アナリストの「本音」と株価を動かす「期待」の正体、アナリストが明かす

アナリストの「本音」と株価を動かす「期待」の正体、アナリストが明かす

2019年5月10日(金)13時35分
星野涼太 ※株の窓口より転載

Warchi-iStock.
<株価が動く要因としてよく取り沙汰される「市場の期待」とは何か。現役アナリストがオリンパス株急騰の背景を読み解き、セルサイド・アナリストの「事情」とレポートの読み方を解説する>

市場の「期待」を読み解く

●取締役に米ファンド人材の迎え入れを発表し、急騰
医療機器やデジカメの製造・販売を手掛けるオリンパス<7733>。個人投資家にもなじみ深いこの会社は2019年2月、米系ファンドであるバリューアクト・キャピタル・マネジメントから取締役を招き入れる計画を明らかにした。
今回新たにオリンパス経営に加わるバリューアクトのジム・C・ビーズリー氏は、医療機器のグローバルカンパニーである米CRバード社での経営実績もある医療ビジネスの専門家だ。
オリンパスは、経営陣に外部の血を注入し、医療ビジネスを中心とした変革プランを進めていくという方針を、以前にも公表している。これらのリリースを受け、オリンパスの株価は急騰した(下図)。
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(Chart by TradingView
つまり、これらのリリースは「株式市場から好感された」ということだ。では、市場は具体的にどのような変化を期待しているのだろうか?
●資本効率の改善による株主リターン拡大への期待
オリンパスは主に3つの事業を展開している。

内視鏡や外科関連機器を提供する医療事業
・顕微鏡やファイバースコープといった産業用機器を提供する科学事業
・デジカメやICレコーダーなどを提供する映像事業

この中で、医療事業はオリンパスの主力だ。セグメントの売上は全体の約70%を占め、利益に至っては100%を超える。医療事業で生み出した利益を他事業での赤字や本部での諸費用が削るという構造となっており、オリンパスの業績は医療事業に大きく依存していると言える。
しかし、これほど優良な事業にもかかわらず、その収益性・成長性のポテンシャルは最大限に発揮されていない。なぜなら、オリンパスは負債による調達が少なく、株主からみた資本効率が悪いのだ。
この医療事業の収益性を踏まえると、負債を積むことでROE自己資本利益率)を高め、それによって株主のリターンを大きく増やせるだろう──急騰したオリンパスの株価からは、市場がこうしたシナリオを期待していることが読み取れる。
●安全運転経営は過去の苦い経験が尾を引いている
そもそも、負債の少ない安全運転経営には歴史的な背景がある。オリンパスは2011年、過去の金融取引に絡んだ巨額損失を隠蔽していたことが判明。それが大きなネガティブサプライズとなり、株価は大幅に下落した(下図)。
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(Chart by TradingView
発覚した損失によって2012年3月期の最終損益は490億円の赤字となり、自己資本比率は急激に低下。債務超過に陥る事態も懸念された。その後、ソニーなどから増資を募り、財務危機を回避。利益の内部留保や負債返済なども奏功し、現状の安全運転経営へとつながった。
このようにして債務超過上場廃止の危機を脱せられたこと自体は、言うまでもなく、投資家にとって喜ばしいことだ。だが、少額負債による過度な安全運転もまた問題である。