トランプ大統領の支持率が上昇しているワケ 不人気だった大統領に2つの追い風が吹いた

トランプ大統領の支持率が上昇しているワケ 不人気だった大統領に2つの追い風が吹いたトランプ大統領の支持率は、なぜ上がっているのか。写真はライアン下院議長(中央)、マティス国防長官(右)との会議の様子(写真:ロイター/Jonathan Ernst) © 東洋経済オンライン トランプ大統領の支持率は、なぜ上がっているのか。写真はライアン下院議長…

 11月29日未明、北朝鮮はついにICBMミサイル実験を敢行した。その2時間弱後、ドナルド・トランプ米大統領ホワイトハウスで記者会見を行い、この問題に対して、従来どおり確固たる姿勢で臨むと表明した。
 その会見をつぶさに見た筆者には、トランプ氏がアジア歴訪で得た大統領としての堂々たる自信と風格のある気合いとが見て取れた。米調査会社ギャラップが10月27日から29日にかけて実施した世論調査の結果によると、トランプ米大統領の支持率は過去最低の33%を記録。しかし、その後の支持率は上昇傾向にある。保守系世論調査会社ラスムッセンによる調査では、アジア歴訪を終える直前に、トランプ支持率は46%に跳ね上がり、帰国後も40%台に安定している。

なぜ支持率が急上昇したのか

 この支持率急上昇は、アジア歴訪の成功だけではない。アジア歴訪中に米国内で、トランプ氏に追い風が吹いたことが影響していると筆者は見ている。それについては、前回の本欄「日本のメディアが見逃した『で詳述したが、そこで述べた「オバマ政権時代のロシア疑惑」が、ここへきて米メディアはもちろん、とくに米議会の上院、下院において、猛烈な勢いで急浮上しているのだ。
 「オバマ政権時代のロシア疑惑」とは、オバマ政権が米国ウラン資源の20%の権益を持つ、カナダ企業の「ウラニウム・ワン」を、ロシアに売却する計画を承認する際、当時、担当責任者の1人である国務長官ヒラリー・クリントン氏や、陰の実力者であるビル・クリントン元大統領、そしてクリントン財団がどう関わったのかという疑惑だ。これこそが「本物のロシア疑惑」というわけである。
 一説によると、この「ウラニウム・ワン」買収とほぼ同時期に、ロシア関係者から何と1億4500万ドル(約165億円)という巨額の献金クリントン財団になされたという。
 この「ウラニウム・ワン」売買について、ヒラリー国務長官を含む担当責任者らが承認したのは、2010年のことだ。当時、この疑惑発生当初から捜査に全責任をもつFBI(連邦捜査局)長官はロバート・ミュラー現特別検察官だった。
 この事案をめぐっては、「ロシア側からの国際的な贈収賄、リベート、強要、資金洗浄」に関して、FBIに情報提供者を通じて、証拠が蓄積されていたと報じられていた。その報道内容にバラツキはあるものの、クリントン夫妻やクリントン財団が疑惑の渦中にあることに変わりはない。
 そのFBIへの情報提供者は議会証言をしたい意向だったにもかかわらず、オバマ政権の司法長官はそれを阻止したとされる。議会証言すれば刑事訴追するとまで脅されたというのだ。これは明らかにFBI情報提供者に対するオバマ政権による「言論弾圧」であり、「議会からの情報隠し」のそしりを免れない。
 この「言論弾圧=議会からの情報隠し」の疑いは、FBI情報提供者が雇った弁護士によって、米メディアに明らかにされた。それを知った議会は烈火のごとく怒り、司法省に対して、その解除を強く要求した。オバマ政権からの残留組が多い司法省のキャリア官僚たちは、議会の剣幕に脅え、「言論弾圧=議会からの情報隠し」はすぐさま解除された。
 この「すぐさま解除」したことは、逆に言えば、オバマ政権による「議会からの情報隠し」が、ズルズルと長年にわたって実在したことを意味する。たしかに、この事案は刑事問題のほかに、ウランに関わる国防問題の側面もあり、非公開にする必要があったかもしれない。だとすれば、秘密会で議会証言させるという手もあったはずだ。

