北朝鮮ミサイル発射の裏で中国が尖閣諸島を実質半分支配か…米軍は動かない可能性


北朝鮮ミサイル発射の裏で中国が尖閣諸島を実質半分支配か…米軍は動かない可能性


文=深笛義也/ライター
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尖閣諸島沖で中国漁船が衝突、海上保安庁が乗組員を救助する様子(提供:海上保安庁/AFP/アフロ)

 国際社会の制止を振り切って核実験を強行した北朝鮮と、従軍慰安婦問題の「日韓合意」や「徴用工」など、過去の取り決めを反古にする姿勢を見せる韓国。今、日米中をはじめとする世界は朝鮮半島の2国に振り回されている。


 前回、前々回の記事では、『朝鮮半島はなぜいつも地獄が繰り返されるのか 中国人ですら韓民族に関わりたくない本当の理由』(徳間書店)の著者で日本に帰化した元中国人の石平氏の話をお伝えした。

 今回は、10月に中国共産党第19回全国代表大会が開かれる中国について聞いた。
「死ぬまで権力を握る」習近平の政敵潰し


 5年に一度の党大会を控える中国では、「ポスト習近平」が取り沙汰されている。当初、その地位に近いとみられていた孫政才氏が7月に「重大な規律違反の疑い」を理由に重慶市党委員会書記を解任され失脚すると、習近平国家主席はその後任に自身の側近である陳敏爾氏を起用した。今後は、習主席への権力集中が強化されるのか。

朝鮮半島はなぜいつも地獄が繰り返されるのか 中国人ですら韓民族に関わりたくない本当の理由』(徳間書店/石平)

「2012年に習近平政権が成立する前、中国共産党内には2つの派閥がありました。ひとつは中国共産主義青年団を仕切る胡錦濤派、もうひとつは江沢民派です。

 前国家主席胡錦濤が自分の後継者として育ててきたのが、共青団出身で現在の首相である李克強です。その李克強の対抗馬として江沢民派が出してきたのが習近平。この政争に江沢民派が勝って、習近平中国共産党総書記になりました。そして、妥協案として李克強が首相になり、今の体制ができたわけです。

 しかしながら、胡錦濤は退任前に子飼いの幹部を何人も中央政治局に送り込んでいました。胡錦濤が期待しているのは、習近平が退陣した後に自分の子分が次の政権を握ること。一方で、政権の座についた習近平江沢民派潰しを始めました。なぜかといえば、そのままでは習近平は永遠に江沢民から『お前は誰のおかげで総書記になったんだ』と言われるからです。

 習近平は、盟友の1人で経済学者の王岐山を中央規律検査委員会の書記に就任させました。同会は、日本の江戸時代でいえばお目付役。党内の腐敗調査に関しては絶大な権力を持っていて、超法規的手段で党幹部全員を取り調べることができます。

 そして、王岐山江沢民派の幹部をほとんど潰しました。その最後となったのが、50代で失脚した孫です。彼は江沢民の秘蔵っ子で、習近平を推したのも実は彼でした。孫の失脚によって、習近平江沢民派潰しは完了したのです。

 では、今の権力構造はどうなっているか。習近平の子分は中枢部には1人しか育っておらず、せいぜい地方の主要幹部止まり。中央政治局の大半を占めているのは胡錦濤派です。要は、習近平江沢民派を潰すために胡錦濤派と連携しなくてはならなかったのです。

 次の党大会で中央政治局常務委員の入れ替えが行われ、おそらく半分程度は胡錦濤派、あとの半分は習近平派になるでしょう。つまり、習近平派と胡錦濤派の連合政権が誕生するわけです。

 しかし、問題はそこから。胡錦濤派が自身の後を狙うため、いずれ習近平胡錦濤派を潰さなければなりません。それができて初めて、習近平は絶対的な権力者の地位を手に入れられるわけです。習近平は、胡錦濤のように2期10年で任期を終えて引退するという考えはありません。死ぬまで権力を握るつもりです」(石平氏

 昨年10月、習主席には「核心」という称号が与えられた。この表現は、毛沢東、鄧小平、江沢民の3人にしか用いられていなかったものだ。

 また、今回の党大会では「党大会時に68歳に達していれば引退」という慣例も見直される予定だという。仮にこの「定年制」が延長されれば、習主席は69歳で迎える2022年の党大会で引退する必要はなくなり、3期目を視野に入れることもできるようになる。
習近平が狙う「アジア完全支配」の全貌


