米中露覇権争いが生む「宇宙ごみ」を回収、川崎重工「お掃除衛星」のスゴ技

米中露覇権争いが生む「宇宙ごみ」を回収、川崎重工「お掃除衛星」のスゴ技

川崎重工が2020年度内に打ち上げを目指す宇宙ごみ除去実証用の人工衛星の模型 川崎重工が2020年度内に打ち上げを目指す宇宙ごみ除去実証用の人工衛星の模型その他の写真を見る(1/2枚)

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 使い終わった人工衛星やロケットの破片などスペースデブリ宇宙ごみ)が国際問題となっている。日本政府は今年6月、デブリの監視や除去の技術開発に取り組んでいくことを決めた。民間企業の間でも技術革新が進み、来年にはデブリを捕獲する装置や、デブリを減らすための技術の実証実験を行う衛星が次々と打ち上げられる予定だ。宇宙開発の覇権を争う米中露が出した宇宙ごみを、どこがかたづけるのか。日本の技術が確立されれば、新たな宇宙ビジネスのチャンスにつながる可能性もある。(安田奈緒美)
「人工流れ星」の技術でデブリ除去
 6月末、大阪で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)。国際メディアセンター内に設けられた内閣府の展示スペースで、デブリ除去を目指す日本企業3社の取り組みが紹介された。いずれも現在、実用化に向けて開発中の最先端技術だ。
 会場に、幅数センチの細長い導電性のテープが展示されていた。手のひらに乗せても重量をほぼ感じない軽さだ。
 宇宙航空研究開発機構JAXA、ジャクサ)と共同開発したこのテープをデブリ除去に活用しようとするのは、東京のベンチャー企業「ALE」だ。
 今年1月、金属球を宇宙空間から地球に落下させて「流れ星」をつくる世界初の人工衛星イプシロンロケット4号機で打ち上げたことで知られる。
 テープは、あらかじめ人工衛星に搭載され、運用終了後に人工衛星本体から宇宙空間にのばすと、磁場の影響で減速させる力(ローレンツ力)が生じ、衛星の軌道が変わって大気圏に突入。デブリ化するのを防ぐ。来年にもこのテープを積んだ衛星を打ち上げる計画だ。

 同社エクスターナルリレーションズマネジャーの蔵本順さんは、「ALEは人工流れ星をつくるというエンタメ事業が中心ですが、デブリ対策でも、宇宙にイノベーション(革新)をおこしたい」と話す。
川重「防衛宇宙プロジェクト本部」で開発
 宇宙開発ベンチャーでこれまで累計150億円以上の資金調達に成功している「アストロスケール」は、磁石を使ってデブリを捕獲し、大気圏に突入して燃やす除去衛星を開発中だ。
 来年中頃に実証衛星を打ち上げる計画で、自律航行でデブリに接近し、ごみの大きさなどを診断、除去を行う実験は世界初の快挙だ。
 実験では、デブリを模した人工衛星と捕獲機を打ち上げ、実際に宇宙空間でデブリを発見できるか、つかまえて大気圏に突入させられるかなどを実証する。
 G20サミットの展示スペースで目立っていたのは、川崎重工が披露した除去衛星の模型だ。
 画像認識技術を利用してデブリに迫り、金属のアームをのばしてロケット上段など対象物をひっかけ、その後、ローレンツ力を使って、大気圏に突入させる仕組み。来年度に衛星を打ち上げる予定だ。
 同社の航空宇宙システムカンパニー防衛宇宙プロジェクト本部で技術開発を進めている。

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中国の衛星破壊実験でデブリ大量拡散
 デブリの数は現在、宇宙空間に直径10センチ以上のものが2万個以上存在し、1ミリ以上のものになると1億個以上あるとされる。
秒速7~8キロ、拳銃の弾丸より速く移動するため、人工衛星国際宇宙ステーションに衝突すれば、被害は深刻だ。衛星を運用する側もデブリ対策に迫られており、世界では衝突を回避するために衛星軌道変更する事例が年約100回行われているというリポートもある。
 中国は2007年、地上から発射したミサイルで人工衛星を破壊する衛星攻撃兵器(ASAT)の実験を実施。大量の破片が軌道上にまき散らされ、国際的な批判を浴びた。米国と旧ソ連も、冷戦時代に衛星破壊実験を実施。1985年以降、行われていないが、宇宙ごみ問題が注目されるきっかけとなった。

 宇宙開発をめぐっては、中国の習近平国家主席が「宇宙強国」を掲げ、軍民あげて邁進。インドは7月、月面探査車を搭載した無人月探査機を打ち上げ、来月に月の南極近くに軟着陸させる計画で、米中露だけでなく、大国間の技術競争が過熱している。
日本がルール作り主導
 増え続ける可能性があるデブリ対策のためには、観測技術の向上だけでなく、除去と発生を減らす国際的な枠組みによる対策が急がれる。しかし、具体的な議論は進まない。デブリ除去に関する費用負担などで折り合いがついていないからだ。宇宙開発で多くのデブリを排出してきた米中露に対して、応分の責任を求める声は強いが、3カ国は衛星の打ち上げなどで利益を得ている各国が負担すべきだと考えている。
 そこで日本政府は、デブリ対策の国際ルール策定を主導しようとしている。G20開催直前に開かれた国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)では、日本が主導する形で提案したデブリ低減に関する国際ガイドラインが採択され、安倍晋三首相はG20サミットでもデブリ対策の必要性を強調。平井卓也宇宙政策担当相も日本企業のデブリ除去技術の展示会場に直接足を運び視察した。

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 ALEの蔵本さんは「サミットに参加された国内外の官僚や、メディア関係者に興味を持ってもらえた。日本の技術が世界のデブリ対策の中心になる可能性があることを理解してもらえたのでは」と手応えを話していた。