赤ちゃん脳に重要な役割「カルシウム」 イオン濃度増なら形成も促進

妊娠…赤ちゃん脳に重要な役割「カルシウム」 イオン濃度増なら形成も促進、基生研・京大・阪大など国際研究で確認


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ツメガエルの胚で神経管が形成される過程の模式図。神経板という細胞シートが折れ曲がって溝ができたあと、神経管が形成される(基礎生物学研究所提供)

 脳は神経組織の集まりで、心臓や肺、消化器などが働いて生命を維持する活動をはじめ、運動や知覚などの機能を支えている。このように動物にとってもっとも重要な脳は、どのようにして形づくられていくのだろうか。

 これまでの研究では、脳の原型は、1個の受精卵から細胞が分裂、増殖し、個々の細胞がさまざまな機能を持つように分化していく過程の中で、初期の段階の胚の状態のときに現れる。その形は、「神経管」と呼ばれるチューブ状になっていて、一層のシート状になった細胞群が折れ曲がるという大きな変化が起きることによってできることは分かっていた(図参照)。しかし、何がこの現象の引き金になり、どのような作用が加わっているかについては不明だった。

 そこで、基礎生物学研究所鈴木誠助教、原佑介研究員、上野直人教授らは、京都大学の今村博臣准教授、大阪大学産業科学研究所の永井健治教授、カナダ・アルバータ大学のロバート・キャンベル教授と国際共同研究を行い、細胞内にあるカルシウム(Ca)イオンの濃度が特定の場所で一時的に変化することが、脳の原型づくりに重要な役割を果たしていることを突き止めた。

 両生類のアフリカツメガエルを材料にした研究だが、この動物は脳の形成の過程がヒトに近く、今後、新生児に起きる先天性の神経管閉鎖障害などの病因の解明にもつながる可能性がある。この成果は英科学誌「デベロプメント」に掲載される。

■妊活ママ必見! 新生児の病因の解明に…
 研究グループは、細胞内のカルシウムイオンの濃度の変化が細胞の形や運動の調節に関わることを明らかにしており、「神経管の形成の過程にも関わっているのではないか」との発想で研究を進めた。

 まず、神経管が形成される過程で、細胞内のカルシウムイオンの濃度変化を抑制する薬剤を加えて処理したところ、神経管の形成が阻害された。次いで、カルシウムイオンの濃度変化を調べたところ、神経管をつくる細胞集団の一部で一時的にカルシウムイオンの濃度が大きく上昇することを発見した。

 その中で、特に注目されたのは、濃度の大規模な変化が起きた直後に、細胞シートの折れ曲がりが加速されたこと。折れ曲がりやすいように、折れる場所の個々の細胞が円柱形から片端を絞った円錐(えんすい)形に変わる「頂端収縮」という現象が起こっていた。そこで、さらに詳しく調べたところ、カルシウムイオンの濃度変化のあと、頂端収縮など細胞の形づくりに関わる細胞骨格のタンパク質(fアクチン)の分布の状況が変わっており、このような仕組みで神経管の側面を閉じるための運動を促進していることがわかった。

 研究グループでは「神経管が形成される過程は脊椎動物の間でも高度に保存されていることから、今回の成果はヒトを始めとする脊椎動物の脳が形成される過程の一般的な理解につながることが期待されます」としている。