【高論卓説】激化する新冷戦 米国がじわりと進める強固な中国包囲網

【高論卓説】激化する新冷戦 米国がじわりと進める強固な中国包囲網

2019.4.3 06:00
※画像はイメージです(Getty Images)
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 米中の対立が激化している。米中貿易協議で表面的な融和的なムードが生まれる一方で、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)での通信覇権をめぐっての争いは激しいものになっている。3月13日、米国欧州軍司令官はドイツがファーウェイの技術を採用した場合には、ドイツ軍との通信を断つ方針を示した。(経済評論家・渡辺哲也
 これはドイツだけの問題ではなく、世界各国に同様の踏み絵を踏ませており、各国はその対応に追われている。これを見る限り、米中の対立は単なる経済や貿易の問題ではなく、世界の覇権をめぐる争いである。
 東西冷戦で経済的に敗北した中国は、改革開放路線に転換、最終的な自由化を世界に約束した。また、その約束の下で世界貿易機関WTO)に参加し、為替の自由化を前提に、国際通貨基金IMF)の特別引出権(SDR)入りを果たした。
 しかし、習近平国家主席はこれを守らず、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を掲げ、「中華民族の偉大な復興の実現」を目指すとしたわけである。また、南シナ海では、日米などの警告を受け入れず、人工島という名の「軍事要塞」を作り上げ、軍事支配を拡大している。それに対して、米国を中心とした北大西洋条約機構NATO)諸国などは「航行の自由作戦」という軍事作戦を展開、中国が領有権を主張する海域を自由に航行し、中国の実効支配を認めない威嚇行動を行っている。
 これは戦争であり、運よく軍事的な衝突がないだけの状態であるといえる。明確な冷戦であり、世界は既に戦争状態にあるといえる。そして、経済は戦争の道具の一つに過ぎないわけである。
 戦争に勝つためには、敵の兵站を断つことが常道である。第2次世界大戦での日本へのABCD包囲網がその典型であり、結果的に圧倒的な兵站差により敗北に至ることになった。

 中国による巨大経済圏構想「一帯一路」による他国の懐柔や拠点の構築、急激な軍事拡大も、その前提に中国の好調な経済とバブルにより膨れ上がった巨大な資金がなければ成立しない。また、これは現在のところ、米国が覇権を握る巨大な世界金融のシステムの上に成り立っており、ドルによる決済システムなしでは何も進まないのである。
 米国がその気にさえなれば、金融制裁などにより中国の4大国有銀行すらドル決済を禁じられ破綻に追い込むことが可能なのである。しかし、それを行えば、中国のみならず、他国の銀行や米国も無傷では済まない。
 実際に米中貿易戦争とその影響による世界的な景気の悪化により、好調だった米国経済にも陰りが見えており、それは日本も同様である。だからこそ、米国は急進的な戦略をとらず、時間軸を考えた段階戦術を選んでいるといえる。
 関税や知的財産権侵害がその典型で、中国が次世代の輸出の主力と考えてきた通信や半導体などを狙い撃ちしはじめている。また、米国は世界各国との貿易協議において「知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲(わいきょく)的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化および過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処する」という毒薬条項を入れ、各国に順守を強制している。これは将来的な中国排除の準備ともいえるものだ。現在、中国でしか作れないものは少なく、サプライチェーンが再構築されればその影響は限定されるのである。
【プロフィル】渡辺哲也
 わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は『突き破る日本経済』など多数。愛知県出身。
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