アニサキス幼虫による食中毒で営業停止を避ける方法6点!「酢でしめる」は効き目がない?

アニサキス幼虫による食中毒で営業停止を避ける方法6点!「酢でしめる」は効き目がない?

芸能人の相次ぐ感染の報告でも話題となったアニサキス幼虫による食中毒。感染すると胃や腸に激痛が起こるアニサキス幼虫による食中毒は、飲食店から生じた事例も多数報告されています。飲食店ではどのような対策が必要なのでしょうか?

アニサキス幼虫とは?

アニサキス幼虫は、長さ2~3cm、幅0.5mmほどの細く白い糸状の虫で、肉眼でも確認することができます。主にサバ、イワシ、カツオ、サケ、サンマ、アジ、イカなどの内臓表面に寄生し、鮮度が落ちると、内臓から筋肉に移動することが知られています。このアニサキス幼虫が寄生している魚類を、生で、あるいは不十分な熱処理で食することにより、アニサキス幼虫が胃壁や腸壁に侵入して「アニサキス症(食中毒)」を引き起こします。アニサキス症(食中毒)は、主に胃アニサキス症と腸アニサキス症に分けられ、症状の程度により劇症型と緩和型があります。緩和型アニサキス症の場合は、自覚症状がないケースも。しかし、劇症型アニサキス症は腹部(みぞおち)に差し込むような激痛が起こり、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。治療するためにはアニサキス幼虫を取り除くしか方法はありません。胃アニサキス症は内視鏡で摘出、腸アニサキス症はX線や超音波検査などを行い、内服薬を使った治療となることがあります。この「アニサキス症」発症の報告件数は年々増加の傾向にあり、厚生労働省の統計によると2007年は6件だった報告件数が、2016年には124件と20倍以上に増加しました。これは2013年の法令改正で「アニサキス症」が届け出の対象に明示されたことが一因にあるとの見方もありますが、一方、近年における魚の流通の変化も大いに影響している、ともいえるようです。例えば、回転寿司でも人気のサーモン(サケ)も昔ならば生で食すことはなかった魚。しかし、冷凍や輸送の技術が発達したことにより、生で提供すること、そして食することが現代では当たり前となりました。このように生食用の魚を仕入れやすくなったことから、居酒屋をはじめとした飲食店でも、魚類の生食提供が近年増えつつあります。また、新鮮さや希少性をアピールしたメニューとして、サンマやホッケ、タラなど、加熱処理が当然だった魚の刺身もさまざまな業態の飲食店で見られるようになりました。

アニサキス幼虫で食中毒を起こしてしまったら営業停止に!

経営する飲食店(販売店)が提供・販売した飲食物が原因でアニサキスによる食中毒などの健康被害が生じた場合、飲食店は食品衛生法に基づき営業停止の処分を受けることとなります。被害状況によって処分の程度の違いはありますが、たとえ被害を最小限に抑え、その後の対応を誠実に行ったとしても、風評被害等により廃業に追い込まれる可能性が十分にあります。飲食店ではまず、食中毒被害を出さないよう、予防を徹底することが重要です。

アニサキス幼虫で食中毒を起こさないための予防方法

飲食店にとってはこれまで築き上げてきた信用を一瞬で失いかねないアニサキス幼虫による食中毒。アニサキス幼虫で食中毒を起こさないために、飲食店ではどのような対策を講じることが必要なのでしょうか?

