新規事業に向かない『最悪の部下』

【連載/4コマ漫画コラム(32)】新規事業に向かない『最悪の部下』

eiicon編集部

2018年2月28日



新規事業での「最悪の部下」は

新しいことに挑戦しイノベーションを起こそうとしている「新規事業開発部署」の上司から見ると、「こんな部下では……」と思ってしまうことがままあります。
このコラムをこれまでもお読みになっていらっしゃる方であれば、既にお気づきかと思いますが、「新規事業での『最悪の部下』」は、往々にして「既存事業では『最良の部下』」であることが多いのです。既存事業で活躍していた時に身につけた(体に染み込んでしまった)文化や考え方や行動の習慣が、「新規事業」では残念ながら邪魔になり、マイナスパワーになってしまいます。
今回は、私が新規事業などの上司役を勤めていた時の経験から「新規事業に向かない『最悪の部下』」のパターンと、その対処法をお伝えします。(『最悪の』という言い回しは、キャッチーだから使用しているだけですが……)

1-1.「きちんと仕事をしようとする部下」

「きちんと」や「きっちり」という言葉を口癖のように乱発する人が、仕事の場でも、国会答弁でも、テレビのワイドショーでも、やたら沢山います。どうも日本人は「きちんと」「きっちり」が大好きなようです。
「きっちりやる」とはどういうことでしょうか。「きっちりはまっている」と言うように、イメージとしては、「ある枠や箱」があって、「隙間なく満たされている様子」のことですよね。そうなのです。「きっちり」という言葉が成り立つ前提は「やるべき目標」にあたる「枠」が存在している時にだけなのです。
既存事業での仕事のやり方は「きっちり」がとても大事です。はっきりした目標や計画があって、それをいかに抜け漏れがないように達成するか、が仕事です。
ところが、新規事業の場合はそうはいきません。そもそも「これ(さえ)やれば、達成だ!」という「あるべき枠」の全体像なんて、まだまだぼんやりしていて無いに等しいからです。試行錯誤し、色々足掻きながら、なんとか前に進むしかありません。
しかし、既存事業に慣れ親しんできた人には、「達成すべき枠」がぼんやりしていること自体が耐えられません。そのため、「明確な達成すべきこと」という上司からの指示を欲しがります。つまり「指示待ち社員」です。そして「計画」をきっちり(忙しくしていられるように「ぎっちり」かもしれません)作ろうとしてしまいます。達成すべきことがぼんやりしているにも関わらず、です。

1-2.「きちんと仕事をしようとする部下」には

そういう「きちんと」「きっちり」を連発する部下には、まず「きちんと&きっちり禁止令」を出しましょう。「『きちんと』や『きっちり』という言葉を使ってはいけない」という上司命令です。そうすると、いかに自分が無意識のうちに「きちんと」や「きっちり」という言葉を使っているかに気づき、「『きちんときっちり』の呪縛に縛られてきたか」を理解するようになります。(「ほら、今、言った!」って指摘してあげましょう)
とはいっても、体に染みついたものは簡単には取れないので、一見「達成すべき枠」に見える「目標」を与えましょう。「与える」という言い方は正しくなく、「一緒に考えて作る」のです。その目標として『仮説を立てて』『やってみて』『何が分かったかを活かし、次の仮説を立てる』とするのがポイントです。実は、この考え方は新規事業での大事な基本パターンです。もちろん、「きちんときっちり文化」での「あるべき枠や達成すべきこと」とは、この目標は全く違う類のモノですが、「次の仮説を立てる」というのが、一応の「達成すべきこと」に当たるので、「きちんときっちり君」にも受け入れやすいのです。ごまかしのようにも見えますが。

2-1.「評価を気にする部下」

既存事業部から新規事業の部署に異動してきた部下で、「前の事業部ではいい評価だったのに、どうしてこっち(新規事業)に来たら、私の評価はこんなに低いのですか!」と食ってかかる人がたまにいます。もちろん、「評価」は正当にすべきです。新規事業に適した活動をやっているかどうかが評価ポイントであり、既存事業とは違うということを納得させる必要があります。
ただ、そもそも「評価を気にするようなヤツは新規事業に向いていない」のです。「面白いから」「ワクワクするから」「会社のリソースを使って大きなことができるから」というようなモチベーションで活き活きと働ける人間でないと新規事業には向いていません。

2-2.「評価を気にする部下」には

「評価を気にするようなやつは向いていないよ」……それを直接言うかどうかは、部下の性格にもよるのでなかなか難しいのですが、一般論としては伝えるようにしていました(「お前は」ではなく。)
「あのさ、会社の中での肩書とか給料の差なんて、バームクーヘンみたいなものでさ、バームクーヘンって、薄~い白黒の層が重なっているだろ、あの『薄い層』くらいの差しかないんだよ。社内で比較するのではなくて、例えば大学時代の同期が今、どこで何をしていて、いくらもらっているか聞いてごらんよ。とんでもなく高い給与をもらっているやつもいれば、むちゃくちゃ安く働いているやつもいる。私の友人なんかベンチャーを起こして大儲けしていて、ウチの社長の何倍も稼いでいる。外に目を向ければ、評価とか待遇とかの社内での小さな差じゃなくて、『いかに面白いか、やりがいがあるか』がポイントになると思うよ」という風に。
なかなか心底からは理解してもらえないけれど、それなりに「仕方ないな、せっかく新規事業の部署にいるからには……」と思ってくれるものです(と信じていました)。

3.「ヨイショする部下」

新規事業では、誰も経験も正解も持っていないことにチームとして一緒に挑戦していかなければなりません。そのためには、上司も部下もなく、議論を尽くすことが重要で、上司のご機嫌ばかりを取ろうとする部下は困りものです。
しかし、どうしても年齢を重ね、立場もそれなりに上になると、上司本人はオープンでフラットであるつもりでも、どうしても若い部下から見ると「エライ人」に映ってしまっていることが多くなってしまいます。そのことを私はいつも自分に言い聞かせて気をつけていました。
そのおかげかどうか、私から見ると、どんどんぶつかってくる部下ばかりで、頼もしかったです。(正直言うと、「たまには私をほめてほしいなあ」とも思いましたが……人間なので(泣))
以上、少しだけですが「最悪の部下」のパターンと対処法でした。
でも、実は私は部下に対して「最悪」と思ったことは一度もありませんでした。いい部下に恵まれただけかもしれませんが、既存事業に染まった「サイアク」の状態から、新規事業に向いた「サイアイ」のメンバーにするのも、私の役割だったので。

■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。