ミュラー氏のほかにもう1人の特別検察官を要求

 このオバマ政権による「引き延ばし戦略」、すなわち、議会に情報開示せずに問題を引き延ばす戦略には、似たパターンがつきものだ。2009年の段階でFBI情報提供者が、ロシア側による違法行為の多くの証拠をもたらしたと伝えられる。
 ところが、当時、そのロシア疑惑の捜査は、ミュラーFBI長官の下で、延々と引き延ばされたと、米メディアは報じている。ロシア側の担当者が逮捕されたのは、何とミュラーFBI長官が退職した翌年の2014年だった。
 オバマ政権時代、オバマ大統領とミュラーFBI長官とは切っても切れない関係にあった。FBI長官の任期は10年というのが慣習になっているが、オバマ氏の要請でミュラー氏は2年延長してFBI長官を務めている。
 この2人の関係には、カリフォルニアの絆があると筆者は見ている。ミュラー氏は若き日に故郷を離れ、サンフランシスコで法律家生活を長年送ったことがあり、他方、オバマ氏はロサンゼルスで学生時代を過ごしている。法律論は別にして、この2人がクリントン夫妻やクリントン財団に、甘く対応していたことは衆目の一致するところだ。
 そのミュラー氏は、ブッシュ元大統領には強く反発した。こんなエピソードがある。ミュラー氏がブッシュ氏と意見対立したとき、当時、彼の部下だったジェームズ・コミー氏を連れて一緒にFBIを同時辞職すると、ブッシュ氏に政治的脅しをかけたという。
 その後、オバマ氏とウマが合ったミュラー氏は、オバマ再選戦略の中軸であるクリントン夫妻や、クリントン派閥支配下クリントン財団に不利な情報を、議会にはまったく情報開示しなかった。もし情報開示を急いだら、クリントン夫妻の政治的命運はそこで尽きてしまうかもしれず、いわんや、オバマ再選のチャンスは、ほぼ確実に水泡に帰してしまうという「大人の判断」が働いたからではないか。
 そうした論点は、今後の議会上院・下院における調査の重大関心事となろう。というのは、共和党の有力議員が、「本物のロシア疑惑」に関して、ミュラー氏は「足元が危うい」状況にあると明言しているからだ。
 その共和党の有力議員は、この「本物のロシア疑惑」を、ミュラー氏は「米議会だけでなく、米国民にも明らかにしなかった」と厳しい言葉で糾弾している。そこで、国民のための捜査をするには、ミュラー氏以外に、もう1人の「特別検察官」が必要だという意見が議会で強まっている。
 この「本物のロシア疑惑」には、日本企業もとばっちりを食っている。東京電力東芝は、国際協力銀行とともに「ウラニウム・ワン」に出資し、20%近くの株式を保有していた。しかし、同社のロシアへの売却に伴い、同社株を手放すことになった。

トランプ大統領にとっては「2つの追い風」

 この「本物のロシア疑惑」の捜査が急浮上していることが、トランプ大統領にとって追い風になっていることは間違いない。支持率の急上昇はそれを物語っている。
 もう1つ追い風になっているのは、ハリウッドの大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン氏のセクハラスキャンダルが明るみに出たことだ。ハリウッドメディアを牛耳ってきたワインスタイン氏の落ち目は、ハリウッドメディアの落ち目であり、さらに米メディアに対する国民の目が厳しくなることを意味する。
 トランプ大統領にとっては「2つの追い風」であり、1つ目の「本物のロシア疑惑」も、2つ目のハリウッドスキャンダルも、法的にはRICO法の角度から論じられている。
 RICO法とは、もともとギャングなど組織犯罪を取り締まる法律として成立されたものだが、現在では、組織犯罪に限らず、何らかの仲間たちや企業、さらに政治家たちの民事および刑事訴訟など適用範囲が拡大している。
 現在、「本物のロシア疑惑」では、RICO法が大きな争点の1つとして報じられ、FBI情報提供者が証人として喚問される可能性がある。また、ハリウッドスキャンダルでも同様に、思わぬ人物が証人喚問されることもあり得る。
 ハリウッドスキャンダルのワインスタイン氏の全盛期は、オバマ政権時代とぴったり重なる。ワインスタイン氏は民主党の有力スポンサーであり、同時にオバマ氏の強力プロモーターだった。そうした長年の縁からなのであろう、オバマ氏の長女マリアさんが、ワインスタイン氏のオフィスでインターンとして働いたこともよく知られている。
 そのマリアさんが、ワインスタイン氏に対する民事の集団訴訟の、将来的な証人として呼び出される可能性もゼロではない、という見方がある。たしかに、これからの訴訟の展開次第では、その可能性は論理的に残る。

トランプ氏のメディアとの相性は悪くない?

 今回、ワインスタイン氏のセクハラ報道が全米を揺るがしているあいだ、オバマ氏は沈黙したままだった。メディアは「5日間の沈黙」と報じた。その後にオバマ氏がやっと出したコメントは、かなり浮世離れしたものだった。
 オバマ氏の「(ワインスタイン氏の)高い地位や富にもかかわらず」という条件付きでの用心深い批判の言葉からは、手厳しさはまったく感じられない。オバマ氏はワインスタイン氏に対して、この期に及んで、なおゴマをすっている感じがする。
 これは、いくらメディアがオバマ氏の肩を持とうとしても、オバマ氏には、内心、メディアとの相性がよくないという不安感があり、それがオバマ氏のメディアに対する臆病なほどの神経過敏につながっているのではないか。
 これに対して、トランプ氏はメディア嫌い丸出しで、メディアとはまるで「水と油」のような相性の悪さ、どうしようもない敵対関係を思わせる。しかし、情報論理学的な意味では、トランプ氏とメディアとの相性は悪くないのではないか。
 オバマ氏とビル・クリントン氏の2人には共通点がある。1つは、メディアに対する緊張感が強いこと、2つは、雄弁と沈黙を戦略的に使い分けることだ。これに対して、トランプ氏は、毎日どころか毎時間、平気でメディアにすぐ反発し、反論する。
 実は、トランプ氏本人も周りもまったく気づかないでいるが、トランプ氏とメディアの相性のほうが、むしろ、いいし、より健全かもしれない、と筆者は分析している。