「合憲」NHK受信料、実はまったく不明!?

「合憲」NHK受信料、実はまったく不明!?徴収「お願い」困難で「特別センター」出動、最悪「訴訟に」

http://www.sankei.com/images/news/171228/prm1712280009-n1.jpgNHK受信料の使われ方(事業支出)

 テレビがあればNHKと受信契約を結ぶ義務がある、とした放送法の規定は「合憲」だと最高裁は12月6日、初の判断を示した。判決は、受信契約や受信料徴収に、どのような影響を与えるのか。NHKは大きく変わらない、としているが…。改めて受信料とは何かを考えてみる。
受信料の規定はどこに?
 総務省によれば、受信料の歴史は、1926年にNHKの前身である社団法人日本放送協会が設立されたときから始まった。当時はラジオの「聴取料」で1円だった。
 50年6月に放送法が施行され社団法人は解散、改めて同法に基づいた特殊法人として日本放送協会(NHK)が設立され、放送法第64条の規定による受信料制度が始まった。64条は次のように規定している。
 「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」
 今回、最高裁判決が「合憲」と判断した部分だ。
 ただ、放送法は受信料が何か、何を使用目的として徴収するか、などは規定していない。64条に基づく受信契約内容を規定する「日本放送協会放送受信規約」にさえ、その記載はない。

そんなものは、どこにもない
 メディア法に詳しい立教大学服部孝章名誉教授によると「放送法だけでなく、そもそも受信料が何であるか、その具体的な使用目的が何であるかなどを規定しているものは何もない」という。
 つまり、受信料とは何かについては、まったく不明なのだ。
 しかし、NHKは、公式サイトの「よくある質問集」で次のように説明している。
 「NHKは、受信機をお持ちの方から公平にお支払いいただく受信料を財源とすることにより、国や特定のスポンサーなどの影響にとらわれることなく、公共の福祉のために、みなさまの暮らしに役立つ番組づくりができます」
都合のいい理屈
 この論拠はどこにあるのか。
 服部名誉教授によると、放送法施行後、10年以上が過ぎたところで、放送制度全体を見直す機運が高まった。その結果、64年、郵政相(当時)の諮問機関である「臨時放送関係法制調査会」が受信料に関する答申を出した。
 その答申で同会が、受信料を「国家機関ではない独特の法人として設けられたNHKに徴収権が認められたところの、その維持運営のための『受信料』という名の特殊な負担金と解すべき」と定義したのだ。

 服部名誉教授は「結局、それ以上議論は煮詰まらず、この答申が今なお中途半端な形で受け入れられている。受信料は“NHKの維持運営のための活動費”であるという、NHK自身や行政、審議をサボってきた国会に都合のいい形で残っているだけ」と指摘する。
 答申を踏まえ、受信料支払いの義務化を盛り込んだ放送法の改正案が、66年の通常国会に提出された。が、審議未了のまま、廃案となり、今に至っている。
 服部名誉教授は、現在の状況を良しとはしない。
 「このままでは受信料が法的性格を持たない。当時、臨時放送関係法制調査会でやったような議論を繰り返し続けていくべきだ」
受信料の歩み
 話を受信料徴収の歴史に戻す。放送法施行当時は、受信料徴収の対象はラジオのみで月額35円だった。
 53年2月にテレビ放送が始まると、ラジオ受信料とテレビ受信料の2本立てに。それぞれ50円と200円だった。
 68年4月にはラジオ受信料が廃止され、代わりに「カラー契約」と「普通契約」の2本立てになった。
 84年4月には口座振り替えが始まり、訪問集金などよりも50円割安になる料金が設定された。

1989年8月に衛星契約が導入されると今度は地上契約と衛星契約の2本立てとなり、2度の消費税率引き上げなどによる値上げ、2012年10月の値下げなどを経て、14年4月以降、地上契約1310円、衛星契約2280円となっている。
徴収スタッフ
 NHKは、受信料は「訪問により契約の有無を調べたうえで、契約手続きをお願いしている」という。
 徴収の担当者は、ベランダなどに衛星放送用のアンテナなどを探しながら戸別訪問を行う。
 戸別訪問を行うのは、NHKと徴収に関わる業務委託契約を結んだ個人である「地域スタッフ」だが、09年2月からは全国299社(17年12月時点)の人材派遣会社などと提携。地域スタッフ管理業務の削減や経費抑制をはかっている。
 また、転居者らに受信契約手続きを促す業務を、引っ越し会社や不動産会社に委託しているという。

徴収の手順
 地域スタッフらは受信料徴収の“初動部隊”として、まず「訪問や文書などを通じて受信料制度の意義などを丁寧に説明し、ご契約とお支払いをお願い」する。
 この「お願い」を重ねても「自発的に契約していただくことが困難と判断」すると、担当が全国8カ所(東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、松山)の拠点放送局にしかない部署「受信料特別センター」と交替する。NHK本体が乗り出す。
 それでも「一定期間が過ぎても」進展がなければ、対象の世帯・事業所に対し「訴訟予告」を行う。なお応じない相手の場合、NHKは訴訟を起こす。
訴訟、訴訟
 04年、紅白歌合戦の担当プロデューサーによる制作費の不正支出を発端に、さまざまな不祥事が明るみに出ると受信料の不払いが続発した。
 それから2年たった06年、NHKは「受信料契約を結びながら未払いの人」に支払いの督促を始めた。督促の累計は約9400件(17年9月時点)にのぼり、うち半数近い4077件については訴訟を起こしている。54件はまだ争っている。

 加えて09年からは「未契約」世帯を相手に訴えを起こし始めた。未契約世帯は約900万(17年3月末時点)あるといわれるが、NHKは305件(17年9月末、事業所を含む)の訴訟を起こしている。35件はまだ争っている。また、判決が出てなお未払い世帯もが32件あるという。
 こうした結果として受信料の「支払率」は78・2%(16年度末時点)と過去最高になっている。
これまで通り
 NHKの上田良一会長は、最高裁判決が出た後の定例会見で、「受信料制度を視聴者に丁寧に説明し、公平負担の徹底に努めたい」と語った。受信料を担当する砂押宏行営業局長はも「判決を“錦の御旗”のように掲げて説明がおろそかにならないように、といった文書を出した」ことを明らかにし、強圧的な態度に出ないよう注意を呼びかけたことを明らかにした。
 最高裁判決後も、従来と同様の徴収活動が行われるわけだ。
 一方で、徴収の現場でも不祥事は起きており、上田会長は「委託先であっても、きちんとプログラムを作って対応している」と、スタッフ教育などに不断の努力を続ける意向も明らかにしているが、まさにその根絶は大きな課題だ。
 制度が「合憲」と判断されても、NHKと受信料に対する不信が沸き起こる懸念は常にある。
 実際、NHKは12月21日、名古屋放送局中央営業センターの男性職員(37)が訪問集金した受信料21件分約58万円を着服したとして28日付で懲戒免職すると発表した。
 受診料徴収の現場は、これまで以上に注目を集めるといえるだろう。