「放射能と妊婦・乳児・幼児」その危険性について・・・ ①

http://gendai.ismedia.jp/mwimgs/9/2/600/img_923a1fc45d6000cac0cf2fd0c6763e4766589.jpg福島県内で放射線量の検査を受ける乳児。子を守るのは親しかいない。だが、何からどう守ればいいのか〔PHOTO〕gettyimages
 小さな子どもを持つ親や、これから生まれてくる子どもの親、その家族すべてが本当に知りたいこと。それを、なぜ国は真剣に示そうとしないのか。何を隠そうとしているのか。

5人中4人から検出

 政府は幼い命を守ることを、本気で考えていたのだろうか。
 4月30日、厚生労働省は「緊急に実施した」という母乳の放射性物質濃度の調査結果を発表した。福島、関東地方の女性23人のうち、福島、茨城、千葉の7人の母乳から1㎏当たり2・2~8・0ベクレルの放射性ヨウ素131が検出された。そのうち、原発事故直後30km圏内に住んでいたいわき市の一人からは、2・4ベクレルの放射性セシウム137も出た。調査の実施期間は、原発事故から約6週間が経過した4月24~28日である。
 その数日前の4月20日福島県庁で会見を行った市民団体「母乳調査・母子支援ネットワーク」(以下、母乳調査ネット)の調査報告で、千葉、茨城の母親の母乳に放射能汚染があることが初めて明らかになっていた。メディアでも大きく報じられ、多くの国民が衝撃を受けたはずだ。厚労省の調査は、この民間調査の発表を受けて慌てて行ったものと見てまず間違いない。
「母乳調査ネット」代表の村上喜久子氏が話す。
「あの会見以降、全国から問い合わせの電話が殺到しました。お母さんたちは誰も政府のことなんて信じていませんから。
 私たちが最初に検査を行ったのは3月24~30日ですが、その時点でも放射性ヨウ素半減期のギリギリだから、どれだけ数値が出るかなと思っていたんです。それでも一番高い人で、36・3ベクレルのヨウ素131が検出されました(4月上旬には不検出に)。
 ところが、厚労省の検査は放射能汚染が広がって6週間も経ってから実施されたにもかかわらず、数値が出ている。これには、私たちも仰天しました。もし6週間前のヨウ素が残っていたとしたら、元が非常に高いレベルの汚染だったということ。逆算すれば基準の100ベクレルを超える数値と言えます。
 また、6週間前の汚染ではなく現在進行形の汚染であるなら、何からそれが広がっているのかを考えなくてはいけません。たとえば、茨城の方は非常に高率で検出されている。私たちの調査では5人中4人、厚労省の調査では9人中5人です。その原因はわからないままです」
 厚労省は母乳からの放射性物質の検出について、牛乳や乳製品の暫定基準値100ベクレルを大幅に下回っているとして、「微量で、乳児の健康に影響はない」と言い切っている。だが、これをそのまま信じられる人はどれだけいるだろう。
 1ヵ月以上―あたかも放射性ヨウ素の検出量が少なくなるのを待っていたかのような対応を見せた政府は、国民と、その幼い命の健康を本気で守ろうとしているとは到底思えない。
「たしかに神経質にならなくてもいいレベルではありますが、『安全である』とはまったく言えません。安全であると言うなら、そのリスクも含めて徹底した説明をしなければなりません。それができていないのは、厚労省も確固とした見解を持っていないからでしょう」(京都大学原子炉実験所助教・今中哲二氏)

言いにくいことですが

 放出された放射性物質は微粒子となって空中に飛び、降下していく。それが水道水や食料の摂取、呼吸によって母親の体内に取り込まれ、母乳に混入する。牛乳に放射性物質が検出されたように、人間の母乳にも混入するというわけだが、その母乳を飲んだ子どもからも当然、放射性物質が検出されることになる。
 内閣府原子力安全委員会専門委員を務めた中部大学教授の武田邦彦氏が言う。
「胎児や新生児、乳幼児は大人と比べて放射能の感度が3~10倍も高く、がんの発症率も高くなることがわかっています。赤ちゃんや子どもがもっとも被曝する。それは間違いありません。
 被曝量は足し算なのです。大人と同じように赤ちゃんや子どもも空間から放射線を浴びる。さらに身長が低い分、地面に落ちている放射性物質からより多く浴びる。砂遊びもするから余計に浴びる。乳児は母乳でも被曝する。小学生なら地産地消の給食で被曝する。もちろんその間、家庭の食事でも被曝する。
 たとえば福島県の空間放射線量が高い地域にお住まいの方ならば、空間からの放射線量だけで規制値いっぱいいっぱいなのに、そこにたくさんの被曝が加わる。しかも大人より感度が高いわけですから、すべてが悪い方向にしかいかない。言いにくいことですが、それが現実なのです」
 岡山大学大学院環境学研究科の津田敏秀教授も口を揃える。
「当たり前のことですが、大人よりも子どものほうが長く生きます。被曝によるがんのリスクは年齢とともに右肩上がりで増えていく。長く生きれば生きるほど、がんになる確率が高くなるわけです」
 たとえば70歳の老人が被曝して20年後にがんになるとしても、その老人はおそらくそれまで生きないことのほうが多い。しかし、それが0歳児だとすれば、20年後はちょうど青年期にあたる。感受性が高い上にその後の人生が長いがゆえ、赤ちゃんや子どもに与える危険性は非常に高くなる。
 元放射線医学総合研究所主任研究官で、医学博士の崎山比早子氏が解説する。
「年齢が低いほど放射線に対する感受性が高い理由は、細胞分裂が盛んだからです。これは、広島、長崎の被爆者の調査によってずっと以前からわかっていたことでしたが、最近の分子生物学的な研究でも、そのメカニズムがわかってきました。
 細胞が分裂しているときに放射線を照射すると、DNAに傷がつきます。すると、細胞はDNAの傷を治すために、DNAの合成をいったん止める。止めた後で修復を行い、それからまたDNA合成を始める。つまり、細胞分裂が盛んなほど、合成を止めなくてはいけない頻度が高くなるわけです。止めて治して、止めて治してという頻度が高いと、その過程で修復ミスが必ず起きます。胎児や乳幼児のように、細胞分裂が盛んなほど、被曝の影響は大きくなるのです」