5Gで変わる6業界 その未来図とは
5Gで変わる6業界 その未来図とは
次世代移動通信システムであらゆる物がネットにつながる世界
次世代移動通信システム「5G」はスマホのデータ通信を超高速化する技術だが、その本当の強みは、あらゆるものがインターネットにつながる「モノのインターネット(IoT)」の普及を加速させる可能性にある。
この次世代通信技術が6つの業界をいかに変貌させ得るか、そうした変化にどのくらい時間がかかるのか、またどのような障害が立ちはだかっているのかを概説する。
工場に柔軟性
工場は1世紀以上にわたって物理的なケーブルに依存してきたが、それにはもっともな理由がある。ワイヤレス接続は不安定なため、機械が過度に遅くなったり、動かなくなったりすることがあり、多大なコストや危険をもたらす結果になりかねないためだ。
ワイヤレス技術のエンジニアによると、5Gはレイテンシー(機械同士の反応に要する時間)の短縮に重点が置かれており、こうした現状が打開されるかもしれない。5G回線を使用すれば、ロボット化された組み立てラインがワイヤレスで指示を受信したり、製品の最新の仕様書を遅延なく受け取ったりでき、常時稼働できる可能性がある。また可動可能なロボットも常にケーブルでつないでおく必要がなくなり、絶えず動き回わることができる。
ドイツでは、通信会社のドイツテレコムが2018年に、ワイヤレスサービスの向上でどのような機械にメリットがあるかをテストする試験プログラムを開始した。同社の広報担当者によると、このプログラムの4G回線は特別に設計されており、新しい無線帯域が利用可能になり次第、5Gにアップグレードされる。
だが業界アナリストのチェタン・シャルマ氏は、ワイヤレスネットワークが製造プロセスのあらゆる面にすぐに利用されるとはみていない。例えば、成長が鈍化している金属や紙製品を生産する企業は、貴重な資本をワイヤレス技術に投じそうにはない。また工場経営者もすぐにワイヤレス化に乗り出すとは思えないという。
シャルマ氏は、工場側がリスクを覚悟で5G対応のワイヤレス機械の設置に乗り出すようにするには、まず半導体メーカーが業界向けの特殊なハードウエアを開発する必要があり、それには数年かかるとみている。「製造ワークフローを見直すには確実性が必要だ」
自動車にデータ搭載
5Gモデムを搭載した自動車は数年後に登場すると専門家らはみている。だが、ネットにつながる「コネクテッドカー」の次世代モデルがどのようなものになるかは、しばしば意見が大きく割れている。
一部の通信業界幹部は、自動運転車が交通状態や危険に関する情報を移動しながらリアルタイムに受信し、それに応じて動きを調整する未来像を思い描いている。これは5Gネットワークの強みを利用したビジョンだ。5Gネットワークは多くの同時接続された回線を効率良くさばき、自動車や路上に設置された複数のセンサーが正確なデータを途切れることなく供給できるようにする。
しかし、自動車については通信会社が5Gの能力を大げさに宣伝しているとの懐疑的な見方もある。過去の例に見られるように、次世代ワイヤレスネットワークは時にうまくいかないことがある。また、都市部でも5G信号をどこでも受信できるようにするには数年かかる可能性がある。
5Gを利用した輸送について、少なくとも当初はもっと限られた用途を想定している企業もある。米通信大手AT&Tの幹部は、周辺地域だけをカバーする小規模な5Gゾーンが妥当だろうと話す。公共輸送機関の利用客や自動車に乗る人たちが、そのエリアを通過するときに動画やゲームをダウンロードして時間をつぶしたりするのに利用できるネットワークだ。
AT&Tコミュニケーションズのジョン・ドノンバン最高経営責任者(CEO)は昨年のインタビューで5Gネットワークについて、「(企業)キャンパスを中心にしたゾーンに出現すると思う」と述べた。
スポーツ観戦に新たな角度
韓国の通信大手KTコーポレーションは昨年、平昌冬季五輪で5Gの試験サービスを提供し、来場者がアスリートの視点から試合を見るなど、イベント中継を観戦する角度をいろいろ試せるようにした。
