ソフトバンクの財務に打撃も、米子会社合併に暗雲

ソフトバンクの財務に打撃も、米子会社合併に暗雲

ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長 Photo: Sho Tamura/Zuma Press
 【東京】米携帯電話大手スプリントとTモバイルUSの合併計画に遅延が生じる可能性が出てきたことで、世界の有力スタートアップ企業に資金を投じるというソフトバンクグループの野望が脅かされている。
 昨年発表されたソフトバンク米子会社のスプリントとTモバイルの合併が実現すれば、ソフトバンクは数百億ドル規模に上るスプリントの債務をバランスシートから切り離し、グループ全体の巨額債務を圧縮できる見通しだ。そうなれば、資金調達に関するソフトバンクの選択肢が広がり、すでに1000億ドル(約11兆2000億円)規模の投資ファンドを運営する同社の投資余力をさらに高めることができる。
 17日の東京株式市場で、前日に19年ぶり高値をつけていたソフトバンクは1.5%下落して終えた。米司法省の弁護士が全株式交換方式によるスプリントとTモバイルの合併計画について、競争を阻害するとして懸念を示しとのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道が売りを誘った。
 Tモバイルのジョン・レジャー最高経営責任者(CEO)は、WSJ報道の冒頭で伝えられている内容を巡り「単純に事実と異なる」とコメントした。スプリント会長で、ソフトバンクグループの最高執行責任者(COO)も務めるマルセロ・クラウレ氏はツイッターで、米当局との協議は現在も続いているという以外にコメントできないと述べた。ソフトバンクの広報担当者はコメントを控え、スプリントに質問するよう促した。
 ソフトバンクはスプリント株の87%を所有しており、スプリントの問題が経営の足かせとなっている。スプリントとTモバイルはこれまで、7月までの合併完了を目指す考えを示していた。
 スプリントは15日、米連邦通信委員会FCC)への提出書類で、スプリントは400億ドルに上る「巨額の債務負担」に苦しんでおり、スプリントは「米連邦破産法第11条の手続きを通じてバランスシートを再建することが可能」とするアナリストのリポートに言及した。
 ニュー・ストリート・リサーチのアナリスト、ピエール・フェラグ氏は投資家向けノートで、スプリントはTモバイルとの合併が実現しなかった場合、200億ドルの資本注入が必要になるとの見方を示した。
 ソフトバンクの長期債務は昨年12月末時点で17兆円余りに上る。これに対し、現金および現金等価物はその約3分の1の水準だ。
 ソフトバンクは一連の投資を行う原資を確保するため、昨年12月に国内の携帯電話子会社を上場させ、約2兆6000億円を調達した。これを受け、格付け会社S&Pグローバル・レーティングは、ソフトバンクの格付け見通しを「ネガティブ」から「安定的」に引き上げた。格付けそのものはジャンク級(投資不適格級)に据え置かれている。
 またソフトバンクは今週、国内投資家向けに社債(利率1.64%)の発行にも乗りだし、5000億円の調達を目指している。預金金利がゼロ近辺に張り付いている中、利回りを求めて個人投資家の応募に殺到しているもようだ。

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 だが、スプリントとTモバイルの合併に遅れが出れば、さらなる資金調達が困難になり、格付け会社ソフトバンクの信用格付けの見直しに動く可能性もある。
 ソフトバンクグループの財務は、国内携帯電話子会社のキャッシュフローが支えてきた。だが、ネット通販大手の楽天ソフトバンクと同じ客層を狙い、格安サービスを掲げて携帯電話市場に新規参入を予定しており、ソフトバンク子会社は楽天からのリスクにさらされる可能性がある。