燃料なしでロケットが飛ぶ? 夢のエンジンを初検証

燃料なしでロケットが飛ぶ? 夢のエンジンを初検証 

2018/6/9
ナショナルジオグラフィック日本版

NASAが開発中のEMドライブのイラスト(IMAGE BY ISTOCK, GETTY IMAGES)
 2016年11月17日、米NASAジョンソン宇宙センターの研究チームは推進剤を使うことなく真空で宇宙船に推力を与えられる電磁(ElectroMagnetic)推進システム「EMドライブ」の実験結果を発表した。EMドライブは、燃料を使わず、密閉された円錐形の容器の中で、マイクロ波を反射させるだけで推力を得るとされる。
 この発表に「物理法則に反する」と、科学者の多くは疑問視した。たとえてみると、スター・ウォーズハン・ソロ船長が、ミレニアム・ファルコン号のダッシュボードに頭をぶつけるだけで宇宙船が飛び続けると主張するようなものだからだ。科学者でなくても、奇妙な話だと思うだろう。
 そしてこのほど、NASAとは無関係のドイツの研究者たちが、独自にEMドライブを製作し、2016年にNASAが成功したと主張する実験の結果を検証した。EMドライブは本物なのか、発表内容が注目された。
 その内容は、最近開催された宇宙推進会議の記録によると、「推進力は、EMドライブから発生したのではなく、何らかの電磁相互作用による」というものだ。

 ドイツにあるドレスデン工科大学のマーティン・タジマール氏率いるグループは、様々なセンサーや自動の機器を取り付けた真空槽の中に、EMドライブを入れて試験を行った。そうやって、振動や熱、共鳴、その他推力を発生させそうな要因をほぼ全てコントロールできたものの、地球の磁場の影響は完全には遮断できなかった。
 EMドライブ内でマイクロ波の反射が起こらないような状態にして、試験装置のスイッチを入れたが、EMドライブはそれでも推力を得ていた。これはおかしい。NASAの説明が正しければ、推力は発生しないはずだ。
NASAの研究所イーグルワークスの試験槽の中に置かれたEMドライブ(PHOTOGRAPH BY NASA, ALAMY)
 研究者が出した暫定的な結論は、真空槽の中の電源ケーブルに地球の磁場が影響を与えたため、推進力が測定されたというものだった。ほかの専門家も、この結論に同意している。
 「EMドライブの場合、実験でわずかに確認された推力は、地球の磁場との相互作用によるというのが有力な説です」と、自らも独自の推進装置を開発している米カリフォルニア州立大学フラトン校のジム・ウッドワード氏はコメントした。
 地球の磁場の影響を受けずに試験を行うには、ミューメタルという合金で作られた磁気シールドの中にEMドライブを密閉する必要がある。だが、イーグルワークスが行った試験でも、このような磁気シールドは使われていなかった。つまり、イーグルワークスの試験結果が地球磁場の影響を受けていた可能性を否定できない。
 ドレスデン工科大学の報告は、EMドライブの概念自体に冷や水を浴びせるような内容だが、最終的な結論とするにはまだ早いとウッドワード氏は考えている。ミューメタルの磁気シールドは別としても、ドレスデンの試験はかなり低い出力で行われていた。そのため、「本当に推進力が発生していたとしても、ごくわずかで、ほかの雑音にかき消されてしまう可能性もゼロではありません」と、ウッドワード氏は言う。
 したがって、もっと出力を上げた試験を行えば、論争に決着をつけてくれるかもしれない。
(文 Nadia Drake、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年5月25日付]