塩分の摂りすぎ? それは本当か

塩分の摂りすぎ? それは本当か

平均余命が最も長くなる摂取量は1日3000~5000ミリグラム

塩分摂取の適切な量とは?
塩分摂取の適切な量とは? Photo: Getty Images
――筆者のマイケル・H・アルダーマン博士はアルベルト・アインシュタイン医科大学の名誉教授、 デビッド・A・マカロン博士はオレゴン州ポートランドの医師
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 食事に関するガイドラインはよく変わるが、「塩分摂取量の制限」は科学の進歩にあらがっている。米医学アカデミーは最近、1日のナトリウム摂取量を2300ミリグラム(食塩で小さじ一杯程度)に制限するガイドラインを再確認した。循環器疾患のリスクがある人は1日1500ミリグラムだ。医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に先週掲載された記事もこのガイドラインを支持し、米品医薬品局(FDA)に対して150の食品カテゴリーにナトリウム摂取量の自主制限を課すよう呼びかけた。
 こうしたガイドラインは科学の発展を無視するものであり、健康に害を及ぼす可能性もある。われわれは今年3月、世界100万人以上のナトリウム摂取量に関する約60年の研究をまとめる記事を医学誌ランセットに出した。われわれが発見したナトリウム摂取量の「スイートスポット」、つまり疾患リスクが最も低く、平均余命が最も長くなる摂取量は1日3000~5000ミリグラムだ。通常のガイドラインよりかなり多い。ナトリウム摂取量が1日3200ミリグラムを下回ると全死因死亡率が高まり、平均余命が劇的に縮まる。
 適切な量のナトリウムは、神経伝達や筋収縮、栄養と酸素を体の隅々まで運ぶ血流を確保するのに必要な体液平衡といった生物学的プロセスに不可欠だ。NEJMで最近、再考察されたように、人間の生理機能は体内のナトリウム濃度を厳密に保つよう、脳を介して複雑に進化してきた。ナトリウム摂取量があまりに少ない場合、濃度を保とうと腎臓は極端な働き方をするだろう。逆に摂取量が多過ぎれば、余分なナトリウムは皮膚や腸、腎臓を通じて排出される。死をもたらす要因としては、こうした体内濃度を保つ機能の不全の方が、塩分が血圧に与える影響よりもはるかに高い。
 人々は自分の体が発する声にきちんと耳を傾けている。政府や提唱団体の奮闘むなしく、平均的米国人のナトリウム摂取量は1日3600~3700ミリグラムで一定している。英国では2005年、加工食品に含まれるナトリウムの量を減らすよう政府が不断の努力を行った。FDAは今、同じことをするよう求められている。しかし英国人が変えたのは食習慣の方だった。英政府は2014年、ナトリウム含有量の削減は摂取量の大幅な変化にはつながらなかったとの報告をまとめた。

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 ナトリウム摂取量の健全な範囲について米医学アカデミーの推奨と科学的な裏付けに著しい差があるのを理解しておくことは、国民の健康にとって非常に重要だ。血中ナトリウム濃度が少しでも減れば、健康な人の死亡率が上昇することが見込まれる。これはまだ十分に分かっていないことだが、脳が血中ナトリウム濃度を維持できる能力の下限(その範囲は狭い)を下回るほど摂取量が少なくなると、健康リスクが高まることをわれわれは知っている。特に健康な中高年ではリスクが約2倍に高まる。同等なリスクの増加は病人や高齢者にもある。入院中の血中ナトリウム濃度の低下は入院期間の長期化や病院内での死亡などに関連する。もし、英国の経験とは逆にFDAによる規制でナトリウム摂取量が減ることになれば、米国民にとってのリスクは増大することになる。
 米農務省と米保健福祉省は現在、5年ごとに改定する食事ガイドラインを協議しており、その発表は来年に予定されている。政府の食事ガイドラインには入手可能な証拠がすべて盛り込まれるべきだ。ただ幸いにも、いかなる政府の方針もわれわれの塩への欲求をひっくり返すことはない。