降旗康男監督、敗者の美学貫いた映画人生

降旗康男監督、敗者の美学貫いた映画人生

文化往来
2019/5/30 6:00
「人間の美しさ、琴線に触れる部分は、負けた人、失敗した人の生き方の中にしか見いだせないのではないか。成功者に興味はない」
降旗康男監督は現場では言葉少なに俳優の演技を見守っていた
降旗康男監督は現場では言葉少なに俳優の演技を見守っていた
20日に世を去った降旗康男監督は、そんな敗者の美学を描き続けた人だった。射撃選手としての重圧から家族を失った刑事(「駅 STATION」)、組合運動の筋を通して退社した男(「居酒屋兆治」)、廃線間近のローカル線の駅長(「鉄道員」)。不器用だが真っすぐな男を高倉健が演じ、高倉の後期の代表作となったが、それは降旗の資質でもあった。大勢に迎合せず、はじかれてしまった人々を描くという点で、デビュー作「非行少女ヨーコ」から「新網走番外地」シリーズ、自身の戦争体験を原作に重ねた「少年H」、孤児たちの再会を描いた遺作「追憶」まで一貫していた。
撮影現場では静かな人だった。コンビを組んだ撮影の木村大作が大声で現場を取り仕切るのとは対照的で、目立たず、言葉少なに俳優の演技をじっと見ている。俳優たちには「そのまま、その人として、立っていてくれたらいいんです。映画は映るんです。映り方なんです」と語り、あれこれと演技指導はしない。それなのに完成した映画はどれも降旗の色に染まっていた。真贋(しんがん)を見抜く冷徹なまなざしが降旗美学の根底にあった。
(古賀重樹)