中国の宇宙制覇に手を貸すドイツ 独の悪癖「チャイナ愛」で自衛隊保有の米軍最新鋭戦闘機の技術が流出か

中国の宇宙制覇に手を貸すドイツ 独の悪癖「チャイナ愛」で自衛隊保有の米軍最新鋭戦闘機の技術が流出か

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7月4日、会談に先立ちベルリン市中心部のブランデンブルク門を訪れた中国の習近平国家主席(右)とドイツのメルケル首相(中央)=ロイター

 ドイツの「親中国病」がまたぞろ発症した。というより、慢性化しており、病状は改善の兆しどころか悪化の一途をたどっている。実際、G20(20カ国・地域)首脳会議2日前の5日、中国の習近平国家主席が議長国ドイツのアンゲラ・メルケル首相に首脳会談で告げた「診断結果」は深刻であった。
 「(ドイツとの関係は)新たな段階に入ろうとしている」 

 独中首脳会談では、全面的な自由貿易協定へと道を開く投資協定の早期締結や、人民解放軍海軍の拠点と化したアンゴラでの水力発電所建設で合意した。もちろん、中国側の利益捻出しか眼中にない独善的な中華方式に、いずれ泣くことになってもドイツの自由。メルケル首相は、中国が主導する広域経済圏構想「《一帯一路》の枠組みのもとで中国と経済・貿易協力を深めたい」と申し出たが、それもドイツの勝手だ。
 こうした独中蜜月を、多くのメディアは、地球温暖化対策や自由貿易をめぐり、ドイツなど欧州が対立する「米トランプ政権への牽制」と報じるが、的を外している。米トランプ政権が誕生するはるか以前、独中蜜月は危険水域に達していた。

 今回の独中首脳会談でも、人権問題を重大視してきたメルケル首相は、独中人権問題対話につき「継続し、留意していきたい」と述べるのが精いっぱい。ノーベル平和賞受賞の民主活動家・劉暁波氏の治療に協力してはいたが、首脳会談時に存命だった劉氏の問題には直接触れなかった。

 もはや正気の沙汰ではない、と確信したのが《航空宇宙》分野での協力合意だ。ドイツは、宇宙にまで版図を拡大する中国の野望に目をつぶったのである。
 中国人民解放軍は2015年、《戦略支援部隊》を新編した。統合作戦完遂に向け、陸海空軍に加え、サイバー・電子戦空間と宇宙における軍事的優位確立をもくろんでいるが、既に2007年以来、宇宙占領のたくらみを隠さなくなっている。
 というか、誇示さえし始めた。この年、地上発射の衛星攻撃ミサイルで高度860キロにあった自国の古い気象衛星を破壊した。緒戦で、米軍など敵の軍事衛星を吹き飛ばし、「視力と聴力」を無力化するハラだ。

 世界に先駆けて《量子科学実験衛星》も打ち上げた。《量子通信》は盗聴や暗号解読が困難な防御力の優れて高い通信手段で、理論的にハッキングはまず不可能とされる。米国でさえ、中国の暗号通信を傍受できなくなる。言い換えれば、違法なハッキングで世界中の技術を盗みまくってきた中国が、自らはハッキングされない「独裁体制」を世界に強要するに等しい。
 近い将来、宇宙ステーションや月面基地も完成の見通しだが、特に月面基地は、核融合に使う物質の採掘が狙いと観測されている。

アルゼンチン奥地で、中国人民解放軍の秘密宇宙基地が稼働
 ドイツが前のめりになる中国との航空宇宙分野協力は結果的に、軍事同盟を締結する米国をも裏切る事態を誘発する。
 中国はアルゼンチン西部のチリに近い奥地ネウケン州に最近、海外初となる、怪しさ満載の宇宙基地《中国宇宙探査研究センター》を建設し、稼働にこぎつけた。基地は2015年にアルゼンチン議会が批准したが、批准前に建設工事が始まっていた。しかも、敷地200ヘクタールは50年の借用で無税。アルゼンチンの朝貢ブリは際だっている。中国衛星発射・コントロール局(CTLC)はアルゼンチン宇宙開発委員会(CONAE)に「民間目的であり、人民解放軍の運営ではない」と伝えているが、米軍関係者は筆者に「100%軍事目的。米国の宇宙システムの監視や破壊の牙城となる」と言い切った。

 メルケル首相は、地球温暖化対策や自由貿易をめぐり米国のドナルド・トランプ大統領を非難できる立場にない。ドイツ国内での、対米背信行為の数々を振り返ってみるがいい。例えば、筆者を仰天させた中国家電大手・美的集団(ミデア・グループ)によるドイツのロボット大手・クーカの買収。

