「ウサデン」防衛、日米協力を 客員論説委員 土屋 大洋

「ウサデン」防衛、日米協力を 客員論説委員 土屋 大洋

中外時評
2019/5/29 2:00 日本経済新聞 電子版
日本へのサイバー攻撃に対する防衛協力などを扱った日米2プラス2の協議を終え、記者会見する河野外相(左から2人目)。左端は岩屋防衛相=4月19日、ワシントン(共同)
日本へのサイバー攻撃に対する防衛協力などを扱った日米2プラス2の協議を終え、記者会見する河野外相(左から2人目)。左端は岩屋防衛相=4月19日、ワシントン(共同)
2018年12月に新しい防衛計画の大綱が閣議決定された。防衛大綱は10年程度の視野で今後の安全保障政策の指針を定めるものである。今回の大綱のキーワードは多次元統合防衛力である。
特に注目されたのは、陸、海、空に続く第4の作戦領域としての宇宙、第5のサイバースペース、そして日本独自のアイデアとして第6の電磁波を加えたことである。これら3つの新しい領域は頭文字をとって「ウサデン」と呼ばれている。
宇宙もサイバースペースも10年と13年の大綱で触れられているが、出現頻度を調べてみると、18年の大綱では前回からそれぞれ3倍以上になっている。電磁波については、前回も前々回も触れられておらず、急に注目されたことが分かる。
多次元統合といいながら、「多次元」という言葉は18年の大綱で2回しか出てこない。むしろ急増したのは「領域」という言葉だ。13年の大綱で2回だけだった「領域」は、18年の大綱では実に64回も出てくる。多次元統合とは、6つの領域を重ね合わせていくことを意味している。
多次元統合の原案は、米国のオバマ政権時代に出てきた「クロスドメイン(領域横断)」という考え方である。エア・シー・バトル(空海統合戦闘)という概念が典型的なように、2つの領域をまたいで作戦活動が行われるようになることを意味した。かつては制海権や制空権のように1つの領域を制することができれば戦闘で優位に立つことができたが、海軍と空軍のように2つの領域を組み合わせる必要が出てきた。
さらに、トランプ政権が成立するころには、陸、海、空、宇宙、サイバースペースの中の複数の領域を横断し、同時に作戦活動が行われるようになるため「マルチドメイン(多領域横断)」がキーワードになっている。
陸、海、空、宇宙は自然領域なのに対し、サイバースペースは人工領域である。通信端末、通信回線、記憶装置、そしてそれらを介して飛び交うデータの集合体である。
サイバースペースは4つの自然領域を結びつける存在として重要である。海軍と空軍が連携するとしても、通信なくしては成り立たない。軍が作戦活動にインターネットを使うことはほとんどないが、それでも類似のサイバーシステムが使われる。インターネットを包含しながら、その外に拡大するサイバースペースの維持が作戦活動には不可欠である。
そのサイバースペースに機能不全を起こさせるのが電磁波攻撃だ。
電磁波は医療、通信、放送、電力、交通などさまざまなところで使われており、軍事システムにおいても重要な役割を果たしている。
電磁波を狙った攻撃は難しいとされてきたが、サイバー戦と並んで可能性が高まってきている。サイバー攻撃によってシステムがソフトウエア的に破壊されることがあるが、電磁的に攻撃されれば、ネットワークがまひして通信ができなくなる。各種の社会システムも止まってしまう。
多次元統合が未来の戦いの方向を示しているとすれば、その弱点を狙う攻撃を敵は検討するだろう。統合された作戦活動を追求するとともに、統合できなくなったときの対応も考えておかなくてはならない。位置情報が使えなくなった艦船や航空機は目的地へ到達できるのか。猛スピードで飛んでくる弾道ミサイルを打ち落とすための迎撃ミサイルをどちらへ向けて撃てばよいのか。
電磁波領域は自然領域でもあり、人工領域でもある。それは周波数によって切り分けられ、使用目的と使用者が決められている。しかし、日本の周波数の少なからぬ部分が第2次大戦後、米軍によって使われている。
既存の領域にウサデンを統合するだけでなく、日米の共同も防衛大綱が強調する課題であり、電磁波領域は今後、日米の防衛当局と総務省が協力して解決していくべき政策課題のひとつである。