トランプ大統領が北朝鮮攻撃を決断する「来日時の、ある条件」

トランプ大統領北朝鮮攻撃を決断する「来日時の、ある条件」

安倍総理は「貸し」を作れるかも

日本と打ち合わせて、中国に乗り込む

米国のトランプ大統領が11月5日から、日本を皮切りにアジアを歴訪する。最大の焦点は緊張が高まる北朝鮮問題への対応だ。米国は軍事攻撃を決断するのか。私は「最終決断はもう少し先」とみる。なぜか。
まず、日程を確認しよう。
大統領は5日に来日して安倍晋三首相とゴルフを交えて首脳会談をした後、7日に韓国、8日に中国を訪問する。10日はベトナムアジア太平洋経済協力会議APEC)首脳会議、12日はフィリピンで東南アジア諸国連合ASEAN)との首脳会議に出席する。
一連の日程から、大統領と安倍首相の強固な関係が浮き彫りになってくる。言うまでもなく、中国は北朝鮮問題でも南シナ海問題でも鍵を握る最重要のプレーヤーだ。大統領はまず安倍首相と全体の腹合わせをしたうえで、中国に乗り込むのだ。
フィリピンのドゥテルテ大統領が10月31日に来日して安倍首相と会談したのも、自分が議長を務めるASEAN首脳会議で日本の援護射撃を期待したからだ。日本はいまや東アジアの国際関係で最重要の地位にある。
トランプ大統領は中国の習近平国家主席に何を語るのだろうか。
ずばり言えば「オマエは北朝鮮をどうするのか。中国が核とミサイル開発を中断させないなら、オレが実力でやるぞ」と脅すに違いない。朝鮮半島を射程に入れた西太平洋に空母3隻の大部隊を展開させているのも、そのためだ。
これに対して、優柔不断の習主席は時間稼ぎを試みるだろう。北朝鮮への圧力強化を求める米国の要求をむげには断れない。真正面から拒否すれば、米中関係が悪化するだけでなく、米国に軍事攻撃を決断させかねない。それはなんとしても避けなければならない。
結局、北朝鮮に向けた石油供給の追加削減くらいは表明したとしても、中国が北朝鮮金正恩氏に決定的な打撃を与えるのは、また先送りする。
一方、トランプ大統領の狙いは何か。北朝鮮を軍事攻撃せざるをえなくなった場合には、中国が攻撃を容認することを確認する。それが最低限の獲得目標になるはずだ。

中国が置かれた微妙な状況

中国側は8月10日、政府系新聞である『環球時報』社説の形で、すでに容認する姿勢を表明している。社説は「北朝鮮が先に攻撃し米国が報復しても、中国は中立を保つ。ただし、米国が朝鮮半島の版図を塗り替えようとするなら、断固として介入する」と書いた。
これに対して米国は4日後の14日、ティラーソン国務長官マティス国防長官が連名で米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』に寄稿し「米国は北朝鮮に米軍を駐留させる意図はない」と表明した。8月18日公開コラムで指摘したように、これは事実上の米中往復書簡だった(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52624)。
大統領は首脳会談で習主席自身の口から攻撃容認の確約を取り付けようとするはずだ。米国にとって「米国が攻撃した時に中国が介入してくるのか否か」を見極めるのは、攻撃の可否を判断するうえで決定的に重要な要因である。

先のコラムにも書いたが、1950年の朝鮮戦争ではマッカーサーの司令部が独断で「中国の介入はない」と決めつけて、米軍中心の国連軍を中朝国境の鴨緑江まで進軍させた。中国は鴨緑江の南側(北朝鮮側)で、国連軍に待ち伏せ攻撃を仕掛けて大戦果を挙げた。
つまり、米国の予想に反して中国が大規模介入したのである。マッカーサー司令部の致命的な判断ミスだった。
結局、この戦争は膠着状態に陥り、53年に休戦したまま現在に至っている。米国がこの手痛い歴史の教訓に学んでいないわけがない。今回、同じ朝鮮半島を舞台にした緊張下で中国の出方をギリギリまで見極めるのは当然であり、最高司令官の義務と言ってもいい。
一方、中国は自分が手を下すのを避けたとしても、米国に「北朝鮮を攻撃するな」とまでは言えない。それを言ってしまえば、中国が米国と対立する形になってしまう。
中国とすれば、北朝鮮問題が米中間の対立を加速させたり、まして戦争を引き起こすような事態はあってはならない。中国の大戦略は太平洋における米国との縄張り2分割である。東アジアから米国を追い出したいが、だからといって無用な対立を望んではいない。