クーカの技術は米軍の最新鋭ステルス戦闘機F-35の機体製造に使われているのだ。ドイツ政府は2016年、「買収は安全保障に危険は及ぼさない」として不介入を表明した時にはあきれた。もっとも、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)と国務省・国防貿易管理局(DDTC)が4カ月半後、美的の子会社を通じたクーカ買収を承認してもいて、またまた仰天した。
 ドイツの悪癖「中国愛」の腐臭は耐え難いが、米国の承認で、わが航空自衛隊で今年度中に配備が始まるF-35の機密も漏れ出す懸念がある。かつて日本は中国大陸を舞台に、ドイツと米国に「後ろからバッサリ」斬られているが、歴史は繰り返されるのか。

 支那事変において、「米国義勇軍」を騙(かた)る米軍・対日航空戦闘部隊が中国・国民党軍を密かに支援した。米国は当時、大日本帝國の仮想敵国であり、小欄のテーマは「中独合作」であるため今回、米国は取り上げない。以下、薄汚い「中独合作」を説明しよう。
 軍近代化を迫られた中国・国民党は満州事変(1931~33年)後、独ワイマール共和国や続くナチス政権に接近。軍事用鉱物資源獲得の下心もあり、ドイツは1927~38年まで軍事顧問団を送り続けた。

 とりわけ、1934年より1年間団長を務めたハンス・フォン・ゼークト退役陸軍上級大将(1866~1936年)は、第一次大戦で壊滅状態に陥ったドイツ軍の再建と将来(電撃)戦への青写真を確立した「ドイツ軍の頭脳」と畏敬された人物。国民党の蒋介石・前国民政府主席(当時、1887~1975年)に、大規模・低練度だった国民党軍の装備や機動性の向上を具申した。後継団長アレクサンドル・フォン・ファルケンハウゼン退役陸軍中将(後に歩兵科大将に現役復帰、1878~1966年)も路線を踏襲し、ドイツ式教育訓練を続けた。

 方針に沿い、8割が非近代兵器だった国民党軍に鉄帽/小銃/各種大砲をはじめ戦車や戦闘機を輸出。ドイツで教育した中国人技術者運営の各種工廠では双眼鏡/狙撃銃用照準/小銃/機関銃/迫撃砲/装甲偵察車両/大砲/ガスマスクを生産した。毒ガス製造施設建設こそ中止されたが、化学研究所はドイツ企業の援助で完成した。
 折しも、国民党軍による攻撃に日本軍が応じ第2次上海事変(1937年)が勃発するや、ファルケンハウゼンは蒋に消耗・ゲリラ戦に持ち込み大日本帝國陸海軍を疲弊させる作戦を進言。上海西方に構築した塹壕とトーチカによる要塞線=ゼークト線に日本軍をおびき寄せんとした。日本軍は圧勝したが損害は予想外に大きかった。

 軍事資源を産む鉱山・工業地帯と沿岸を結ぶ鉄道敷設でも中独は利害が一致。ドイツ技術を投じた貴陽~南昌~杭州や漢口(現在の武漢)~広州路線は、軍用としても日本軍を悩ませる。
ドイツは日独防共協定締結の陰で、日本が交戦中の中国に武器密輸し続けた
 米国のように敵性国家であれば、水面下で軍事支援は諜報工作の一環との見方は許されようが、ドイツは違う。第2次上海事変の前年=1936年に(対ソ)日独防共協定を結びながら、日本と交戦中の国民(党)政府への武器密輸を継続したのである。

 けれども、背信行為は報いを受ける。国民(党)政府は1937年、ドイツの仮想敵・ソ連と中ソ不可侵条約を締結してしまう。これで態度を硬化させたアドルフ・ヒトラー総統(1889~1945年)がやっとのこと、新たな兵器輸出を禁じた。それでも受注済み兵器は契約通り輸出され、完全な禁輸&軍事顧問団撤退は、ドイツが満州国を承認した1938年に入って。国民(党)政府と断交し“親日”の汪兆銘政権(1940~45年)を承認したのは、驚くべきことに、日独伊三国同盟締結後1年近くもたった41年になってだった。
 現代版「中独合作」は、既述したクーカ買収に留まらない。中国企業は、少なくとも2016年前半の半年間、1週間に1社のペースでドイツの先端メーカーを「爆買」しまくり、買収総額で過去最高を記録した。

 ドイツの半導体製造装置メーカー・アイクストロンの、中国・福建芯片投資ファンドによる買収劇には、さすがに「待った」がかかったが、わが国政府も検証しなければならぬ事案であった。
 ドイツ政府は2016年9月、アイクストロン買収を一旦は承認したが、再審査する方針へと転換。その後、米国政府が安全保障上の理由から米子会社の買収を認可しなかった状況を理由に、福建芯片投資ファンドの側が買収を放棄した。半導体製造装置が軍事技術の一角を形成することは、承認を担う官庁では常識中の常識だ。ドイツ経済エネルギー省は「承認当時に安全保障関係の情報を把握していなかった」と説明するが、にわかには信じがたい。

