【クローズアップ科学】ブラックホール撮影 次は「ジェット」の仕組み解明へ

【クローズアップ科学】ブラックホール撮影 次は「ジェット」の仕組み解明へ

撮影した巨大ブラックホール 撮影した巨大ブラックホール

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 1世紀前に存在が予言されながら、誰も見たことがなかったブラックホールの撮影に、国立天文台などの国際チームがついに成功した。捉えた漆黒の穴は、物理学の基本理論を証明する歴史的な発見となった。
 ブラックホールは非常に強い重力によって、周囲にある光などあらゆる物をのみ込んでしまう天体。アインシュタインによる1916年の一般相対性理論によって、ほぼ同時期に存在が予想されていた。チームは世界6カ所の電波望遠鏡を連携させて解像度を高め、M87銀河の中心にある巨大ブラックホールを捉えた。
 チームの永井洋・国立天文台特任准教授(電波天文学)は「一般相対性理論の究極の予言といえるブラックホールが、予想通りの形で姿を見せた。重力が強い空間で理論の正しさを示した」と意義を説明する。
 ブラックホールは質量が大きいほどサイズが大きい。また、穴のように見える円形の影は距離が近いほど見かけ上、大きくなり観測しやすい。そこでチームは、地球から特に大きく見える今回のブラックホールと、天の川銀河の中心にあるブラックホール「いて座Aスター」の2つを対象に観測してきた。

 いて座Aスターは地球から2万8千光年の距離にあり、5500万光年離れたM87銀河の中心に比べはるかに近い。ただ、周囲の物質の動きが速く不安定なため、M87銀河の解析が先行し、今回の発表となった。
 2012年ごろから観測を開始したが、黒い穴の存在は当初、はっきりしなかった。日本が参加する南米チリのアルマ望遠鏡が17年に加わったことで感度が飛躍的に向上し、撮影成功につながった。
カギ握る自転
 穴の直径は1000億キロだったことから、このブラックホールの質量は太陽の65億倍と判明。重い星の寿命が尽きたときにできるタイプと比べ、10億倍も重いことを実測で突き止めた。
 穴の周囲では、のみ込まれるガスが輪のように光っており、その下半分が特に明るかった。一般相対性理論によると、光速に近い速度で移動している光源は進行方向に強い光を発する。このことから、このブラックホールは、輪の下半分が地球の方向に向かうように自転しているとみられる。
 ブラックホールの自転は、周囲にある円盤状のガス雲と垂直の方向に、ガスが猛スピードで噴出する「ジェット」という現象の原動力とされる。

 M87銀河の中心にあるブラックホールではジェットが既に撮影されていたが、今回の画像には意外にも写っていなかった。永井氏は「ジェットが巨大な重力をどう振り切っているかは、解明したい最優先の課題だ」と話す。
 今後は画質をさらに高めてジェットも同時に撮影したり、ガスがのみ込まれる過程を動画で捉えたりするのが目標で、ブラックホールの詳しい構造や仕組みの理解が進みそうだ。(科学部 草下健夫)