空気電池、動力に「軽さ革命」

空気電池、動力に「軽さ革命」
NextTech 2030

日経産業新聞
科学&新技術
2019/5/31 4:30
日本経済新聞 電子版
NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞
従来のリチウムイオン電池よりもはるかに軽いという特徴を持ち、究極の畜電池とも呼ばれる「リチウム空気電池」の実用化が見えてきた。物質・材料研究機構は空気電池の研究で世界をリードし、充放電の回数を上げ、実用化に適した形にリチウム空気電池を改良した。ドローンや、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」が進んだ2030年ごろには、リチウム空気電池が端末の動力源として使われているかもしれない。
物材機構はリチウム空気電池を積層して実用化に近づけた(久保チームリーダー提供)
物材機構はリチウム空気電池を積層して実用化に近づけた(久保チームリーダー提供)
都会の空をドローンが縦横無尽に飛び交う。人々はサングラスのように装着したウエアラブル端末で行き先を調べたり、友人と会話を楽しむ。10年後には、こういった生活が当たり前になるかもしれない。そんな小型で軽量な装置の動力源として働くのがリチウム空気電池だ。
最大の特徴は、軽さだ。リチウムイオン電池は、正極側ではコバルトなどの金属を、負極には炭素素材を利用してリチウムを保持する。
これに対し、リチウム空気電池は正極側に金属ではなく多孔質の炭素材料を使い、リチウムと酸素の化学反応を利用する。負極側には金属リチウムを使う。放電時は負極側でリチウム金属がリチウムイオンに変わり、正極側で酸素とリチウムイオンが反応して過酸化リチウムを作る。レアメタルなどを使わず、またリチウム金属は非常に軽い。
そのためリチウム空気電池はエネルギー密度が非常に高い。リチウムイオン電池に比べ、10倍以上高くできると計算されている。1回の充電で長く使えるようになり、例えばリチウムイオン電池で約15分飛ぶドローンであれば、リチウム空気電池なら同じ重さで1時間以上は飛べる。価格も安くなるという。
一方で、完全な実用化に向けては課題も残る。その1つが電池の寿命だ。充放電を繰り返すと、電解質の劣化や負極側でリチウムの析出が起こり、電池が壊れる。現在は数十回が限界で、「実用化には数百回の充放電に耐える必要がある」と、物材機構の久保佳実チームリーダーは話す。
久保チームリーダーらは、18年には正極にレアメタルを混ぜ、条件を整えて100回を超える充放電を達成。電解液を改良すればさらに回数を増やせるとみている。
また将来の実用化に向けて、電池を使いやすい形に改良する研究も進める。電池として使うには、リチウム空気電池の層を積み重ねるが、その積層が密閉されると機能が落ちる。久保チームリーダーらは、セルの間に多孔質の材料を挟むことで、空気電池全体に酸素が行き渡るようにした。その後、セルを10枚積み重ねて充放電ができ、高エネルギー密度も維持できた。
リチウム空気電池は安全性や充電に時間がかかるなど、実用化への課題はまだ多い。
だが、実現したときの社会への影響は大きいため、企業も注目する。物材機構は18年からソフトバンクとリチウム空気電池の共同研究を進め、25年には試作品の完成を目指す。「そのためにもあと1~2年で数百サイクルに到達したい」と久保チームリーダーは意気込む。(福井健人)

リチウムイオン電池が発売されてから20年以上がたち、電気自動車や蓄電池など幅広い用途に使われてきた。一方で、エネルギー密度の限界や安全性の課題なども表面化している。リチウムイオン電池の欠点を補う次世代電池の開発が活発になっている。
 リチウム空気電池の最初の論文が発表されたのは1996年。過酸化リチウムを使った充放電が可能だと示された。ただ当時は1回の充放電で壊れてしまった。そこからおよそ15年間は充放電の回数が全く伸びず、研究は下火になっていた。
 次の革新は10年代に入ってから。新たな電解液を探す研究が始まった。するとすぐに20回を超える充放電が可能になった。そこから世界で研究が活発になり、米やEUなどで相次いで大型プロジェクトが始動。日本でも13年に国家プロジェクトが始まった。
 数年間で充放電は100回近くまで伸び、実用化への道筋が見えてきた。ただ実際にあらゆる場面で使うレベルの充放電を可能にするには、もう一つ大きな壁を越えなければいけない。「今後はなぜ電池の性能が落ちるかを調べる基礎研究も重要になる」と久保チームリーダーは話す。いよいよ実用化を見据えた研究開発が熾烈になってきた。