ゲームを止められない子供、その理由と対処法

ゲームを止められない子供、その理由と対処法

ゲーム依存ではなく脳の発達に関係

Your Child's Brain on Videogames
Your Child's Brain on Videogames
子供にゲームを途中でやめさせると、かんしゃくを起こすのにはれっきとした理由がある
――筆者のジュリー・ジャーゴンはファミリー&テクノロジー担当コラムニスト
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 世界中の親たちが毎晩、宿題や夕食、就寝のためにゲーム機の電源を切るよう子供に告げ、我慢比べを繰り広げている。大抵の場合、子供は親をにらみつけたり、文句を言ったりする。
 中には、怒鳴ったり、かんしゃくを起こしたり、ドアを乱暴に閉めたりする子供もいる。誰しも楽しいことを途中でやめさせられるのは嫌なものだが、これには何か特異な事情が関係しているようだ。子供がレゴで遊んでいるのを中断させられ、手が付けられなくなったという話はあまり聞いたことがない。
 では、ゲームから現実世界に無理やり引き戻された瞬間、何が起こっているのか。
アミラ・カウンツさんは息子のジェイデン君にゲームをやめてベッドに行かせるのに苦労している
アミラ・カウンツさんは息子のジェイデン君にゲームをやめてベッドに行かせるのに苦労している Photo: Rachel Woolf for The Wall Street for The Wall Street Journal
 神経学者によると、思春期の年代を含む子供は何らかの報酬を得られる活動をやめ、あまり楽しくない活動に切り替える能力がまだ発達していない。これはゲーム中毒になっているという意味ではなく、単にほとんどの子供にとって中断するのが概して難しいというだけだ。この問題に対処する方法はあるが、まずは子供の頭の中を理解する必要がある。
 「われわれの脳内には興味を持続するよう進化した系統がある。それによって食料が見つかるまで何日も探し回り、満腹感(という報酬)を得るというわけだ」。米国立薬物乱用研究所(NIDA)所長でゲームプレーと薬物乱用両方の影響の類似性について研究するノラ・ボルコフ所長はこう話す。
 ゲームの途中(一定のレベルやミッションを完了し、満足感を得るチャンスが与えられる前)で電源を切るのは、半分食べかけのドーナツを手から奪い取るようなものだ。
ジェイデン君はゲームをするために急いで宿題を済ませている
ジェイデン君はゲームをするために急いで宿題を済ませている Photo: Rachel Woolf for The Wall Street for The Wall Street Journal
 ゲームプレーに関する論文を分析している米ステッソン大学のクリス・ファーガソン教授(心理学)によると、ゲームをプレーすることへの期待によって脳内のドーパミン基準値は約75%上昇する。NIDAのデータによると、これは中毒性の高い薬物に関連した上昇率よりはずっと低いが、ドーナツによる上昇率とあまり変わりない。
 しかし、ドーナツを食べる行為には終わりがある。一方、ゲームにはプレーを続けさせるために断続的に報酬が組み込まれている。中には実質的な終わりのないゲームや達成に何時間もかかるものもある。
 成人ゲーマーに関する1998年の研究論文では、ドーパミンの放出量とプレーヤーの上達具合には相関性があることが示されている。この論文の作成者であるマティアス・コープ氏は、スキルが上達し、ゲームの難易度が高くなればなるほど、ドーパミンの放出量が増えていたと話す。同氏は現在、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジ・クイーンズスクエア神経学研究所で神経学教授を務めている。
快感や満足感といった報酬が得られる活動を子供が大人よりも中断しにくのは、意思決定や衝動の制御をつかさどる脳の前頭前皮質が完全に発達していないためだ
快感や満足感といった報酬が得られる活動を子供が大人よりも中断しにくのは、意思決定や衝動の制御をつかさどる脳の前頭前皮質が完全に発達していないためだ Photo: WSJ
 大人にはドーパミンの放出を停止させ、別のもっと重要な作業に切り替えさせる推論能力(論理的思考力)があるが、子供にはないと神経学者は指摘する。意思決定や衝動の制御をつかさどる脳の前頭前皮質は25歳までは完全に発達していないためだ。
 米コロラド州ボルダー在住のシングルマザー、アミラ・カウンツさんは、夜は大抵、7歳の息子に「ワールド・オブ・ウォークラフト」のプレーをやめさせるのに苦労している。
カウンツさんとジェイデン君は最近、ゲームのプレー時間を制限する約束を交わした
カウンツさんとジェイデン君は最近、ゲームのプレー時間を制限する約束を交わした Photo: Rachel Woolf for The Wall Street for The Wall Street Journal
 「息子は学校から帰ると決められた通りまず宿題をする日もある。だがそれが終わるとすぐにゲームをしたがり、私が駄目だと言うと、ただそこに座って何もしない。まるで自分を楽しませる能力がないかのようだ」とカウンツさんは話す。「私がとても疲れていて就寝時間まで息子についゲームをさせてしまい、息子が寝る時間になるとキレてしまう夜もある」
 「子供にとって、その瞬間にゲームより多くの報酬が得られる経験が用意されていない限り、自らゲームをやめる本質的な理由はない」。スペインのカタルーニャオープン大学認知神経科学の博士課程に在籍中、ゲームプレーの神経的・行動的影響に関する100以上の論文を精査したマルク・パラウス氏はこう説明する。
 米ジョージョア州のクリス・フラーさんの息子は6年生のとき、「フォートナイト」をプレーしたいがために宿題を嫌々こなしていた。フォートナイトは、100人のプレーヤーが最後の1人の生き残りを目指して戦う人気のインターネットゲームだ。やがて息子の宿題の質や成績が落ち始めた。「私が完全に頭にきたのは、息子が1つのデバイスの電源を切って別のデバイスを使い始めたことだった。息子は『フォートナイト』を中断し、私たちのいる上階にやって来ると自分のスマートフォンに飛びついて『フォートナイト』に関するユーチューブの動画を見ていた」。フラーさんは当時をこう振り返る。
 フラーさんと妻は昨年秋に息子が7年生になると、平日の夜はゲームを禁じた。その結果、宿題の質も成績も上がったという。しかし、現在13歳の息子は週末になると今度は「オーバーウォッチ」をプレーするようになった。この多人数でプレーするオンラインゲームも息子はなかなか途中でやめようとしないという。
クリス・フラーさんの息子のウィル君は「オーバーウォッチ」(写真)をなかなかやめることができない
クリス・フラーさんの息子のウィル君は「オーバーウォッチ」(写真)をなかなかやめることができない Photo: Melissa Golden for The Wall Street Journal
 「先日、朝5時に物音がしたので下階に降りてみると、息子がゲームをしていた」とフラーさんは話す。

