電磁パルス攻撃 防護策遅れる日本 政府が検討着手も「手探り」

電磁パルス攻撃 防護策遅れる日本 政府が検討着手も「手探り」


昨年オープンした科学技術学習施設「科学技術殿堂」。「衛星」と称する長距離弾道ミサイルの巨大模型などが展示され、子供たちに核技術の重要性を教える施設ともなっている

 北朝鮮が「水爆」実験で「電磁パルス攻撃」の可能性に言及したことを受け、政府が新たな対応に迫られている。国家レベルの甚大な被害が懸念される攻撃だが、日本の対策は手付かずの状態だ。無防備な現状は危険で対策を急ぐべきだと専門家は指摘している。(小野晋史)
 電磁パルス攻撃は、弾道ミサイルを使って高度30~400キロ上空で核爆発を起こせば可能だ。その際に生じたガンマ線が大気と作用し、強力な電波の一撃である電磁パルスが発生して地上に襲いかかる。影響範囲は爆発の高度や規模によって異なるが、日本全土をほぼ覆うこともできる。

 高電圧のパルスは送電線を伝って地上の電子機器に侵入し、損壊させる。コンピューターで制御する発電所が機能を失えば大規模停電に至ると予測され、通信やガス、水道などの公共インフラも止まれば都市機能はまひする。経済や医療、交通をはじめ、国民生活に与える影響は甚大だ。
 このため政府は内閣官房を中心に防衛や経済産業、国土交通といった安全保障やインフラの関連省庁で対策の検討を始めたが、その実現は容易ではない。

 防衛省は装備品の開発で電磁パルス攻撃への対策を義務付けておらず、試験設備も不十分。来年度予算の概算要求に14億円を盛り込み、敵に電磁パルス攻撃を加える弾頭の開発を目指すが、肝心の防護は後回しになっているのが実情だ。
 また同省は今秋にも電磁パルス攻撃の防護に関する調査を始めるが、技術的な課題を探るのが主目的で実用化への道筋は見えない。
 一方、国交省交通機関や物流システム、経産省は電力やガス供給への影響や復旧対策などを担当。停電やサイバー攻撃などの対策も参考に検討するが、「手探りの対応」(経産省関係者)を迫られている。
 どのような対策が現実に可能なのか。

 NTTネットワーク基盤技術研究所の富永哲欣主幹研究員は「電子機器を隙間なく包み込む金属製のシールドと、外部とつながった電源や通信などのケーブルに特別な避雷器やコネクター(接続部品)を付ける対策が考えられる」と指摘する。
 金属シールドは大気中を伝わってくる電磁パルスを遮断できる。ただコネクターは軍事規格の特別品が必要だ。避雷器も8キロボルトの電圧と800アンペアの電流に耐える性能が必要で、一般的な製品では防護できない。

 また、すべての施設で対策を実施するのは困難で、制御機器やデータベースなど重要機器が設置された部屋を優先的に防護するのが現実的だ。停電に備えた自家発電装置も必要になる。
 一般国民はJアラートが鳴ったら、パソコンにつないだコンセントや通信ケーブルを抜くなどの対応が考えられるが、被害をどこまで防げるかは未知数だ。
 電磁パルス攻撃の脅威を早くから認識してきた米国や韓国では、既に軍関係や電力網などで防護対策が進んでいるという。専門家は「今からでも遅くない。日本もすぐに始めるべきだ」と話す。