「ジョー」がみつめる漫画の明日 ちばてつや氏に聞く

「ジョー」がみつめる漫画の明日 ちばてつや氏に聞く

コラム(ビジネス)
北関東・信越
2019/6/8 7:00
あしたのジョー」などで知られる漫画家のちばてつやさんが4月、文星芸術大学宇都宮市)の学長に就任した。ちばさんは日本経済新聞のインタビューに、未来の漫画の姿を「キャラクターが話しかけてきたり、キャラに触ったりできるようになる」と指摘。宇都宮市内の他大学との連携などを通じ、漫画とテクノロジーが融合した新たな娯楽の創出を目指す考えを示した。
インタビューに応じる文星芸術大学のちばてつや学長
インタビューに応じる文星芸術大学ちばてつや学長
「AI(人工知能)やコンピューターの進展で立体像としてキャラクターが現れて、こっちを向いて話しかけたり、触れたりといったものができてくると思う」
2005年に文星芸大教授に就任し、動画漫画「モーションコミック」を研究する同大の研究所の所長も務めるなど漫画の可能性を追求してきたちばさん。今後は「深みがない、平らな世界」だった漫画を立体的に、かつリアリティーのある形で表現する技術の構築に意欲を見せる。
その原動力として期待するのが、芸術系単科大学文星芸大宇都宮市内の他大学との連携だ。同市では4私大を中心に「宇都宮市創造都市研究センター」を立ち上げるなど、大学間の協力を強化している。例えば帝京大学宇都宮キャンパスには、ソフトウエア工学やマルチメディアを扱う情報電子工学科がある。
仮想現実(VR)や触覚の再現などでは実用化や改良の動きも相次ぐ。先端技術を漫画に応用するべく「大学がお互いの情報を交換しながら、これからの人間を育てることが重要だ」と語る。
ちばさんはAIに期待しつつ、人間の可能性にも希望を持つ。「漫画はAIにもある程度描けると思うが、キャラクターが恋に悩んだり、友達に裏切られて悔しがったりする人間の機微を描くのはコンピューターにはなかなか難しい」と話す。
あしたのジョー」をはじめ「あした天気になあれ」「のたり松太郎」などのヒット作を生んできたちばさん。人が共感できるキャラクターを描き、精神的な癒やしを与える漫画家の仕事は「精神科医に似ている」というのが持論でもある。
文星芸大では漫画の描き方を指導してきた(同大提供)
文星芸大では漫画の描き方を指導してきた(同大提供)
「機械がやってくれた斜線というのはあまり味気がない。人間が引く線のぬくもりを感じてほしい」と、積み重ねた技術の伝承には、引き続き力を入れる考えだ。
約15年の教授生活を経て学長に就任したいま、大学の将来像をどう描いているのか。ポイントに挙げるのが大学のグローバル化だ。既に文星芸大は中国や韓国などから留学生を受け入れており、中国で漫画の描き方を教える取り組みも始めた。
「国際的な大学になっていくだろう。留学生にとっては日本で漫画家になるのが一番のステータスで、もしなれなくても母国で漫画のノウハウを教えたりなんかする。日本の漫画の種を色々なところにまいている。すごくうれしい」と目を輝かせる。
一方で悩みもある。「すでに幼稚園児がタブレットでお絵描きをしている。こういった子たちが何年か後に入学してきたとき、この芸術大学は新たに何をどう教えたらいいのか、みんな頭を抱えている」と話す。
これまではタブレットなどを使った漫画の描き方を学生に教える役割も大学にあったが「これからは逆に学生に教わることになるかもしれない」と異なる角度からの教育の必要性を感じている。
テクノロジーの進化を教員と学生が一体となって取り入れ、生かす体制をどう構築するかが今後の課題だろう。それは定員割れが続いている同大学が巻き返しに出るカギになるかもしれない。
(宇都宮支局 松本萌)