もう1人の重要プレーヤー

中国が朝鮮半島で守りたいのは、「金正恩」という個人ではなく、あくまで「北朝鮮という緩衝地帯」である。
先の戦争では緩衝地帯を失いかけたために、30万人以上といわれる人民解放軍の犠牲を払っても北朝鮮を死守した。だが、いま米国が「北朝鮮進駐の意図はない」と言う以上、金正恩氏を守るために中国が犠牲になるなど到底、許容できない話なのだ。
では、中国から攻撃容認を確認できれば、トランプ大統領は軍事攻撃を決断するだろうか。私は「それでも決断しない」とみる。なぜなら、他にも重要なプレーヤーがいるからだ。ロシアである。

トランプ大統領は中国と同じように、ロシアのプーチン大統領からも攻撃容認を取り付けなければ決断できないだろう。それは、米中ロと北朝鮮の関係を個人にたとえて考えてみれば、分かりやすい。
バカで小心な乱暴者のK(金正恩氏)のバックには、S(習近平氏)とP(プーチン氏)がいる。Kは強力な拳銃を手に入れたので、いい気になって、かねてガンを飛ばされ頭にきていたT(トランプ氏)にケンカを吹っかけた。
Tがその気になれば、Kをやっつけるのは簡単なのだが、バックのSとPを敵に回すのはまずい。それなりに強い2人がタッグを組んで本気で自分に立ち向かってくれば、面倒なことになる。そこでKを叩く前に、まずSとPに話をつける必要が出てくる。
最初に話すのが、今回のSだ。それが終われば、次はPが待っている。Sと話をまとめただけで、Pの了解を抜きにKをボコボコにしてしまったら、後でPはTに嫌がらせをするに決まっている。だから、Tはまだ手を出せないのである。
トランプ氏の気持ちはこうだろう。
「Kが調子に乗ってオレを脅している。オマエたちがKにケジメをつけてくれるのか。それともオレが始末をつけようか。オレが片付けてもいいが、そのときは黙認しろよ。その後でKの縄張りをどうするか、はオマエたちに任せるから」
というわけで、トランプ氏は習近平氏の後でプーチン氏と話をつけなければならない。そのとき、日本の安倍首相が重要な役割を果たすだろう。

日本は貸しを作るチャンス

安倍首相はプーチン大統領と友好的な関係を維持している。これまでそうだったように、トランプ氏は安倍首相を通じてプーチン氏の腹の中を探ろうとするに違いない。安倍首相が双方の橋渡しをできれば、トランプ氏に貸しを作ることもできる。
恩義を感じたトランプ氏は「ロシアから北方領土が戻ってきても、米国はそこに米軍基地を置かないと約束する」と言うかもしれない。そんな約束が得られれば、安倍首相はプーチン大統領との北方領土交渉で大きな駆け引き材料を手に入れる形になる。
これまでの日ロ交渉では「返還後の北方領土に米軍基地ができてしまうのではないか」というのがロシア側の大きな懸念だった。安倍首相が「米軍基地は来ない。経済協力もする」と言うことができれば、プーチン氏の心を動かせるかもしれない。
つまり、今回の北朝鮮危機は深いところで日本の北方領土問題の行方にも関わってくる可能性があるのだ。朝鮮半島問題は東アジアの主要プレーヤーすべてを巻き込んだ戦後最大の危機である。危機を乗り越えられれば、功労者に対する報償も大きくなる。
一方、習近平主席とプーチン大統領の話し合いもこれからだ。金正恩氏を除去した後、北朝鮮をどうするかは中ロの出方にかかっている。米中ロ3カ国の駆け引きは始まったばかりである。
おっと、韓国を忘れていた。韓国の文在寅ムン・ジェイン)大統領をMとしよう。
Tにしてみれば、Mなど「オマエはどうせ最後に勝った方につくんだろう。いまは黙って見ておれ」くらいの気持ちではないか。信用できないのだ。
どっちつかずでフラフラしているMのような小者に事態を動かす力はまったくない。