230億円の男が考える資産運用の話

230億円の男が考える資産運用の話


トレードで230億円の資産を築き「一人の力で日経平均を動かす男」との異名を持つまでに至った個人投資家cis(しす)さん。この連載では『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(通称cis本)の12万部突破を記念し、2月17日に八重洲ブックセンターで行われた「cisトーク」の内容を再構成してお伝えします。今回の記事ではcisさんならではの資産運用についての見解をご紹介します。(構成・平松梨沙)

安定した高利回りには必ず見えていないリスクがある

福地 少し話題を変えて、ここからはいろんな人と比較をしながら、cisさんの哲学を浮き彫りにしていきたいと思います。
 ぼくの知人で、すでに仕事をリタイアして、貯めたお金の運用だけで暮らしている人がいるんです。その人の投資のメインは、REIT不動産投資信託)。彼からすると、個別株は値動きが激しすぎて怖いので、お金の大半をREITにして、それが今は年3%くらいで回っているからそれでいいということらしいんです。この話を聞いて、ぼくはcisさんとはだいぶ違うなと思ったんです。
 cisさんの場合はただお金が増えるのを待っているというより、目の前にマンモスが来るのを待ち構えたうえでそれを倒すことに重点を置いているような。

cis ぼく、REITで6億円くらい大損したことあるんですよ。
 たしかにREITは不動産自体が現物としてあって、借入レバレッジもそんなに高くないので安定的ではあるんですけど、実際に年何%で回ってるっていうのは幻想じゃないかと思います。不動産の価格の変動はありますし、経年劣化もあるし、タコ足配当(元本切り崩しで見せかけの配当を分配すること)かもしれないし。もちろんちゃんと良い利益が出ているのかもしれませんが、利回りで暮らすって考えは、やっぱりいつかやられると思いますね。あやしく値下がりしているときに買い増さないとか、REITからの収入のみで買い増しをするとか、つねに警戒していたほうがいいとは思います。
 見た目の安定には惑わされないほうがいいと思います。市場金利よりも多くの利回り……今ならドル建てで3〜4%、円建てで1〜2%を安定的に上回るような話は、裏で内包しているリスクが必ずあると思います。ぼくだって100億円や500億円を預かって年5%以上増やすなんて話にはまったく自信ないですから。

会場 親の遺産が入って資産運用を考え出して、そこから株の勉強をし始めた者です。
 それで2月に資産運用のコンサルティングをしている○○さんという方にあったんですけど、その方はcisさんとも会ったことがあると言っていて、「cisさんは自分のノウハウを伝えて何人か雇って投資会社をやったけど、うまくいかなかったと。だから一般人がcisさんの真似をしてもダメ、プロに任せることを考えたら?」という話をされたんです。やはりプロに任せるべきでしょうか?

担当 「何人か雇ってやった投資会社がうまくいかなかった」というのは本に書いてあるエピソードですね。事前に集めた質問でも「タートルズウォール街の伝説的なトレーダー集団)」的なことをやっていた話を聞きたいという意見がありました。

cis まず、その名前の知り合いがいた記憶はないです。会ったこと、もしかしたらあるかもしれませんが、ぼくはちょっと覚えていないですね。
 よくそういうことは言われます、ぼくが関わってるとか、ぼくと会ったことがあるとか、一緒にやってるとか言う人。でも、実際は知り合いじゃないことがほとんどです。
(編集部注:イベント中には具体的な社名と名前が出ましたが、来場者の方の記憶違いもあるかもしれませんので、伏字にしました。いずれにせよ騙りにはご注意ください)
 あと、投資会社をつくって失敗した話を出したように、投資は本能が出ることが多いので、ぼくのやり方はぼくのやり方でうまくいった、ということしかないです。
 「上がり続けるものは上がる、下がり続けるものは下がる」というのは「アドバイスください」と言われたら誰にでも言っていることですし、その考え方は本にある通りですけど。

担当 以前cisさんに「cisさんの会社で唯一利益を出した人」をご紹介いただく機会がありましたが、この方は安値で買った株がストップ高になったときは、バンバン買い増しをして勝負されていたと言っていました。まさしく「上がり続けるものは上がる」で勝負されていたと。
 でも、その時点で満足したり怖くなったりして利確する人が多いと思います。

cis 投資は自分のやり方によってざっくり三つあって、インフレ率をとって、相対的に資産が目減りしないようにする超長期投資のような、指数とかインデックス投資に準ずるものみたいな感じの考え方が一つ。あとはぼくみたいに短期で、戦いを制して富を増やすというもの、加えて値動きが荒いとかに突っ込んで、ギャンブル的にやるかやられるかを、先物レバレッジかけてやるもの。
 まず短期トレードとギャンブル的なものとで安定して利益を積み重ねるというのは、すごい難しいと思います。
 退職金とか遺産を元手にこれから勉強して……というのも難しいと思います。すごく若くて優秀な人間が世界中にいますから。数十億とか稼いでるやつとかビックリするほど頭がいいんで。ぼく自身、どちらかというと、かなり衰えを感じてきているんで。
 なので資産運用、という話であれば、国債に準ずるものとか、ノーアイディアだったら定期預金とか。ぼくはそっちのほうがいいと思います。
 投資信託については、ぼくはあまりよくない選択だと思ってます。いわゆる信託報酬があるものですね。信託報酬あれば買付手数料もあって、解約の時に手数料とられるケースもありますし。
 信託報酬がある商品を長く持つくらいなら、期待値を考えたら、自分でなにかをやるほうがいいです。株式現物を手数料の低い証券会社で買うのが一番ローコストでリターンが見込めるかなとぼくは思います。

