「中国共産党こそ真の敵」アメリカ国防総省、最新報告書の衝撃

中国共産党こそ真の敵」アメリカ国防総省、最新報告書の衝撃

あきらかにギアが一段上がった

これは自由と抑圧の戦いである

米国が中国との対決姿勢を強めている。国防総省が発表した最新の報告書は「自由や公正、ルールに基づく国際秩序」といった価値観を重視し、それを守るために、米国が同盟国や友好国と連携を強化する方針を強調した。これは何を意味するのか。
国防総省は6月1日、2019年版の「インド太平洋戦略報告」を発表し、シャナハン国防長官代行が同日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議での演説で骨子を明らかにした(https://media.defense.gov/2019/May/31/2002139210/-1/-1/1/DOD_INDO_PACIFIC_STRATEGY_REPORT_JUNE_2019.PDF)。日本では読売新聞を除いて、大きく報じられていない。そこで、重要なポイントをいくつか指摘しよう。
この報告で、まず目を引いたのは、国防総省が「国家間の戦略的競争」を「自由な世界秩序を目指す」勢力と「抑圧的な世界秩序を目指す」勢力との地政学的な競争関係と定義した点である。そんな競争関係こそが「米国の安全保障上の最大の懸念」と指摘した。
一見、読み飛ばしてしまいがちだが、こういう「戦いの定義」にこそ問題の核心が示されている。抑圧的勢力とは、ずばり中国だ。シャナハン氏が署名した序文は、次のように書いている。
中国共産党が支配する中国は軍備の近代化や影響力の行使、さらに他国を強制的に従わせるような略奪的な経済手段によって、自国が有利になるように(インド太平洋)地域を再編しようとしている(序文1ページ)。
米国は「自由vs.抑圧」こそが、米中対決の本質と捉えているのだ。こうした認識は2017年12月の「国家安全保障戦略(NSS)」や18年1月の「国家防衛戦略(NDS)」、あるいは18年10月のペンス副大統領演説にも示されていたが、今回は「抑圧との戦い」という表現で一層、明確にした(2018年10月26日公開コラム、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58138https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57929)。
この定義を見ると、私はかつての「トルーマン・ドクトリン」を思い出す。
トルーマン米大統領は1947年3月、ソ連との緊張が高まる中、「ソ連は恐怖と圧政、統制された出版と放送…で成り立っている。米国は武装した少数派や外圧による征服の意図に抵抗する自由な諸国民を支援する」と演説した。
ソ連との冷戦開始を宣言した歴史的な演説である。後に「トルーマン・ドクトリン」として知られるようになった。この演説の核心である「圧政vs.自由」の戦いとは、まさに今回の「自由vs.抑圧」ではないか。

「中国国民」と「共産党」は別物

この1点を見ても、国防総省が今回まとめた「インド太平洋戦略報告」はかつてのトルーマン・ドクトリンのような「トランプ・ドクトリン」に相当する、と言っていい。トランプ政権の中国に対する見方が軍事だけでなく、経済や価値観を含めて簡潔に示されている。
私はトルーマン・ドクトリンを紹介した昨年のコラムで「これから米国に予想されるのは『トランプ・ドクトリン』と『包括的な対中戦略』の策定、それに『対中輸出規制の強化』ではないか」と書いた(2018年11月23日公開コラム、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58609)。
ドクトリンだけでなく「対中輸出規制の強化」も、華為技術(ファーウェイ)に対する米国製品の輸出禁止措置で現実になった。半年前は米中対決を単なる貿易摩擦と捉える見方が多かったが、その後の展開は、まさに米中新冷戦の開始を物語っている。

もう1点、私が注目したのは、先の引用文にある「中国共産党が支配する中国」という表現だ。原文は「the People's Republic of China, under the leadership of the Chinese Communist Party」となっている。

この言い回しは、中国を名指しした部分で何度も出てくる。単に中国と言わず、必ず「中国共産党が支配する」という枕詞を付けているのだ。これが何を意味するか。トランプ政権は「中国という国が敵なのではなく、中国共産党こそが真の敵」とみなしているのだ。
米国にとって打倒すべき相手は中国という国ではない。中国共産党の支配体制である。その点は、本文の次の部分を読むと、一層、明確になる。
おそらく、中国以上に自由で開かれた地域や国際システムから利益を享受できる国はない。また、中国は数億人の人々が貧困を脱して、繁栄と安全を手にしたのを目撃してきたはずだ。
だが、中国国民が自由市場や正義、法の支配を渇望しているにもかかわらず、中国共産党が支配する中国は、自国の利益をむさぼることによって、国際システムを傷つけると同時に、ルールに基づく秩序の価値や原則の数々を侵食している(7ページ)。
ここでは「中国国民」と「中国共産党が支配する中国」をはっきりと使い分けている。普通の国民は自由市場や正義、法の支配を求めているのに、中国共産党が「ルールに基づく秩序を無視している」と断じている。「悪者は共産党」という認識なのだ。

習近平を名指しで批判

習近平国家主席を名指しして、責任を追及した部分もある。
中国が2018年に南沙諸島の島々に対艦巡航ミサイルや長距離地対空ミサイルを設置したのは、習近平国家主席が2015年に「中国は南沙諸島の軍事化を追求する意図はない」と公言した誓約に違反している(8ページ)。
習氏の誓約とは、15年に米国を訪問した際、当時のオバマ大統領が「南沙諸島で軍事基地を作っているのではないか」と追及したのに対して、習氏が「軍事化の意図はない」と明言し、記者会見でも同様に否定した経緯を指している。
米国は「こともあろうに、私たちの大統領にホワイトハウスで真っ赤なウソを言ったのは、後にも先にも中国の習氏だけだ」と激怒していた。その怒りはいまだ収まらず、今回の報告でも「米国を欺いた習氏」として紹介されている。
報告は米国の安全保障を経済や国の統治機構も含めた奥深い問題として記述している。いまは貿易問題に焦点が当たっているが、安全保障と表裏一体で捉えているのだ。軍事を担当する国防総省の報告書であることを考えると、トランプ政権の認識の厳しさがうかがえる。
そんな中国に、米国はどう立ち向かうのか。
報告は「準備体制」と「パートナーシップ」「地域のネットワーク化促進」という概念で説明した。準備体制とは文字通り、統合軍がいかなる戦闘でも勝利できるように体制を整えておく。パートナーシップやネットワーク化は日本や豪州などとの連携強化である。
米国は日豪などと連携し、インド太平洋の自由勢力が「中国を封じ込めていく」決意を固めている。しかも「中国共産党体制の打倒」という具体的、かつ衝撃的な目標をにじませて、あきらかにギアを一段上げた。ここから先は、日本も難しい舵取りを迫られる。