宇宙誕生直後の謎 カギ握る「最古の光」

宇宙誕生直後の謎 カギ握る「最古の光」

2017/4/29 2:00

 宇宙は約138億年前に誕生した直後、「インフレーション」と呼ばれる急激な膨張が起きたと考えられている。このインフレーション理論は1980年代初めに佐藤勝彦博士(現・東京大学名誉教授)らが提唱した。一口にインフレーションといっても、様々な膨張の仕方が考えられ、非常に多数の理論モデルが提唱されている。

■謎解きのカギ握る「宇宙最古の光」
 では本当にインフレーションが起きたのか?起きたとすれば、それはどんな膨張だったのか?全天のあらゆる方向からやってきている「宇宙マイクロ波背景放射」の観測による検証が進んでいる。宇宙マイクロ波背景放射は宇宙誕生から約38万年後に生じ、「宇宙最古の光」とも呼ばれる。その観測データを詳しく解析すれば、インフレーションが起きた事実のみならず、提唱されている多数の理論モデルの中で、どれが有力なのか絞り込むことができる。

 宇宙マイクロ波背景放射は米欧が打ち上げた3つの探査機COBE、WMAP、プランクによって全天観測されているが、インフレーションの理論モデルの絞り込みで大きな成果を上げたのは米航空宇宙局(NASA)がCOBEの後継として打ち上げたWMAPだ。


探査機プランクの観測で得られた宇宙マイクロ波背景放射の全天マップ。誕生から38万年後の宇宙の温度揺らぎが刻み込まれている。オレンジ色は相対的に温度が高い領域、青色は温度が低い領域。(画像は ESA and the Planck Collaborationによる)


 WMAPのデータ解析で中心的役割を果たした小松英一郎博士(現・独マックス・プランク宇宙物理学研究所長)によれば、有力視されていたモデルの多くはWMAPの観測によって淘汰され,これまであまり注目されていなかった露ランダウ理論物理学研究所のアレクセイ・スタロビンスキー博士が提唱したモデルが改めて脚光を浴びているという。WMAPの後継で、より詳細に宇宙マイクロ波背景放射を観測した探査機プランクでも、同様の結論が得られている。

 スタロビンスキー博士は、インフレーション理論のパイオニアである佐藤博士と米マサチューセッツ工科大学のアラン・グース博士が論文を出す前年に、独自のインフレーションのモデルを論文発表している。ただ、小松博士らが発表したWMAPの観測結果の論文でスポットライトが当てられるまで、関心を持つ研究者はほとんどいなかったという。

 ではスタロビンスキー博士が提唱したようなタイプのインフレーションが誕生直後の宇宙で実際に起きたのか?新たに探査機を打ち上げ、宇宙マイクロ波背景放射をこれまでよりもさらに詳しく全天観測すれば、その答えが得られるとみられている。

 現在,そうした探査機のプロジェクトが米欧に先行する形で日本で進んでいる。ライトバードという名前の探査機で、小松博士も加わっている。順調に進めば2020年代半ばに打ち上げられる予定だ。現在もまだ、インフレーション理論そのものに異議を唱える研究者がいるが、ライトバードによる観測で、最終的な結論が出るとみられている。

(詳細は25日発売の日経サイエンス2017年6月号に掲載)