止まらぬ「脱ガソリン・ディーゼル車」ドミノ

止まらぬ「脱ガソリン・ディーゼル車」ドミノ

 欧州発の「脱ガソリン・ディーゼル車」ドミノが止まらない。英政府が2040年までに販売を禁止する方針を発表すると、英メディアが25日一斉に報じた。今月上旬に同様の方針を打ち出したフランスに次ぐ動きだ。18世紀、蒸気機関の発明と国産石炭の活用で世界を引っ張った英国の産業転換の象徴となる。英国に進出する日本の自動車大手の影響も大きい。
大気汚染対策を徹底、HVも販売禁止へ
英国に拠点を置く自動車大手はEU離脱に次ぎ、脱ガソリン・ディーゼル車の対応も迫られる(日産自動車サンダーランド工場)=ロイター

 「政府はディーゼル・ペトロール(ガソリン)の終わりを発表へ。2040年までにすべての新車は完全に電動化しなければならない」。英紙タイムズ(電子版)はこう報じた。ゴーブ環境相が26日に方針を発表するという。タイムズや英紙ガーディアン(同)によると、ガソリン車やディーゼル車だけなく、これらにモーターをつけたハイブリッド車(HV)も禁止の対象になる。

 フランスが地球温暖化対策が目的だったのに対し、英国の主眼は大気汚染対策にある。英メディアによると、ディーゼル車がはき出す窒素酸化物(NOX)などの有害物質で、国内では約4万人が死亡しているという。英政府の方針では、20年以降は大気汚染対策に改善がみられないディーゼル車に対し、地方自治体が課税できるようにもなるという。

 もっとも英国が電気自動車(EV)に全面移行するまでのハードルは高い。英国の新車販売(16年)に占めるEV比率はわずか0.4%、プラグインハイブリッド車(PHV)を加えてようやく1.4%だ。同様に内燃機関の車の販売禁止に動くフランスやオランダ、ノルウェーといった他の欧州主要国と比べ極めて低い。
 英政府の方針は自動車業界に大転換を迫る。一時は産業が衰退したが、サッチャー政権が外資を積極的に呼び込んだ。その結果、トヨタ自動車日産自動車ホンダや独米勢が現地に工場を建設したり、現地の企業を買収したりした。08年には旧植民地インドのタタ自動車が英ジャガー・ランドローバー(JLR)を買収する象徴的な事例も。典型的な「ウィンブルドン現象」で「メード・イン・ブリテン」の自動車はよみがえった。

高まる英国生産のリスク
 だが足元で状況は変わりつつある。昨年からの英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を巡って、外資系企業が現地生産を続けるリスクが顕在化してきた。米ゼネラル・モーターズ(GM)が英国に2拠点を構える子会社の独オペルを売却した一因だ。今度は英国の脱ガソリン・ディーゼル車のリスクが加わり、国内で売れないエンジンを生産し続ける意味は大きく低下する。
 一部企業は動き出している。独BMWは25日、傘下の英国ブランド「ミニ」初のEVを19年から英国で組み立てると発表した。JLRは昨秋、18年から1回の充電で500キロメートル走行できるEVを販売する計画を明らかにした。

 日本勢はどうか。トヨタは足元のHV販売が欧州でも好調で、4割近い伸びが続く。だが英政府の方針ではHVも禁止対象になり、長期戦略の見直しを迫られそう。HV主軸だったホンダも似ている。一方、日産は欧州ではEV販売で先行し、提携先の仏ルノーと足並みをそろえシフトはしやすい。日本車3社の株価は26日そろって上昇した。まだ株式市場は影響を注視している段階のようだ。

洋上風力のコスト低下、方針転換を促す
 英政府の新方針はエネルギー問題とも密接に絡む。政府は25年までに石炭火力発電所の運転を停止する方針を決めている。日本では日立製作所が参画する原子力発電所に注目が集まるが、石炭の代わりに原発を強く推す声は少数派。最近の話題は洋上風力発電所だ。遠浅の北海で建設しやすく、原発並みの安定した発電量が見込め、コストも下がってきた。

 英政府などがまとめたリポートによると、15~16年に最終的に投資が決まった洋上風力8事業の平均発電コストは、12~14年実績から2割低下。12年時点に政府が掲げた「20年に1000キロワットあたり100ポンド」という目標を4年前倒しで実現した。
 EV普及には充電インフラの整備が不可欠だが、蓄電池価格が低下し分散型の電源の使い勝手も増した。EV普及には電力システムの変革が並行しており、発電時も車の走行時も温暖化ガスを出さない社会の実現に近づくかもしれない。

 次の焦点はドイツの動き。ドイツでも脱ガソリン・ディーゼル車の議論は根強く、フォルクスワーゲン(VW)など3強はそろってEVシフトを打ち出している。EUは加盟国の基礎票28票を使い、旧植民地などを巻き込みながら国際会議の議論を主導。グローバルに企業活動も規定する「デジュール・スタンダード(公的標準)」づくりは得意技で、化学品規制などの先行例はある。EVの経済性の議論だけでなく、政治力のある欧州主要国がEVシフト・脱石炭に動き出した深謀にも目をこらす必要がある。
(加藤貴行)