自分たちの首を絞める?EV普及で実は大変なコトわかった電力業界の懸念

自分たちの首を絞める?EV普及で実は大変なコトわかった電力業界の懸念


東京電力ホールディングスと日産自動車が共同で実施する実証試験に使うバン型EV「e-NV200」(イメージ写真)

 電力業界が普及の期待の高まる電気自動車(EV)関連の事業に乗り出している。自動車メーカーと手を組み、EVを蓄電池として活用するなど電力システムへの囲い込みを狙う。電気の販売先の広がりにもつながる見込みの一方で、大口取引先である自動車産業の構造変化を促すことになり、それが電力業界の懸念になっているという。自分たちの首を絞めることになりかねないのだ
 「(EVで)ポイントをためられるのが楽しい」。平成29年12月に東京電力ホールディングスが実施した実証試験に参加した同社の社員はこう声を弾ませたという。
 試験は日産自動車と共同で、東電社員約30人が参加。日産のバン型EVを借りて、太陽光などの発電量が増えそうな指定時間帯に充電するとインターネット通販のポイントがもらえる。
 天候によって発電量が変わる再生可能エネルギーの導入が進む中、EVを使って出力を抑制する取り組みだ。時間帯は天気予報を基に3~4時間ごとに指定し、充電1キロワット時あたりネット通販サイトで使える20~60円相当のポイントがもらえる仕組み。
 経営技術戦略研究所の篠田幸男・プロジェクト推進グループマネージャーは「EVで出力の変動を調整できれば、蓄電池への投資を抑えられる」と語る。試験は30年1月末まで実施し、平日と休日の参加状況の違いや、ポイントの効果を調べる。EVの普及が「数万台規模」に達すれば、事業化を検討する。

 中部電力も29年6月、トヨタ自動車などとプラグインハイブリッド車(PHV)や工場の蓄電池を制御し、再エネの変動に合わせて発電量を調整する実証試験を始めた。また、中部電は、トヨタの「プリウスPHV」所有者向けに、充電量に応じてポイントを与えるサービスも実施している。
 国内の電力会社がEV関連の事業を模索するのは、欧米でEVへの移行を促す規制が相次いでいるためだ。ドイツは2030年、フランスは40年にガソリン車などの販売を禁止する方針。世界最大の自動車市場の中国も19年からEVなど「新エネルギー車」を一定割合販売するようメーカーに義務付ける。世界を相手にする日本メーカーも、EVのラインアップ強化が進んでいる。
 このため、電気事業連合会の勝野哲会長(中部電社長)は「EVの普及で、販売電力量の増加が一定程度見込める」と評価する。
 だが、電力量への影響は限定的とする試算もある。電力中央研究所の林田元就氏の試算によると、30年にEVが国内の乗用車保有台数の15~20%を占めても、電力量の増加は1%程度にとどまる見通し。

 EVは電力1キロワット時あたり7キロ走り、1台の年間平均走行距離を7000キロと想定。国内の乗用車登録台数約6125万台(軽含む)がすべてEVに代わるとして、電力量は約612億5000万キロワット時。EVが15~20%を占めると予想すれば、92億~123億キロワット時とする計算だ。経済産業省によると平成28年度の販売電力量8997億キロワット時に占める比率は1~1.4%となり、「消費量への影響はあまり大きくない印象」(林田氏)。
 さらに、電力業界では、EVがもたらす産業構造変化への懸念が大きい。EVは駆動システムが電池やモーターで、エンジンを持つガソリン車に比べて部品点数が少ないためだ。部品数が減れば製造時の消費電力が減り、収益の打撃になる見込みだ。
 勝野会長は「製造時の消費電力量が減少することに伴う販売電力量への影響のみならず、裾野の広い自動車産業の変革に伴う地域経済への影響が生じる可能性もある」と指摘する。実際、国内の電力量の3分の2は高圧という大工場やオフィスビルなど主に産業用だ。EVによる需要増とてんびんにかけ、期待よりも懸念が勝るのは必然だ。
 欧米や中国が打ち出すEV化の波の中で、電力業界は新たな収益源を見いだすことができるのか。「出遅れ」が指摘される日本の自動車メーカーとともに、採算性や将来性を見極める先見性が試される。