 想像を絶するような権力闘争が繰り広げられている中国だが、習主席は長期政権の先に何を考えているのだろうか。

「彼がやろうとしているのは、『習近平思想』を中国共産党の規約に盛り込むことです。それに成功すれば、彼は毛沢東と肩を並べることができる。毛沢東には、毛沢東思想がありましたから。『思想』を創立するということは、ただの政治指導者ではなく、中国共産党イデオロギー的な教祖になるということです。

 ただ、毛沢東思想が受け入れられたのは中華人民共和国を建国したという圧倒的な実績があったからです。また、鄧小平には鄧小平理論がありましたが、同様に改革開放によって中国経済を拡大させたという実績があります。

 一方で、習近平にはそんな業績はありません。毛沢東も鄧小平も超える、少なくとも肩を並べるような何かが必要です。そこで考えているのが、対外的な勢力拡大です。AIIB(アジアインフラ投資銀行)、一帯一路、南シナ海の海洋進出……すべてはそのためです。

 中国をアジアに君臨する一大帝国につくり上げる。それができて初めて、毛沢東や鄧小平に肩を並べることができるわけです。『中国がアジアを支配する』という考えは、歴代王朝の伝統です。新しい王朝が誕生すると、その正当性を認めさせるために必ず対外的な拡張を行い、周辺国を服従させる。それが、中国の皇帝が天下の主であることの証明になったのです。『中国の皇帝というのは、中国だけでなくアジア全体の皇帝でなければならない』というわけです。

 習近平が目指しているのは、一帯一路やAIIBで経済的に周辺地域を支配し、最終的には軍事的にも支配することです。最近、南シナ海だけでなく東シナ海でも活動を活発化させているでしょう。習近平は党大会後の5年間で、圧倒的な業績を見せつけなければなりません。そのため、次の5年は経済と軍事の両面において、より大きな動きがあると思います」(同)
中国・習近平尖閣諸島強奪のシナリオ


 共産主義イデオロギーであるはずの中国の主席が、かつての皇帝と同じように考えているというのは、興味深いところだ。

「それは、中国の歴史観と関係があるのです。近代以前、中国はアジアの頂点に立っていました。しかし、近代以降、中国は西洋列強や大日本帝国に侵略されて100年以上もいじめられたわけです。中国人が歴史を語るとき、アヘン戦争から始まります。『あの屈辱を二度と味わいたくない』というわけです。

 では、どうするか。軍を強くしよう、国を強くしよう、我々が支配しよう……ということになる。アメリカやイギリスが『そんな政策はダメだ』と言っても、『何を言っている。お前たちだって昔はやったじゃないか。今度は我々の番だ』というわけです」(同)

 中国からは、しばしば「沖縄は中国の一部だ」という声が上がる。やはり、将来的に支配の目標に入っているのだろうか。

「当然、視野に入っています。中国にとって、沖縄の米軍基地は目の上のたんこぶです。米軍を沖縄から追い出さなければ、海洋進出の計画が完遂できないという事情があります。また、沖縄が切り離されれば日本は弱体化するでしょう」(同)

 沖縄が視野に入っているとすると、東シナ海尖閣諸島は、より明確な獲得目標になっているのだろうか。

「一帯一路などの経済政策は、何をもって成功とするのか、わかりづらいですよね。しかし、仮に尖閣諸島を手に入れたということになれば、目に見える業績です。何の説明もいりません。

 尖閣諸島の現状は、もう半分ぐらい中国に取られているも同然ではないでしょうか。中国の公船が好き勝手に入ってきて、日本は強く追い出すこともできない。まだ上陸はしていませんが、日本だって上陸していないわけですから。

 日本も中国も、尖閣諸島の周辺を船でうろうろしているだけ。だから、すでに日本は施政権を半分は失っているんですよ。尖閣諸島日米安保条約が適用される前提は『施政権が日本にある』ということですが、それが半分は反古になっているわけです」(同)

 北朝鮮をめぐる一連の問題でアメリカが中国を頼り続けるとしたら、仮に中国が尖閣諸島を支配しても、米軍は動かないという可能性すらある。ミサイルばかりに気を取られていると、取り返しのつかない事態になりかねない。
(文=深笛義也/ライター)

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