米ハリウッドが描くサムライ日本「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」の凄さ 大人こそ必見アニメの悲しい物語

米ハリウッドが描くサムライ日本「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」の凄さ 大人こそ必見アニメの悲しい物語

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『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』 11月18日(金)梅田ブルク7他配給: ギャガ(C) 2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.

 最近のハリウッド映画で目立つのは、中国への露骨なすり寄りぶりだ。
 例えば2013年公開の宇宙SF「ゼロ・グラビティ」(アルフォンソ・キュアロン監督)のように、船外活動中の不慮の事故で宇宙空間に放り出されたサンドラ・ブロック演じる医療技師ライアン・ストーン博士が数々のピンチを切り抜け、中国の宇宙ステーション「天宮」にたどり着き、最後は中国の有人宇宙船「神舟」で地球に帰還。
 また、2015年公開の宇宙SF「オデッセイ」では、火星にひとり取り残されたマット・デイモン扮(ふん)する宇宙飛行士マーク・ワトニーの救出作戦に乗り出すも、手詰まりになった米航空宇宙局(NASA)に救いの手を差し伸べた“救世主”が何と、中国の宇宙開発を担う中国国家航天局(CNSA)だった。
 実際、作品自体に中国資本が出資している例も少なくなく、そんな作品が中国贔屓(ひいき)になるのは当たり前と言えば当たり前なのだが、そんなハリウッドにも、驚くほど日本文化に造詣(ぞうけい)が深いクリエイターがいることをこの作品で知った。
 米では昨年の8月15日、日本では今年の11月18日から公開されるストップモーションアニメ映画「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(制作・監督・演出、トラヴィス・ナイト)だ。

黒澤明宮崎駿など大好きな“日本通”アメリカ人が…ジブリ鈴木Pも「二度驚く」でき映え
 ストップモーション・アニメとは、静止している絵や人形を1コマごとに少しずつ動かしてカメラで撮影し、それらが動いているかのように見せるアニメのことだ。
 この作品、2005年に米オレゴン州ポートランドで設立され、「ティム・バートンのコープスブライド」(05年)の制作に携わって有名になり、07年の長編映画第1弾「コララインとボタンの魔女 3D」で米ゴールデン・グローブ賞のアニメ映画賞の候補になった映像制作会社「ライカ」が手がけた。

 本作の制作・監督・演出を務めるトラヴィス・ナイトは「ライカ」の最高経営責任者(CEO)を務め、黒澤明監督や宮崎駿監督の作品はもちろん、日本の漫画やアニメが大好きな大の“日本通”で知られる。
 そんな彼が、黒澤映画の影響で最も好きになった、侍(さむらい)が活躍した頃の日本の文化や芸術、風習、言い伝えなどを徹底的に調べて作り上げたのが本作なのだが、宣伝文句にある「この映画をアメリカ人が作ったというから二度驚く。日本も捨てたモンじゃない!」という、あのスタジオジブリ鈴木敏夫プロデューサーのコメントが全く大げさではない、でき映えなのだ。(以下、ネタバレを含みますので、読みたくない方は最後まで飛ばしていただければと思います)
 主人公の少年、クボ(声・アート・パーキンソン)は、三味線を弾きながら物語に合わせて折り紙を自由自在に操るといった不思議な力を持っている。しかし彼には左目がない。幼い頃、闇の魔力を持つ月の帝(声・レイフ・ファインズ)から奪われたのだ。
 母によると、侍だった父ハンゾウは月の帝から家族を守って命を落としたが、その月の帝こそ、彼の祖父だという。クボにはそのことが信じられなかった。
 クボと母は闇の勢力から身を隠すため、最果ての地でひっそり暮らしていたが、見つかってしまい、母も命を落とす。父母の仇(かたき)を取るため旅に出たクボは、面倒身の良いサル(声・シャーリーズ・セロン)と、お調子者だが弓の名手で、クボの父、ハンゾウに使えていたと訴えるクワガタ(声・マシュー・マコノヒー)とともに、真相を探ろうとするが…。
 侍が活躍した時代の文化や風習を米国人がここまで調べ、欧米人には理解し難いであろう古来からの日本的価値観を元に、単なる勧善懲悪ではない深い物語を構築したことに大いに驚いた。さらに、作品全体に感じられる水墨画や浮世絵からの影響や、本当にストップモーション・アニメで撮影したのかと思わせる登場人物たちの自然な表情や動きも素晴らしい。
 アニメというと子供向けと思われがちだが、本作は大人にこそ見てほしい内容だ。

 本国などでは昨秋、公開され、ゴールデン・グローブ賞のアニメ映画賞の候補になったほか、アカデミー長編アニメ賞の候補にもなるなど、批評家筋から高い評価を獲得した。エンドロールに登場するジョージ・ハリスンの名曲「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」の三味線バージョン・カバー(歌・女性歌手レジーナ・スペクター)に痺(しび)れる。   (岡田敏一)