【オピニオン】トランプ氏はなぜ欧州を嫌うのか

【オピニオン】トランプ氏はなぜ欧州を嫌うのか

EUは弱過ぎリベラル過ぎるうえ、貿易では反米的過ぎるとみている

トランプ大統領(2日、ホワイトハウス)
トランプ大統領(2日、ホワイトハウス Photo: Sarah Silbiger/Zuma Press
――筆者のウォルター・ラッセル・ミードは「グローバルビュー」欄担当コラムニスト
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 「彼はなぜ私たちを憎むのか」。ドナルド・トランプ米大統領が話題に上ると、米国の外交政策通は欧州の友人からよくこう聞かれる(この話題はよく出る)。今週はトランプ氏とマイク・ポンペオ国務長官が欧州を訪れていることから、答えを探るのに適したタイミングだろう。
 悪い知らせばかりではない。トランプ氏と政権幹部が中国について話す時には、同国は世界覇権を断固追求する過程で国際システムを悪用していると批判する。欧州に対する彼らの解釈は違う。機能不全の政策、世界政治に関する非現実的なアイデア、お粗末な制度が相まって、欧州は衰退の道を抜け出せないのだと考えている。トランプ政権の見方では、自分たちは欧州の弱体化を図っているのではなく、欧州を欧州から救おうとしている。
 トランプ氏の欧州連合EU)批判には5つの要素がある。最初に、一部の「新ナショナリスト」の考えでは、EUのような国際機関は国民国家の政府よりもかなり弱く、効力が小さい。そのためにEUの発展が西側全体としての連携を弱めたほどだ。この見解によると、国民国家が協力するのは良いことで、それを通じて単独ではできないことを実現できる。しかし、その協力を過度に制度化しようとするのは間違いだという。その結果生まれる官僚組織や複雑な政治および意思決定プロセスは、政策をまひさせ、世論を遠ざける。それが作り出す集合体は、個々を合わせた合計よりもかなり小さくなる。
 トランプ氏にとって2つ目の懸念は、EUがあまりにドイツ的なことだ。トランプ政権の一部が考えるように、ドイツへの傾斜は、欧州が金融・財政政策に関してはタカ派過ぎること、防衛についてはハト派過ぎることを意味する。財政・金融の束縛が欧州の成長を圧迫する一方、ドイツが北大西洋条約機構NATO)加盟国としての合意目標の達成を拒否しているため、NATOが全体として弱体化している。
 3つ目の懸念は、EUがリベラル過ぎること。つまり経済統制が行き過ぎている一方、社会問題についてあまりに進歩的だとの懸念だ。国家統制主義的な経済政策は欧州の活力と成長を損ねるというのは米保守派に共通した考えだが、トランプ氏はこれに加え、欧州の移民政策――特にドイツのアンゲラ・メルケル首相が2015年に表明した、イスラム教徒を中心とする移民100万人以上の受け入れ――は悲劇的な間違いだと信じているようだ。
 4つ目の問題は、EUが死刑や気候政策、グローバル・ガバナンスやジェンダーといった事柄に関する主張を輸出しようとしていることだ。ジャクソン主義の米国のポピュリストは、事実上全ての形式のグローバル・ガバナンスをひどく疑っている。それに加え、EUが特に熱心なLGBTQ(性的少数者)、パレスチナ国家、二酸化炭素抑制といった課題の多くは、必ずしも米国のジャクソン主義者の好みに一致する訳ではない。
 トランプ氏が欧州を嫌う最後の理由は、貿易だ。世界政治の中でEUが最も効果的に活動する分野である貿易について、米国の力を抑え、通商交渉における米国の優位性を低減するための手段だと考えている。
 和解への道はあるのだろうか。貿易問題と欧州のNATO拠出金を巡る問題は、正しい妥結によって解決される公算が大きい。だが価値観を巡る問題はもっと難しい。ジャクソン主義者が米国の政治で影響力を持ち続ける限り、グローバル・ガバナンスの強化と宗教色のない進歩的な価値観を促進する欧州の動きはワシントンで抵抗に遭うだろう。
 だがジャクソン主義の米国は、EUの普遍主義的な野心にとって唯一の障害でも最大の障害でもない。中国、ナイジェリア、ロシア、インド、日本、トルコ、ブラジルといった国はいずれも、欧州の価値観に対する関心を弱めているように見える。
 トランプ氏が英国のナイジェル・ファラージ氏やハンガリーオルバン・ビクトル首相といった反EU派をたたえると大きな関心を集めるが、本当の危険は別のところにある。EU嫌いでトランプ氏のはるか上を行く、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領だ。欧州にとって悪夢のシナリオは、トランプ氏がホワイトハウスでファラージ氏やフランスのマリーヌ・ルペン氏と会談することではない。欧州の頭越しにプーチン氏と合意することだ。
 そうした事態が進行している可能性を示す兆しが幾つかある。プーチン氏は最近、イランへの地対空ミサイルシステム「S400」売却を拒否した。トランプ氏はロシアの顧問団がベネズエラを出国したとツイートし、崩壊しつつあるマドゥロ政権からロシアが距離を置きつつあることを示唆した。これを受けて神経質な欧州の外交官らは、米国がウクライナや対ロシア制裁を巡る方針を軟化させるかどうかを注視するだろう。
 欧州にとってトランプ氏に対する最良の対応は、同氏と口論することではなく成功することだ。防衛費を負担しながら知的な方法で戦略的利益を追求する、経済的に力強い欧州は、常に愛されるわけではないかもしれないが、尊敬を集めるだろう。