地球に似た7つの惑星 微生物がヒッチハイクで移動?

地球に似た7つの惑星 微生物がヒッチハイクで移動?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/4/3


 地球外生命が見つかったら、科学に革命が起こるだろう。それが、1つの恒星のまわりを回る2つ(もしかしたら7つ)の惑星で見つかったとしたら、どんな騒ぎになるだろう?

 地球から約39光年の距離にある恒星トラピスト1の惑星系は、そんな可能性を秘めている。最新の研究によると、7つの惑星は主星のまわりに密集しているため、「生命の種」はその間を容易に跳ね回ることができるという。

 この研究は、米ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのマナスビ・リンガム氏とエイブラハム・ローブ氏が2017年3月15日付けで科学サイト「arXiv.org」に発表したもので、パンスペルミア説にもとづいている。この説は、太陽系の惑星の間で惑星の破片がやりとりされることがあるという事実を基礎にしている。近接する岩石惑星の間では実際にこのようなことが起きていて、地球上で発見された隕石(いんせき)の中には、小惑星の衝突により火星から吹き飛ばされた破片が宇宙空間を旅したのちに地球に落ちてきたものがある。

 パンスペルミア説はこれをさらに一歩進めて、生命はそうした破片にヒッチハイクして、惑星から惑星へと広がっていくと主張する。途方もない話に聞こえるかもしれないが、最近の研究からは、ある種の生物が惑星間の旅に近い条件に耐えられることが示されている。一部の科学者は、地球の生命の種は火星から来たのかもしれないとさえ主張している。
 トラピスト1惑星系では、7つの惑星のすべてが火星と地球の間の20分の1未満の距離にある。これだけ近いと、惑星間で生命の種が広まるのは容易そうに思われる。

http://www.nikkei.com/content/pic/20170403/96958A9F889DE3E6E7E7E7E1EBE2E0E5E2E1E0E2E3E5E2E2E2E2E2E2-DSXZZO1455568027032017000000-PN1-6.jpgトラピスト1の7つの惑星は赤く薄暗い主星のすぐ近くに集まっていて、表面には液体の水がある可能性が高い。(ILLUSTRATION BY NASA/JPL-CALTECH

■火星から地球に飛び移るより容易
 今回、リンガム氏とローブ氏は、その可能性を厳密に計算してみた。トラピスト1惑星系の1つの惑星から隣りの惑星までの移動に要する時間は、地球-火星間の100分の1未満であることが明らかになった。そうなると、生命が惑星間の厳しい旅に耐えられる可能性は格段に高くなる。また、1つの惑星から飛び出した破片が別の惑星に落下する可能性は約20倍も高いことがわかった。

 これらを考え合わせると、生命がトラピスト1の惑星から惑星へと飛び移る可能性は、火星から地球に飛び移るより数千倍も高いことになる。

 英バッキンガム大学のチャンドラ・ウィクラマシンゲ氏は、「トラピスト1のような惑星系で微生物のやりとりが起こるのは必然です」とさえ言う。

 幸い、トラピスト1の惑星にはどれも条件さえよければ生命が住める可能性がある。
 7つの惑星のうちの3つは、主星から受ける熱が、表面に液体の水が存在するのにちょうどよい量になる「ハビタブルゾーン」にある。それ以外の惑星もほどよい距離にあり、惑星内部の温度がちょうどよく、大気に包まれているなら、同じくらい温暖であるはずだ。

 「もしかすると、私たちが予想もしなかったような条件下で暮らす生命体が見つかるかもしれません」とローブ氏。「だから面白いのです。あらゆる先入観を捨てて、トラピスト1の7つの惑星すべてを調べなければなりません」

■過酷な旅に耐えられるか
 もちろん現時点では、太陽系やそれ以外の場所で実際に「生命の種」が広まったことを示す直接的な証拠はない。一部の天文学者は、惑星の破片にヒッチハイクした微生物が惑星間の過酷な旅に耐えられるか疑問視している。

 生命の種は、まず宇宙にまき散らされる原因となる激しい衝突による高温と高圧に耐えなければならない。宇宙空間では、主星からの強烈な紫外線に何百万年もさらされることになる。最後にもう一度、次の惑星に落下する際にも高熱にさらされ、着地の衝撃に耐えなければならない。

 先月トラピスト1惑星系の発見を報告した研究チームのメンバーであるスイス、ベルン大学のブライス=オリヴィエ・ドゥモリ氏は、「かわいそうに、この生物は2回も焼かれて、紫外線を浴びせられるのです」と言う。

 同じ研究チームのケンブリッジ大学天文学者モリー・トリオー氏は、態度を決めかねている。「私自身は懐疑的です。ただ、生命が極端な条件に耐えられることも事実です」

 実際、原子炉の中や国際宇宙ステーションの外側で生きていた細菌もいたし、クマムシ(微小な無脊椎動物で、顕微鏡で観察すると丸々したクマのような形をしている)は宇宙空間の真空に10日間も耐えた。南極の氷の中で何世紀も凍りついていた生物が、研究室で息を吹き返したこともあった。

http://www.nikkei.com/content/pic/20170403/96958A9F889DE3E6E7E7E7E1EBE2E0E5E2E1E0E2E3E5E2E2E2E2E2E2-DSXZZO1455569027032017000000-PN1-6.jpg
もっと強力な望遠鏡があれば、トラピスト1の惑星は地球からこんなふうに見えるかもしれない。(ILLUSTRATION BY NASA/JPL-CALTECH/R. HURT (IPAC))

 ウィクラマシンゲ氏は、惑星から飛び出したすべての細胞が生き残る必要はないと言う。「植物の種が風にのって飛んでいくのと同じです。ほとんどの種は死んでしまい、ごく一部だけが生き残って子孫を残します。それで十分なのです」

 惑星系を発見した研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡や、2018年に打ち上げられるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測を行うことを計画している。トラピスト1の惑星に大気があれば、強力な望遠鏡で大気中の分子を調べて、生命の兆候を見つけ出せるかもしれない。

 1つの惑星上で生命の痕跡が見つかったら、ほかの惑星でも同様の痕跡を探してみるべきだ。それが見つかれば、生命が惑星間を行き来している証拠になる。「トラピスト1の観察は、パンスペルミア説を検証する絶好の機会です」と、ローブ氏。

 適切な証拠が見つかれば、生命は個々の惑星で最初から生まれてくる必要がないことになる。生命は、1つの惑星系の中で、もしかすると宇宙全体で、燎原の火のように広がってゆくのかもしれない。
(文 Shannon Hall、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)