ホンダF1、13年ぶりVに生きる「ジェットの技」

ホンダF1、13年ぶりVに生きる「ジェットの技」

自動車・機械
2019/7/1 11:46
ホンダは30日に開かれた自動車レース最高峰フォーミュラ・ワン(F1)のオーストリア・グランプリ(GP)決勝でホンダ勢として13年ぶりの優勝を果たした。F1参戦と撤退を繰り返し、2015年に復帰した今回の挑戦では長らく結果が出ず、17年には撤退寸前まで追い込まれた。雪辱を果たす支えとなったのは自動車技術だけでなく、小型ビジネスジェットホンダジェット」の技術と忍耐力だった。
「ついにF1での優勝を果たすことができた」。ホンダが日本時間の7月1日未明に配信した八郷隆弘社長のコメント。ホンダF1の苦節と喜びはこの一言に凝縮されている。
ホンダのF1挑戦は今回が4回目だ。1962年に創業者・本田宗一郎氏が参加表明しての第1期(64~68年)、第2期(83~92年)、第3期(00~08年)があり、15年からの第4期はF1チームにパワーユニット(PU)を提供する形で参加している。
当初は英マクラーレンとタッグを組んだが戦績低迷から3年で解消。撤退もささやかれながら18年から新たにイタリアのトロロッソと組んで残留を決めた。19年からは新たに英国レッドブル・レーシングとも組んでPUを供給し、2チーム体制で参戦していた。
ただ、第4期はこれまで89戦参加し優勝はゼロ。株主からも意義を問われることもあったが、ようやく結果で示せた形だ。
原動力は複数ある。まずドイツのメルセデス、イタリアのフェラーリと共に「3強」の一角とされる強豪レッドブルとチームを組めたこと。今回優勝したレッドブルマックス・フェルスタッペン選手は18年も2回の優勝経験を持つ実力者だ。
もう一つ見逃せないのがホンダジェットの技術がF1にも生かされていることだ。現行のF1では内燃機関だけではなく、電気エネルギーも用いたハイブリッド(HV)技術での走行が規定されている。エンジンからの排気熱を回収して電気エネルギーを生み出すPUの重要機構にジェットの技術を応用した。同機は業界トップクラスの速度ながら低燃費がウリだ。
ホンダジェットは2015年末に米国で納入を始め欧州や南米、東南アジアなどに販路を広げてきた
ホンダジェットは2015年末に米国で納入を始め欧州や南米、東南アジアなどに販路を広げてきた

ホンダは15年からのF1復帰にあたり栃木県内に専用施設「HRD Sakura(サクラ)」を新設。サクラのメンバーは苦戦続きの中で航空技術者に相談し、ジェット由来のエンジン技術を18年中ごろからF1にも搭載し始めた。このことが13年ぶりの今回の優勝につながった。

自動車業界は「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった新潮流への対応を迫られている。本業の研究開発投資も重くなる中で、莫大な費用がかかるF1継続には相当の覚悟が必要だ。
ホンダジェットは86年の基礎研究開始から実用化まで30年近くかかった。これまで「89敗」のF1にもジェット同様のホンダの「忍耐力」が示されたとも言える。こうした忍耐力が本業の国際競争に打ち勝つ中でも必要となってきそうだ。
(古川慶一)