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 専門家は、ゲームをプレーする子供のほとんどは「ゲーム障害」のような深刻な問題を生じさせるリスクはないと指摘する。世界保健機関(WHO)はゲーム障害について、「ゲームに対する制御が利かず、他の活動よりもゲームを優先するようになり(中略)悪影響が生じているにもかかわらずゲームプレーを継続したり、エスカレートさせたりする」行動パターンと定義している。
 子供がゲーム依存症であるかどうかよりも、うつや不安、ストレスに対処するためにゲームを利用している可能性を心配した方がいいと心理学者は指摘する。2017年の論文によると、週6日から7日、1日4時間以上ゲームをプレーする思春期の子供は、そうでない子供よりも抑うつ症状が多く見られた。
親や子供にできること
 精神的な問題が根底にない場合でも、多くの親が子供にゲームをやめるよう告げたときに不機嫌な態度に直面する。夜の争いをなくすにはどうすればいいのか。
ゲームに関するルールを作り、徹底する。「『先週はプレーしなかったから、今週は3時間多くプレーさせてあげよう』などと考えては駄目だ」と米児童心理研究所発達脳センターの研究責任者で創設ディレクターのマイケル・ミルハム氏はくぎを刺す。
 ゲーム終了時間の20分くらい前に警告し、子供が先を見越して新しいレベルやミッションを始めないようにさせることを勧める専門家もいる。ミリハム氏は、寝付きが悪くなる場合があるため、就寝時間の直前までゲームをプレーさせないよう助言している。
ルール作りに子供を参加させる。子育てコーチで作家のスーザン・グロナー氏によると、子供はガイドラインの作成に関わったときの方がそれをきちんと守ろうとする。ゲームをいつ、どのくらいプレーできるかについて子供と合意できたら、それを1週間試し、うまくいかなければ見直せばいい。またグロナー氏は、子供にタイマーをセットさせ、自分でゲームプレーを監視させることもアドバイスしている。
ルールを作るのに遅すぎることはない。カウンツさんは数週間前、息子の「デトックス」を決意した。ゲームのプレー時間を1日1時間にまで少しずつ減らすことに加え、2人で一緒にする活動を増やすことを2人で決め、文書にした。この目標はまだ達成できていないが、息子にゲーム以外の将来の楽しみを与えることができたとカウンツさんは話す。
深刻な症状が現れた場合は、根底にある問題の治療を探るべき。ステッソン大学のクリス・ファーガソン教授は、児童やティーンを専門とするプロに治療を求めるよう勧めている。
 「私なら子供をゲーム依存の専門家の元には連れて行かないだろう。彼らの多くはこのモラルパニックに付け込んでおり、実証された治療法は持ち合わせていない。たとえゲーム依存を治療できても、子供がうつ状態に戻るかもしれない」