大豆巡る摩擦、米国より中国に不都合な事情

大豆巡る摩擦、米国より中国に不都合な事情
商品部 杉山麻衣子

 トランプ米政権への対抗措置として中国が7月から米国産に報復関税を課した大豆。米シカゴ先物は7月中旬に9年半ぶり安値となる1ブッシェル8.1ドル台に急落した。不安定な値動きは米中貿易摩擦への不安を如実に映し出す。様々な分野に広がる両大国の我慢比べ。大豆に限れば中国側の旗色が悪いとの見方が優勢になっているようだ。
産地の天候とともに米中摩擦の動向が大豆相場を左右している(米ミズーリ州の大豆畑)
産地の天候とともに米中摩擦の動向が大豆相場を左右している(米ミズーリ州の大豆畑)
 中国による米産大豆の輸入が増えたきっかけは1980年代に遡る。当時の米カーター政権による旧ソ連への農産品禁輸で米産の小麦とトウモロコシがだぶつき、農家はアジアの需要が高まる大豆の生産にシフトした。
 2000年代には中国で飼料用の穀物需要が大きく増えた。米国では単位面積あたり収穫量が増え「海上輸送が便利な米西部の州が大豆栽培を拡大した」(伊藤忠商事傘下の食料マネジメントサポートの服部秀城本部長)。17年の中国の大豆輸入量は、同国が世界貿易機関WTO)に加盟した01年の約7倍に膨らんだ。今回の米国に対する関税措置は新たな転換点となる。
 米農務省は7月に公表した世界の需給見通しで、中国による18~19年度の大豆輸入量見通しを約9500万トンと6月の予想(約1億300万トン)から下方修正した。17~18年度を2%下回り、15年ぶりの輸入減となる見通しだ。
 中国は米産大豆の輸入減を補うため、ブラジル産などの輸入を増やしつつある。しかし、中国にとっては不都合な要因が既に顕在化している。
 まずブラジル産の現物を取引する際、シカゴ先物相場に加算するプレミアム(割増金)が上昇している点だ。シカゴ先物が過去2カ月ほど1ブッシェル9ドルを下回る水準で推移する一方、中国の需要増観測を映し、ブラジル産のプレミアムは7月中旬に前年同期の3倍近い1ブッシェル2.7ドルに達したもよう。過去にも急騰したことはあるが「北米産不作の懸念が引き金で、地政学リスクを理由にこれほど上昇するのは初めて」(住友商事グローバルリサーチの本間隆行経済部長)。南米産などの調達を増やそうとする中国には痛手だ。
 大豆の輸入価格上昇が家畜飼料の大豆ミールに波及するリスクも大きい。中国人にとって豚肉は食卓に不可欠な食材。飼料が高騰すれば豚肉価格に波及し、国民の不満を招きかねない。豚肉そのものの輸入を増やせば飼料需要を抑えられるが、中国はその豚肉も制裁関税の対象としている。
 旺盛な需要を賄えるのかという不安もある。中国は世界の大豆輸入量の6割強を占める。同国の輸入元シェアで米国は4割弱を占め、最大のブラジル産と合わせると両国で8割強に達する。アルゼンチン、パラグアイといった国からの輸入で補うのは限界がある。
 市場関係者の間では「ブラジル産だけでは賄いきれず、米産大豆を買わざるを得ない」との見方が強まりつつある。中国は需要を賄うため、パーム油などの輸入を増やしているが「一時しのぎにすぎない」(資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表)との声が多い。
 米国では大豆の輸出減に対する農家の反発が強い一方、欧州諸国による米国産の買い付けが急増するなど相場下落のメリットも目立つ。それに比べ、南米産の高騰や供給不足といった中国側の不安が大きいのは否めない。自ら切った輸入関税というカードがもたらす副作用に耐えられるのか――。市場関係者は緊張とともにその答えを見守っている。