今 注目されるMR=複合現実って何?


今 注目されるMR=複合現実って何?

フェイスブックが先月・4月に開いた開発者向けイベントで、マーク・ザッカーバーグCEOはSNSの先にある未来の技術としてMRを挙げ、スマートフォンの次のプラットフォームを担う存在になるという見方を示しました。また、ライバルのグーグルは、MRの開発を手がけるベンチャー企業に多額の投資を行うなど、この分野に力を入れる姿勢を示しています。

MR=複合現実と呼ばれるこの最先端技術。SFの世界が現実になるというMRとはいったいどんなものなのでしょうか。
(経済部・野上大輔記者)

MR=複合現実とは

MRは英語のミックスド・リアリティ=複合現実の略語で、現実世界と仮想世界を融合させた映像を作り出す技術です。SF映画に登場するホログラムのような3D映像が特徴です。今から40年前、映画「スターウォーズ」の1作目でドロイドのキャラクター、R2ーD2がヒロインのレイア姫の立体的な映像を映し出した映像として一躍有名になるなど、映画のワンシーンが記憶に残る方も多いかもしれません。

MRは、現実の風景にコンピューターによる3Dの映像を重ねて表示する最先端の技術で、SF映画のような映像を作り出すことができます。ゴーグル型の機器を装着すると、周囲の現実の風景にコンピューター映像が重なって表示されます。さらに、ゴーグルには手の動きを感知するセンサーが搭載され、手ぶりによって、さまざまな操作もできるのが特徴です。

MRの呼び名に似た技術では、VR=仮想現実と、AR=拡張現実があります。

VRは、去年、ソニーが家庭用ゲーム機の機器として発売しました。映像は、コンピューターが作り出したものが基本で、ゴーグル型の端末を装着すると周囲にある現実の風景からは遮断されます。

ARは、現実の風景にコンピューターによる画像を重ね合わせる特徴ではMRと同じですが、CG映像を手ぶりで操作することはできません。ARの技術は、去年、世界的なヒットとなったゲームアプリ、ポケモンGOで一躍、注目されました。

このVRとARのそれぞれの技術を発展させたものがMRなのです。

マイクロソフトのホロレンズ

マイクロソフトはホロレンズと呼ぶ専用の端末をことし、日本市場に投入しました。先に投入した海外では、自動車メーカーのボルボが新しい車両の設計などに活用。日本では、日本航空が航空機の操縦やエンジンの整備の訓練に採用しています。

さまざまなビジネスの現場に採用され始めているこの製品は、大手以外の企業の間でも活用する動きが出ています。新潟県の建設会社では、橋やトンネルなどの建設工事の検査の際や工事の計画を効率的にするため、MRを導入しました。

これまでの工事では、この建設会社と下請けの業者、さらに、設計者や施工主などが会議室に集まったり、実際に建設現場に足を運んだりして、さまざまな打ち合わせを行う必要がありました。ホロレンズの導入により、あらかじめ現場の様子をデータ化しておけば、それぞれが自分の会社でゴーグルを装着し、いわばバーチャルで打ち合わせを行うことができるということです。工事に関する設計図などの資料もデータ化することで、ゴーグルの視界にいつでも呼び出すこともできます。MRの活用によって、建設工程の短縮につながるということです。

MRを導入した新潟県の小柳建設の小柳卓蔵社長は「熟練の技能者たちが減っているのが業界の最大の課題です。2次元の図面を見て、頭の中で3次元化できたら1人前と言われていた。しかし、それでは技能を磨くのに何年もかかってしまう。MRで3次元のデータを共有できたら、なり手のハードルも下がる」と話していました。

建設業界では将来の担い手不足が深刻化しています。国土交通省によりますと、2025年には47万人から93万人の技能労働者が不足する見通しで、MRがその課題の解決に一役買うかもしれません。

日本マイクロソフトの平野拓也社長は「パソコンやスマホとにらめっこしてきた私たちの働き方やコミュニケーションの在り方を大きく変える技術だと考えている。VRだけだと周りが見えないのが、MRは現実世界と合わせることで肌感覚でCGを見てとるので、ビジネスへの応用領域はとても広いと思っている」と話していました。

日本企業もMRへ

日本企業の間でもMRの開発の動きは始まっています。ソフトバンクグループと大阪の医療機器メーカー、モリタは、歯科手術を支援するシステムを共同開発しました。

歯科医師が専用のゴーグルを装着すると、目の前にいる患者の歯に、あらかじめ撮った本人の神経や骨、血管などのコンピューター映像が重ねて表示されます。歯科医師は、ゴーグルを装着したままで、実際は見ることができない神経などの映像を参考にしながら、手術を進めることができる仕組みです。また、ゴーグルには手の動きを感知するセンサーが搭載され、手ぶりによってカルテを呼び出したり、映像を拡大したりすることもできます。

このシステムは、再来年(2019年)には歯科医師の研修用にまず導入し、その後、手術での実用化を目指すということです。開発にあたったソフトバンクグループの勝本淳之さんは「MRの市場はまだこれからだが、拡大が期待される分野で医療以外にも応用が期待される」と話していました。

取材を終えて

将来の活用が期待されるMR。技術はまだ発展途上で、視野角が狭かったり、ゴーグル型の端末が重いという課題もあります。実際に私たちの生活に身近な存在になるのは数年後になる見通しです。誰もが使えるような製品となるMRが近々登場した近未来はどんな世界になっているのか、想像は膨らみます。