それは5G接続の使用でプロスポーツ・リーグのコンテンツがどう変わるかをかいま見せるものだった。例えば、通常のスポーツも5Gによって平昌五輪のときと同じような楽しみ方ができるようになるかもしれない。現在開発中のテクノロジーでは、競技会場の至る所に設置されたカメラやセンサーを使用し、視聴者が好きな角度を選んで競技を見られるようにする。
単に競技を新たな角度で観戦できるようにするだけでなく、選手の動きについて詳しい情報を提供する技術も開発されている。
米半導体大手インテルは、1月に行われた米ナショナル・ホッケー・リーグ(NHL)のオールスターゲームで選手とパックにセンサーを装着し、その技術をテストした。視聴者はスマホから新しいデータを取り出し、ゴールに入ったショットの速度や選手が氷の上を滑走する速度を確認することができた。こうした技術は未来に向けた第一歩となるもので、5Gが導入されれば、試合中によりリアルタイムなデータをスマホで確認したり、テレビ画面でデータをカスタマイズしたりできるようになるかもしれない。
映画やゲームに臨場感
ハリウッドの映画会社やゲーム会社は5Gのスピードと極めて低いレイテンシー(遅延)を利用し、テレビにしろヘッドセットにしろ、もっと臨場感のある体験ができるようにすることを目指している。
映画会社は5Gが導入された未来を体験できるアプリをいくつか試しているが、どのようなコンテンツや価格であれば視聴者を最も満足させられるかをまだ見極めきれずにいる。
フォックス・イノベーション・ラボのグローバル技術・ビジネス開発担当エグゼクティブディレクター、ロバート・パワーズ氏は、仮想現実(VR)を体験するのに妥当な価格帯は8~15ドルだろうと話す。フォックスは拡張現実(AR)や複合現実(MR)を利用したテクノロジーの開発にも取り組んでいる。これらは現実世界の映像にコンピューターで生成した映像を重ねるもので、5Gが導入されれば活用が進むはずだ。
例えば、同社は昨夏、テーマパークなどの公共スペースでスマホやウエアラブル端末を使用してストーリーの中を動き回れるMRテクノロジーに取り組んだ。ユーザーは歩きながら、指示に従ったり、現実世界に映し出された人物を見たりすることがき、その人物は動き回ったり、ユーザーとやり取りしたりできた。
医師と患者に新たな関係
いずれ5Gによって、医師は高品質のビデオ会議システムやVRなどの新しい遠隔医療手段を使用して、もっと患者とやり取りできるようになるだろう。こう話すのは、インテルのネットワークプラットフォーム部門のゼネラルマネジャーを務めるサンドラ・リベラ氏だ。
近い将来としては、より個人化された医療を普及させる変化が相次いで起こりそうだ。
例えば、現在スマホのテレビ電話機能を使用して遠隔で自閉症の子供を治療する療法士は、VRヘッドセットを使用して子供の顔や体に現れた手掛かりをもっと明確に把握できるようになるかもしれない。一方、米コロンビア大学の研究者らが取り組んでいるのは、5Gの低レイテンシーを活用したバーチャルな理学療法だ。患者はVRヘッドセットを装着し、コントローラーを動かしてボールなどのデジタルな物体を操作し、従来の治療で行う動作を模倣する。
いずれ、さらに5Gのスピードが高速化し、レイテンシーが低下し、帯域幅が広がればもっと大規模な変化がもたらされる可能性もある。例えば、救命士は救急車の中で高解像度カメラとVRを使用してベテラン医師からリアルタイムに指示を受けられるようになるかもしれない。
5G Will Be Ultrafast, but the Roll Out Will Be Anything But
精度の高い監視が可能に
5G技術の助けを借りなくても、人通りの多い街角には既にカメラやセンサーが張り巡らされている。しかし、米通信大手ベライゾン・コミュニケーションが最近テキサス州ヒューストンのテストセンターで行った実験では、より高速なワイヤレスサービスが普及した未来をのぞき見ることができた。