田中宇の国際ニュース解説 無料版 2011年3月4日より転載②

基軸通貨の準備をする中国

ドルの信用失墜と基軸通貨の多極化が進む際、最も注目されるのは中国当局
人民元に対してどう対応するかという点だ。中国は実質的に人民元の為替を
ドルに固定するペッグ制度を続けており、ドルの信用失墜に合わせて中国国内
のインフレがひどくなっている。人民元が国際基軸通貨の一つになるなら、そ
の前にドルペッグの廃止や人民元取引の国際化が行われる必要がある。

この点で、中国の中央銀行である人民銀行は、原油高騰でドルが逃避先でな
くなっていることが示された直後の3月2日、人民元の国際利用を拡大すると
発表した。今年中に、中国の主要な貿易業者のすべてに対して人民元建ての貿
易決済を許可するとともに、欧米銀行に元建ての金融商品の創設を許したり、
人民元を受け取った外国企業が中国で元建ての社債を買えるようにする動きを
加速する。中国は、世界の企業や通貨当局が人民元を備蓄通貨として使うこと
への容認を拡大する。今後3-6年以内に、先進諸国以外の国々と中国との間
の貿易の半分以上が、人民元で決済されることになると予測されている。

http://english.peopledaily.com.cn/90001/90778/7307986.html
Govt to boost renminbi's role

http://www.pbc.gov.cn/publish/goutongjiaoliu/524/2011/20110302182752116769650/20110302182752116769650_.html
求真務実 開拓進取 推動跨境人民幣業務及有関監測分析工作再上新台階

同時に中国当局は、人民元を金地金で裏打ちされた通貨にしていくことを模
索しているように見える。中国は今年1-2月だけで、昨年の1年分に近い
200トンも金地金を輸入した。その多くは、インフレを嫌気して現金を金地
金に換えておこうとする市民の購入であるとされるが、中国当局も国内市場で
かなりの金地金を買っていると推測される。中国当局の金備蓄は約1千トンし
かなく、米国が8千トン台、欧州の主要諸国が2千トン台の金地金を保有する
のに比べ、中国の金備蓄は少なすぎる。

http://www.resourceinvestor.com/News/2011/3/Pages/China-Demand-Voracious--A-Yuan-Gold-Standard-.aspx
China Demand Voracious - A Yuan Gold Standard?

ユーロや人民元が「次の基軸通貨」として名指しされているのに対し、わが
日本の円は全くと言っていいほど、次の基軸通貨として言及されていない。リ
ビア危機で原油が上昇してドルが売られたとき円が上昇したが、これは中国の
人民元がまだドルペッグしていて逃避先として適当でないので、代わりに隣に
ある日本の通貨が連想買いされたと考えられ、円が基軸通貨として期待された
のではない。

円に対する期待が低いのは、日本政府が対米従属への固執と表裏一体の政策
として、円を地域基軸通貨にすることに非常に消極的であり続けた結果だ。今
後、ドルの覇権が崩壊していくと、日本は中国の経済圏に入る傾向を強めるだ
ろう。これは、米国の覇権失墜がここ数年しだいに明確化したにもかかわらず、
日本政府が対米従属のみに固執する国家戦略をとり続けたことからくる、当然
の帰結である。

◆中東革命とドル危機の悪循環
http://tanakanews.com/110302oil.php
【2011年3月2日】中東各地で起きている政権転覆革命の発端となったチ
ュニジアやエジプトの反政府運動は、食糧高騰に対する庶民の不満が爆発して
起きた。そして食糧価格の高騰は、米当局がドルを過剰発行して米国の金融経
済を救済しようとしたため、投資家や新興市場諸国がドルから現物や先物の穀
物など国際商品に乗り換える傾向を強めた結果として起きている。ドル危機に
よって中東革命が起こり、それが原油高騰からインフレを引き起こし、ドル危
機をひどくする悪循環が始まっている。

◆内戦化するリビアに米軍が侵攻する?
http://tanakanews.com/110301libya.php
【2011年3月1日】米政府は財政難だ。米議会では防衛予算も削れという
意見が出ている。オバマら政権中枢の人々は、米軍をリビアに介入させたくな
い。米軍はリビア沖に展開を開始したが、リビアから避難する人々を支援する
のが主眼で、米軍のリビア侵攻を意味しないと報じられている。しかし、防衛
予算の削減に抵抗している軍事産業など軍産複合体にとっては、米軍がリビア
に侵攻せざるを得なくなり、その関係で予算削減が棚上げされ、防衛費の増加
が続くのが望ましい。軍産複合体の系列の政治家である共和党のマケイン上院
議員らは、オバマ政権に対し、米国がリビアの反政府勢力に武器を供給すべき
だと言い出している。

イラク反政府運動の意味
http://tanakanews.com/110228iraq.php
【2011年2月28日】イラク各地で反政府運動が起きている。そこで発せ
られる要求は、政府の腐敗根絶から治安改善、米軍撤退、クルド人2大政党の
権力独占への批判まで非常に多岐にわたっており、この運動が成就するとイラ
クの何がどうなるのか見えない。しかし、イラク政府の反応は明確だ。反政府
運動に対する報道をすべて禁止し、代わりにイラクのマスコミはデモの抑制を
試みるマリキ首相、サドル師、システニ師などシーア派指導者の演説を流して
いる。このイラク政府の反応からは、反政府運動イラクシーア派主導政権
を壊そうとする方向を持っていることが感じられる。そして米政府は、イラク
政府の運動弾圧を黙認している。

◆「第2の911事件」が誘発される?
http://tanakanews.com/110227pakistan.php
【2011年2月27日】パキスタン軍の諜報機関ISIが、CIAのデービ
スの所持品を捜索したところ、厳秘の機密文書が発見された。そこには、デー
ビスが所属するTF373の任務として、アフガンやパキスタンイスラム
激派を通じてアルカイダ核兵器の材料となる核分裂物質や生物化学兵器の材
料をわたし、米国に対して大量破壊兵器によるテロを起こさせる計画が書いて
あった。米欧の経済覇権は数カ月内にも崩壊しそうな危機的な状況にあるが、
米当局は、アルカイダに「第2の911事件」的な対米大規模テロを起こさせ、
それを機に米国は世界規模の戦争を起こし、テロ戦争の体制を再強化して危機
を乗り越え、世界に対する米国の覇権を維持する目的だという。

リビア反乱のゆくえ
http://tanakanews.com/110222Libya.php
【2011年2月22日】リビアの状況は、いくつかの重要な点で、エジプト
チュニジアと大きく異なっている。その一つは、エジプトやチュニジアが統
一国家として無理のない状況で、政権が転覆されても国家が分裂する恐れがな
かったのに対し、リビアはいまだに、首都トリポリを中心とする西部地域(ト
リポリタニア)と、第2の都市ベンガジを中心とする東部地域(キレナイカ
の間に対立が強く、それを無理矢理に統合してきた独裁者カダフィが辞めたら、
東西の対立が決定的になり、リビア国家が二分されて内戦になる可能性がある。