 米国は半導体大手への出資を阻止するなど、中国の「知的財産強奪犯」を追っ払ってはいる。トランプ大統領も、ドイツの政府やメディアが発する反省・悲鳴を通し、中国の正体を看破するときだ。総合すると、こう言っている。
 「ドイツ国内で中国企業はドイツ企業を自由に買いあさる。反面、ドイツからはフォルクス・ワーゲン(VW)などが歴史的と形容できるほど古くより中国市場に進出するが、外資の出資比率は半分以下に制限され、投資は厳しく規制されたまま。誰もが同じルールでプレーする必要がある。中国は市場アクセスや企業買収を事実上不可能にしている」
 「独中関係はパートナーではなくライバルになった。ドイツ企業買収のハードルを上げねばならない」
 「EUは加盟国政府に、非EU企業の株式保有を阻止したり、条件を厳格化したりする権限を与えないといけない」
 「買収が中国の国策と化している。国家に支配された企業の技術獲得は、外国投資とは分けるべきだ」

 ドイツが送っているEU委員も「狡猾な連中」と正直に表現してもいる。ただし、「狡猾」なだけでなく「獰猛な技術窃盗集団」と訂正しておく。その「狡猾で獰猛な技術窃盗集団」に過去、何度も国益を犯され、前述したように政府やメディアが反省の弁を繰り返している割に、ドイツは懲りない。
空母のカタパルト技術を有するドイツ企業も中国の餌食に
 中国化工集団公司(ケムチャイナ)がドイツの重機大手クラウス・マッファイを買収した際も、筆者はゾッとした。

 クラウス・マッファイは、磁気浮上鉄道の業界で一目置かれる。日本が実用化を目指すリニア・モーターカーなどもそうだが、磁気浮上技術は空母のカタパルト技術につながる。カタパルトは、滑走環境が制約される空母上に敷設された艦上機を射出する、パチンコのゴムに例えられるシステム。カタパルトの有無や性能は、艦上戦闘機の搭載兵器の数・重量や投射機数など航空戦力に巨大な影響を及ぼす。極めて高い技術力が必要で、空母を“自力建造中”の中国が開発に困り果て、米国などから盗みたがっている筆頭格の軍事システムだ。
 おまけに、クラウス・マッファイ分社化後、他社との合併で再編された系列会社は、戦車大国ドイツでも屈指の戦車・自走砲メーカーとくる。

 全体、2004年の教訓、否、戦訓はどこに行ったのだろう。2007年8月の独シュピーゲル誌の表紙を飾った「中国人女性」は怖かった。赤いブラインドを赤いマニキュアを付けた指でこじあけ、魅力的な目で外をうかがっていた。表紙以上に、シュピーゲル誌の特集《イエロースパイ》の報じた内容は衝撃的だった。既に述べたが、空母に不可欠なカタパルトの技術を手段を選ばす得ようとする執念がいかに凄まじいか、特集は見事に浮かび上がらせた。

 《中国は高速鉄道網建設に向け、高度な技術を安価で取得すべく日独とフランスを競わせた。ドイツはリニア建設で300億円相当の技術を提供したが、政府の補助金で開発した高度技術だけは伝授しなかった》
 《そこで、2004年11月26日夜、この技術を盗もうと“中国人技術者”らがドイツのリニア工場(上海)に忍び込んだ。ところが、設備を無断で測定していた現場を発見された》
 《その後、中国側はドイツに技術使用料を払い、自ら建設する計画などを提案したが、ドイツは当然拒んだ》

FBI(米連邦捜査局)はトランプ大統領に積極的に情報を上げてほしい。FBIの調べでは、ドイツのリニア工場侵入事件当時、米国内にはスパイ目的の偽装企業が既に3千社以上存在した。
 ワケがある。ロシアの諜報活動は、凄腕のプロが1人で「バケツ1杯の砂」を持ってくるが、中国流は違った。中国の兵器技術情報収集の教範《西側軍事科学技術の収集利用に関する中華人民共和国の長期計画》などは、以下のごとき手法を奨励する。

 《4千の団体が政治・経済・軍事・医学・社会・教育・文化など、あらゆる正面で収集に当たる。洗練されたプロではある必要はなく、スパイ教育を受けた各分野の専門家を使い、一度に大量ではなく、少しずつ情報を集めるやり方が肝要だ》

 1人の“アマチュア”が「一粒の砂」を集めてきて、組織全員で「バケツ1杯の砂」にする手口のようだ。
 しかし、ドイツにおける企業の「丸ごと強奪」を考察すると、ロシア流も併用したことになる。 
 G20に象徴される米欧の神経戦を「戦機」に、日米同盟は狡猾で獰猛な「中独協商」を相手に、今まで以上の情報戦を強いられる。果たして、わが国に闘う覚悟&力ありや…。