IoTの相棒「空気電池」先陣争い 富士通系やNTT

IoTの相棒「空気電池」先陣争い 富士通系やNTT

環境エネ・素材
科学&新技術
2019/3/16 6:30
究極の蓄電池といわれる「空気電池」の最大の課題である寿命を大幅に向上させる技術が相次いで開発された。富士通系電子部品メーカーのFDKは水素を使う特殊なタイプで3年後の実用化にメドをつけた。NTTは本命候補のリチウムを使うタイプで長寿命の電池を試作した。あらゆるモノがネットにつながるIoTの時代では、高性能電池の必要性が高まる。実用化時期が大幅に前倒しされて2020年代になる可能性が高く、開発競争が進みそうだ。
軽さという特長を生かし、空飛ぶ自動車や動き回るロボット、健康状態を把握するセンサーなどへの搭載も視野に入る。様々な機器がデータを集める必要性が高まり、空気電池のような軽くて高性能な電池の需要が高まりそうだ。太陽光など再生可能エネルギーで余った電力を貯蔵するシステムが普及すれば、二酸化炭素(CO2)の大幅な排出削減が見込まれる。
リチウムイオン電池の登場でモバイル機器が普及し、IT(情報技術)革命を支えた。性能は向上し、自動車の電動化でも重要部品だ。しかし、技術的な限界が近づいており、燃えやすいという欠点もある。
空気電池は次世代技術の有力候補のひとつで、空気中の酸素を取り込んで化学反応することで電気を生み出す。酸素は無尽蔵に供給されるため、理論上は電気を蓄えられる量がリチウムイオン電池の5~10倍に達する。
プラス(正)とマイナス(負)のうちのプラス側の電極が金属から酸素に代わるため、格段に軽くなり、材料コストも抑えられる。現状では、すぐに性能が低下してしまい、実用化への大きな課題となっていた。
FDKが開発した空気電池は水素を酸素と化学反応させて電気を作る。ハイブリッド車などに使われているニッケル水素電池の構造を生かし、ニッケルを使う正極を酸素に置き換えた。貴金属のルテニウムを主成分とする微粒子を付け、反応を進みやすくした。充電と放電を500回繰り返しても、性能の低下は1割以下だった。再生エネの電力貯蔵向けなら、10年ほど使えるとみている。
開発した電池は酸素からCO2や不純物を取り除く装置が必要になる。こうした付随部を含めても、コストはリチウムイオン電池より安くなるという。庄瀬知行執行役員常務は「性能は今よりも2~3倍向上できる」とみる。
NTTは空気電池の寿命を向上する技術を開発した
NTTは空気電池の寿命を向上する技術を開発した
NTTは負極にリチウムを使うリチウム空気電池で、充電や放電を100回繰り返しても性能が落ちないことを確かめた。マンガンを主成分とする化合物を混ぜたのがポイントで、充電や放電に必要な化学反応を進める働きがある。従来は数回で劣化していた。
リチウム空気電池は充放電を繰り返すと、不要な物質ができて性能が低下する。今回の成果を手がかりに最適な材料の探索が進めやすくなるほか、配合の工夫などで寿命を延ばせるという。
物質・材料研究機構ソフトバンクとリチウム空気電池の共同研究を進め、25年の実用化を目指す。カーボンナノチューブグラフェンといったナノ炭素材料などを使い、容量をリチウムイオン電池の15倍に高め、100回以上の充放電でも劣化しないことを確かめている。久保佳実チームリーダーは「容量は10倍以上、コストは10分の1以下が目標」と意気込む。モバイル機器やドローン向けの用途を見込む。
次世代電池の開発競争では、安全で充電時間が短い全固体電池が実用化間近だといわれる。空気電池は高速充電や寿命では劣るものの、軽く、電池としての潜在的な能力は上回る。トヨタ自動車は全固体電池を搭載した電気自動車(EV)の実用化を急ぐ一方で、空気電池の研究開発にも取り組んでいる。
他の候補も含めてそれぞれの強みを生かした分野で普及することになりそうだ。
(遠藤智之)