5G基地局に信号機開放 全国20万基、23年度に

5G基地局に信号機開放 全国20万基、23年度に
【イブニングスクープ】

2019/6/3 18:00 日本経済新聞 電子版
政府が6月中旬にも閣議決定する新たなIT(情報技術)戦略の概要が明らかになった。自治体が全国に設置している約20万基の信号機をNTTドコモなど国内通信4社に開放し、次世代通信規格「5G」の基地局として利用できるようにするのが柱だ。既存の設備を使うことで世界で競争の激しい5Gを低コストでスピードも早く普及させることができる。自治体は自動運転の実現や災害時の情報伝達などに利用する。
信号機の5G利用は2020年度から複数の都市で実験を進め、23年度の全国展開をめざす。
5Gの普及には全国に数十万規模の基地局の整備が必要とされる。電波の飛ぶ距離は4Gに比べ短く、たとえば5G向けに割り当て済みの28ギガ(ギガは10億)ヘルツ帯の周波数は半径数百メートル程度といわれる。つながりやすいネットワークの構築には「きめ細かなエリア展開が必要になる」とドコモの担当者は語る。
ドコモとKDDIソフトバンク楽天モバイルの国内通信4社は4Gよりも多くの基地局を設置する必要がある。
鉄塔を建てるスペースの少ない都市部ではビルの屋上に基地局を置く場合が多い。通信大手によると「屋上はすでに飽和状態で新設は困難」だという。地権者との交渉は手間も時間もかかる。総務省は屋内外で一部設備を共用するための指針を18年末に公表した。
全国にある約20万基の信号機を利用できるようになれば、基地局の設置スピードは格段に上がりそうだ。日本は他の国に比べ面積の割合で信号機の数が多いとされる。
コスト抑制も期待できる。ドコモは4Gの基地局を18年度末時点で全国20万8500局保有する。10年度から18年度までの累計の投資額は約2.4兆円と、1局あたりの投資コストは約1千万円かかった。5Gは既存基地局のソフトウエアの更新でも対応できるため、1局あたりの投資は4Gより少ない見込みだ。信号機を利用すれば投資費用を大幅に圧縮できる可能性が高い。
政府は今後、通信会社と調整に入る。信号機の利用には自治体だけでなく通信各社にも費用の負担を要請する方向だ。
信号機にはあらゆるモノがネットにつながる「IoT」の機能を持つITセンサーを取り付ける。政府が目標とするのは「トラステッド・メッシュネット」(災害時でも不通にならない信頼できる通信網)の構築だ。ネットワークは通信会社と警察、自治体などが利用し、互いにアクセスできない仕組みにする。
信号機を所有、管理する自治体は5Gの基地局を設置した信号機を住民サービスに利用する。
例えば自動運転の実現に弾みがつくとみる。信号機から周辺の交通状況を自動送信できるようになる。周囲に老人や子どもが歩いていないか自動車に伝達したり、渋滞を回避したりできるようになる。災害時は信号機にマイナンバーカードをかざすと、自治体が生存確認して家族に知らせるサービスなども想定する。
政府は5Gをデジタル社会を支える公共インフラと位置づけ、普及を急ぐ。7日のIT総合戦略本部(本部長・安倍晋三首相)で新戦略を示し、今夏以降に総務省警察庁国土交通省など関係省庁や自治体が協議会を立ち上げる。