担当 投資家のイベントで定期預金を勧めるとか、たぶん初めてに近いんじゃないでしょうか(笑)

cis そもそも相場のプロとかスーパートレーダーとかって、だいたい幻想で、ぼくはいないと思います。絶対稼げるという人なら、まともな経済効率性を持っていたら、分離課税のことを考えると数億くらいから会社をやめて個人でやりますし。人にお金を預けて自動で増えるというのは、なかなか厳しい気がしますね。

担当 「人に預ければ勝手にお金を増やしてくれるし安心」というのは、そもそも発想として間違っていると。

cis 時代に乗れればそういうこともあるのかもしれないですけど、ぼくはそもそも預かろうともしないですし。これから増やす自信もないです。

担当 cisさんは絶対に「ぼくが増やしてみせます」とか言わないんですよね。むしろ「他人のお金なんて預かりたくない」っていう。ぼくは編集者として変なビジネスにかかわるようなことは避けたいと思っているので、cisさんと話をしていて本当に信用できる人だと思いましたし、読者の方に〝ホンモノ〟を直接感じてもらえる機会を作れたのは心底よかったと思います。

人を使って稼ぐのは諦めている

福地 だいぶ毛色の違う話になるんですが、ウォーレン・バフェットという人がいますよね。投資に疎いぼくの理解では、株の値動きは気にせずひたすらに企業研究をして、信用できるってところの株を大量に買ってひたすら持ち続ける方法論を続けるうちに大金持ちになったという人。これに対して、cisさんの方法論は全く逆じゃないですか。企業研究はせずに値動きだけを見て、ビュッと買ってビュッと売るという。バフェットについてはどう思いますか?

cis 彼はすごい資産を築いていますよね。でも彼の資産って、純粋な投資というよりも、投資で得た利益をもとにお金を集めて作った投資会社の、持ち株の時価総額なんですよね。トレーダーとか個人投資家というよりは、スーパービジネスマンなのかなと思います。だからぼくは真似したくてもできないですね。時代の良さと頭の良さもはもちろんのこと、コミュニケーション能力と体力も必要なので。ソフトバンク孫正義さんみたいなものです。なので、ぼくが比べられるのはおこがましい。
 堀江貴文さんも同じことをやろうとしていたように思うんですけど、日本では向いてなかったのかな。日本の場合、政治家とか官僚とかから嫌われると、何か良くなかったことが起こる気がしますね。

担当 堀江さん関係でいうと、cisさん、ライブドアショックではかなりやられてましたよね? 名言となった「おっすおら損5億」…。

cis ライブドアのときも、値段的には明らかに純資産と比べて割安なのに、買っても買ってもどんどん売りが出てきたので、これはもしかして国の力で上場廃止にさせられるのでは……?と感じて逃げ始めて。実際そうなりましたね。

担当 cisさんは、会社を経営したいとは思わないんですよね。

cis 人を動かしてクリエイティブなことをするというのが、めっちゃ苦手なんですよね。同じことをやり続けても飽きない人間ではあるんですけど。
 共同オーナーを務めるアミューズメントカジノもありますけど(秋葉原カジノクエスト)、これは投資家仲間何人かでやってて、経営はほぼかかわってないです。従業員からポーカーの大会のDVD出すから解説してよ、と言われて出るくらいですね。

もしポーカープロになったらどれくらい稼ぐ?

福地 ぼくは麻雀ライターとして、たくさんの勝負師の方を見てきましたが、cisさんはいろいろなゲームが得意ですけど、やっぱり電子的なゲーム、スマホゲームが得意な方だなと思います。そして相場と麻雀とポーカーについても、ゲームと同じに捉えているというか、常にリスクとリターンを比較して考えている。局面を手作りしていくことに興味があるんじゃなくて、今この瞬間売るか買うかの押し引きの判断に賭けている。麻雀をいっしょにしているときも、振り込む確率とか局収支の話ばかり。本当にオタクで研究家だなと思います。そういうcisさんの興味が、今の話からも伝わってきました。

担当 プライベートだと、ゲームのほかに、麻雀やポーカーも凄腕ですよね。麻雀は私も何度か見学させてもらったんですが、ウルトラデジタルで期待値最重視の戦い方をされていて勉強になりました。そういった株式投資以外でやってきたことが、投資への考え方に影響することはありますか?

cis 投資に関しては3000万円超えたぐらいからだいぶ守備に寄っているのに対して、麻雀やポーカーに関しては、完全にリスクに対してニュートラルで、期待値の最大化を模索しています。パチプロをやっていた時代もそうだったんですけど、不完全情報ゲームに身をゆだねるってことに思春期時代から慣れすぎているので、勝っても勝っても高揚しないし、負けても負けても落ち込まない……というマインドはできているかなと思います。もう不感症みたいになってる。
 それは投資の世界での強さに役立ってるかもしれませんね。一喜一憂していると、それだけ考える時間が減ってしまいますから。

担当 これも事前の質問にあったのですが、仮にcisさんが投資家ではなく、ポーカープロやプロゲーマーになったときの年収期待値はどれくらいでしょうか?

cis うーん。ポーカーに関しては、相場くらい力を入れて勉強したら、8年前だったら年1億ぐらい稼げた可能性はありますね。ただ、今は全体のレベルがとても上がっているので、ちょっと難しいかな。今はカジノにおいてはお金持ちの社長に取り入ることのほうが重要になっていますし。プロゲーマーでいうと、ぼくの今の実力だと、たぶん年100万も稼げないと思います。
 一つ言えるのは、市場でも仮想通貨でもギャンブルでも、対人戦で稼ぐこと全般に共通しているのは、大きく稼げるのはお金が集まっている場所だということです。なので競技人口でいうと、圧倒的にポーカープロが有利だと思いますね。いくら技術があっても、その場にお金が流入してなくては稼げないですから。