新鮮な魚を選ぶ

飲食店が生で魚を提供する場合、まずは新鮮な素材を選ぶこと、見抜くことが第一です。特に高い確率で多数のアニサキス幼虫の寄生がみられるサバ、タラ、サケ、ニシンなどは、より一層、注意の目が必要です。1尾まるごと魚を仕入れた際は、低温保管(4℃以下)を徹底しましょう。6℃以下を保った冷水では、アニサキス幼虫は渦巻状を呈し、活動が止まります。そのため、低温での保管を徹底すればアニサキス幼虫が寄生する内臓から筋肉(身の部分)への侵入を防ぐことができるといわれています。

魚の内臓を提供しない

アニサキス幼虫は新鮮な魚の内臓部分に多く寄生しています。魚の身を卸した後は、内臓をえぐり取るようにし、素早くゴミ容器に移しましょう。まな板に長時間内臓を置いておくと、アニサキス幼虫が内臓から這い出て、卸した身や皿などに付着する可能性があります。魚を卸した後はまな板や包丁を素早く水洗いし、手指も常に清潔を保ちましょう。

目視で確認

アニサキス幼虫の体長は2~3cm、幅は0.5mmほど。色は白く、太めの糸のような形状をしているので、肉眼でも十分に確認することができます。複数の従業員がいる場合は、なるべく2名以上での目視確認を心がけましょう。慣れてくれば簡単に見つけられるようになります。

冷凍する

アニサキス幼虫は、マイナス20℃以下、24時間以上の冷凍で死滅します。飲食店ではあらかじめ冷凍加工された魚のみを仕入れれば、アニサキス幼虫による食中毒はおおよそ防ぐことができます。海外では生食用の魚の冷凍保存を義務付けている国もあるほど、安全に魚を食するためには有効な処理方法です。鮮度にこだわり、一切、冷凍物を使わないことを“ウリ”にしている飲食店もありますが、このような飲食店ほど被害が出やすいという報告も出ています。冷凍物を使わない飲食店では、“冷凍”以外の対策を徹底する必要があります。

加熱する

いちばん簡単かつ確実にできる対策が「加熱」による処理です。アニサキス幼虫は熱に弱く、60℃以上で1分以上加熱すれば死滅します。ただし“炙り”など、身の表面のみを加熱する調理法ではアニサキス幼虫は死滅しません。加熱処理でアニサキス幼虫による食中毒を予防するためには、最低でも魚の身のすべてに火が入る程度の加熱が必要です。感染例の多いサバ、サケ、タラなどは、本来ならば加熱向きの魚です。飲食店では可能な限り生食での提供を避け、加熱調理して提供することで、食中毒のリスクは十分に回避することができます。

切り刻む

アニサキス幼虫は傷が付くとすぐに死んでしまうという性質があります。よく噛んで飲み込むことでアニサキス幼虫による食中毒は回避されるとも言われていますが、これはお客様の口の中に入ってからの話。飲食店ができることは刺身などに細かな“切れ目”を入れること。一般にイカの刺身などには切れ目(スリット)が入っている場合がありますが、実はこれもアニサキス幼虫による食中毒対策としては有効な方法なのです。サンマやアジなどは、細かく切り刻み、“たたき”として提供するのも対策の一つとなります。

酢でしめたら大丈夫?

アニサキス幼虫による食中毒の症例で多いものに「しめ鯖」があります。昔から殺菌作用があるとされる酢。食中毒対策の基本として、酢やレモンを利用するという方法はよく耳にしますが、アニサキス幼虫は酢やレモンなどの調味料を使った下処理では死滅しません。もちろん、わさびや醤油でも同様です。そもそもアニサキス幼虫は胃酸の中でも生き残るほど強靭で手強い寄生虫。調味料では死滅しないということをしっかりと認識しておきましょう。なお、しめ鯖を作る際は生サバではなく、一度冷凍処理されたサバを利用しましょう。調理済みのしめ鯖を扱う際も、材料となったサバが生サバなのか、冷凍処理されたサバなのかを業者に確認してから仕入れるようにすると安心です。
魚を生で食する習慣のある日本において、アニサキス幼虫による食中毒の発生リスクはどうしてもゼロという訳にはいきません。とはいえ、アニサキス幼虫による食中毒の予防策は「目視確認」「冷凍」「加熱」など、基本的なことばかり。魚類を扱う飲食店としては、まず、これらの予防策を徹底し、食中毒発生のリスクを限りなくゼロに近づけられるよう対策していきましょう。

文/canaeru編集部