皮膚に貼るセンサーで、「水泳中の汗」の変化や水分補給のタイミングがわかる:米研究チームが開発
皮膚に貼るセンサーで、「水泳中の汗」の変化や水分補給のタイミングがわかる:米研究チームが開発
水中でかいた汗を計測・分析できるワイヤレスセンサーが、このほど開発された。皮膚に貼るパッチ型のセンサーで汗を分析して体調の変化を知らせたり、水分補給のタイミングを光で通知したりしてくれる。水泳やトライアスロンの選手のパフォーマンス向上に役立つというが、医療現場での活用も期待されている。
TEXT BY ERIC NIILER
TRANSLATION BY MISAKO ASANO/GALILEO
WIRED(US)
スポーツチームは、アスリートがかいた汗を調べることでパフォーマンスを分析する。そしてスポーツ業界のメーカーは、汗をかいたときに飲むスポーツ飲料や、汗が乾きやすいウェアを陸上選手や自転車選手、テニスプレイヤーなどに売り込む。ところが、これまで水泳選手は蚊帳の外だった。
こうしたなかノースウェスタン大学の研究チームが、水泳選手の皮膚に貼りつける小さくて柔軟性のあるワイヤレスセンサーを開発した。水泳のトレーニングや競技の最中に、選手がどのくらいの水分を摂取する必要があるのかを計測する装置だ。
水の浸入を防ぎ、汗だけを検知
この装置は、人間の皮膚から分泌された汗をキャッチし、食用色素が混ざった化学試薬に流し込む。すると、汗の塩分レヴェルに応じてパッチの色が変化する。汗を計測するpH試験紙のようなものだ。体温や発汗率も測ることができる。
科学誌「Science Advances」に発表された論文執筆者のひとりで、材料科学を研究するジョン・ロジャースは「薄いピンクから濃い赤までの色を比較することによって、自分の電解質レヴェルを知ることができます」と説明する。「よく見るだけで、体の中で何が起きているのか把握できるのです」
このセンサーをうまく機能させるポイントは、外側の水がデヴァイス内に入らないようにしながら内側の汗を検知する設計だった。従来の水中用の汗センサーは、少し装着していると外れてしまったり、外側のプールの水と内側の汗という2種類の液体を分離しておくことができなかったりした。
この問題を解決するため、ノースウェスタン大学の研究者たちは極小の導水管の上に柔軟性のある複数層のソフトポリマーを被せ、水泳選手の皮膚の表面から汗を集めるようにした。また、従来のシリコーンベースのポリマーの代わりに、ポリスチレン‐イソプレン‐スチレン(SIS)でつくられたより水を通しにくい素材を採用した。
水分補給のタイミングを光で通知
汗を集める管には、ごく小さなヴァルヴシステムが組み込まれている。汗が管の中の少量の空気を押し出すことで、プールの水が入りこむのを防ぐ。ロジャースは、新しい素材とこれまでにない設計の組み合わせが見事に成功しているのと説明する。「そのおかげで水が入り込まず、汗だけが管の中を通るのです」
さらにこのセンサーには、汗のさまざまな成分や体温をリモートで計測し、こうしたデータをワイヤレスチップを通して近くにいるコーチに送る装置も追加できる。小さなLEDライトもついており、水泳選手やトライアスロン選手に、いつ水分補給すればいいかのを教えてくれたりもする。
ロジャースはこれまでにも、生体液を測定するデヴァイスを開発している。そのひとつが、家電見本市の「CES」でロレアルと共同発表したデヴァイスだ。肌のpH値を測り、ユーザーが自分に合う化粧品や日焼け止めを選ぶ参考にできる。これに対して今回開発したのは、水中で使える初めてのデヴァイスとなる。
医療現場での応用も
プロジェクトの発端は、ロジャースがノースウェスタン大学の男子水泳チームのコーチと話をしたことだった。「水泳選手の発汗量や電解質が失われた量を理解することに、コーチは興味を示していました」と、ロジャースは振り返る。「脱水症状はパフォーマンスに影響しますし、けいれんにもつながりかねません。それなのに、どのくらい水分を摂取する必要があるのか、さっぱりわからないというのです」
そこでロジャースのチームは被検者をエアロバイクに乗せ、25セント硬貨より少し大きいサイズの新しいセンサーをテストした。実地試験では、プールでトレーニングする人や、ハワイのコナで開催されるトライアスロン競技に向けて海でトレーニングする選手などにテストを実施した。
ロジャースによると、このセンサーは医療の現場で役立てることもできるという。新生児や年配の患者たちの汗を採取するために、いちいちトレッドミルで運動させる必要はない。入浴やシャワーなどでちょっと体が温まれば、汗を採取して分析できるという。
トライアスロンに最適?
この新しいセンサーについて、ある専門家はトライアスロン選手に理想的かもしれないと言う。ひとつのコースで何時間も運動を続け、その間ずっと体の状態を注意深くモニターする必要があるからだ。
マサチューセッツ工科大学の実験的学習グループで生物学と化学を担当し、スポーツにおける化学について教えているパトリシア・クリスティーは、「もっと効果的にトレーニングしたいと思えば、自分の体をマシンであると考えたくなるものです」と語る。
クリスティーは競争力のあるトライアスロン選手たちと一緒にトレーニングしているが、厳しいプールでの訓練の前にどの程度の水分をとったらいいのか、よくわからないという。それに体が水に濡れると、心拍数モニターでの計測も難しくなる。
「最高のトレーニングをするために自分という“マシン”に燃料補給し、コンディションを整えたいのです」とクリスティーは言う。「トレーニング中に汗を採取して分析できれば、実際のレースで何が起きるかのを予測できますから」