イラストレーター・生らい範義 描写力と表現の幅で圧倒

イラストレーター・生らい範義 描写力と表現の幅で圧倒

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 宮本武蔵」第1巻表紙 1970年 c生●(=頼のおおがいが刀の下に貝)範義

 「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」「ゴジラ」などの映画ポスターにSF小説の表紙、さらには油彩の大作まで-。幅広い活動で人気のあったイラストレーター、生●(おおらい)範義(1935~2015年)の軌跡を体感する「生●範義展 THE ILLUSTRATOR」が上野の森美術館(東京都台東区)で開催されている。生涯に残した3000点以上からよりすぐった原画248点などを展示。その表現の多様さと描写力には圧倒されるばかりだ。
 昭和10年、兵庫県明石市で生まれた生●は、戦時下の空襲で焼け出され、鹿児島・川内(せんだい)(現・薩摩川内市)に疎開する。川内高校卒業後、東京芸術大の油画専攻に進学するも中退。広告代理店でカット描きの仕事をしていた41年、乱世の英雄らを緻密な点画で描いた「吉川英治全集」の新聞全面広告のイラストが評判を呼び、仕事の依頼が相次ぐようになる。
 48年には活動拠点を妻の故郷の宮崎市に移し55年、「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」の国際版ポスターを手がけ世界的に注目を浴びる。また「ゴジラ」(59年)以降のゴジラシリーズや「マッドマックス2」といった映画ポスター、小松左京平井和正らのSF小説に雑誌の表紙、「信長の野望」などゲームソフトのパッケージと、さまざまなイラストをこなした。

 同展は生●が後半生を過ごした宮崎市NPO法人、宮崎文化本舗が企画。地元では生●範義展を既に3回開いており、今回はその集大成ともいえる大規模展となる。川内歴史資料館(薩摩川内市)に寄贈された縦2メートル、横4・5メートルの大作「破壊される人間」も、初めて館外に貸し出された。
 生●はアシスタントらによる分業制を取らず、筆とペン、定規だけを使い、すべて独りで描いた。同NPO代表理事の石田達也さんは、「荒々しくデフォルメされた絵も、リアルな写実画もこなす。1人の作家がこれだけ描けることに驚いた」と話し、「今のように映画をDVDなどで見直すこともできない中、想像でレイアウトを決め、世界観を作れる人」と称賛する。
 生●の長男で画家のオーライタローさんによると、生前は「125歳まで生きて仕事をする」と語り、どんな依頼を受けても「描けない」とは絶対に言わなかったという。「最晩年は認知症により、絵筆は握れなかったが、十分やり切ったと思う。作家は本来、絵のスタイルを固めていくものだが、父の場合はイラストレーターという稼業がそれを許さなかった。若い人たちにもこういう絵描きがいたことを知ってほしい」
 2月4日まで、無休。一般1600円。問い合わせは(電)03・3833・4191。(藤井克郎)