣類の仕分けを行うビニーズの従業員
寄付された衣類の仕分けを行うビニーズの従業員 Photo: Uncredited
ビニーズのシドニーの店舗
ビニーズのシドニーの店舗 Photo: Rachel Pannett/The Wall Street Journal
 当初、一部の店舗は片づけブームについて、政府機関の閉鎖で一時帰休となった職員が暇を持て余したことによるものと考えていた。しかし今も寄付は減っていない。ブラッドン氏は「マリエ・コンドウによるところが大きいと考えている」と話す。
 ヒューストンでグッドウィルの店舗マネジャーを務めるラダトリオン・ハービー氏は「どうにもならなくなるかもしれない」と話す。
 ハービーさんの店舗は石油で財を成した富裕層とテクノロジーで稼いだ新興富裕層が暮らすリバーオークス地区にある。1月は前年同月より49%も多い寄付の品が集まった。ハービーさんによると、男性がガールフレンドのグッチとプラダの靴を持ってきたことがあった。靴は箱に入ったままで1000ドルを超える値札が付いていた。男性はガールフレンドが新しい靴を買いに行きたがっていると話したという。
 最近、こんまりの片づけブームに乗ってマネキンを持ってきた人もいた。受け付けるかどうかスタッフが話し合っていたところ、別の人が店に入ってきて購入したいと言い、19.99ドル(約2200円)を支払った。
こんまり流セーターの畳み方
こんまり流セーターの畳み方 Photo: JEREMIE SOUTEYRAT FOR THE WALL STREET JOURNAL

 グレイステーンズの店舗マネージャーのパイン氏が最近、寄付の品が入ったバッグを開けると、小さな四角形に畳まれた衣類が出てきた。「この人は本当にきちんとした人だと思った」が、すぐに「コンドウだ!」と気づいた。近藤氏はリアリティー番組で、引き出しの中で衣類が立つように同じ形に畳むように指導している。

 リサイクルショップによると、売れない衣類はぼろ切れとして再利用される。その他の物品は埋め立て処分やスクラップ処理されるものもあれば、有害物質として破壊されるものもあるという。
 オーストラリアのリサイクルショップでは、サメの死骸や入れ歯、義肢などの寄付も過去にあったという。「友達にあげられないようなものは寄付するな」――これがリサイクルショップで働く人からのアドバイスだ。
 「キスして感謝してもがらくたが消えることはない」と話すのは、ビクトリア州政府機関で環境の持続可能性に取り組むステファニー・ズーリッシュ氏。近藤氏はものを捨てるときには今までありがとうと感謝して手放すことを勧めている。ズーリッシュ氏はこんまりメソッドの6つのルールの7つ目のステップとして「もったいない」を提案しているという。
 こんまりファンの中には知恵を働かせてリサイクルに励む人もいる。ロンドン南東部に住むアリソン・スパイサーさん(33)は近藤氏の番組に「はまり」、8回分を二晩で見たという。
 リサイクルショップで働く人々を困らせないように、スパイサーさんは寄付する品物――衣類や布で5袋、がらくたは大箱で2箱、子ども用の本やおもちゃが1箱――を地元の2つの店に数日に分けて持ち込んだ。
 「特に大きな反応はなかったが、一つも断られなかった」