【軍事ワールド】ステルス機も“見える” 空自新装備E-2Dの「3つの驚異」

【軍事ワールド】ステルス機も“見える” 空自新装備E-2Dの「3つの驚異」

米海軍のE-2D早期警戒機「アドバンスド・ホークアイ」(4月12日、岩国市、岡田敏彦撮影)
 世界最新鋭の新型早期警戒機E-2Dが航空自衛隊に配備されることが9月に決定した。機体上部に大きな皿形のレーダードームを備えたE-2は、空飛ぶレーダー基地としての役割が知られているが、新たに導入される「D」型は、一般的なレーダーに映らないステルス機さえ探知できるなど、3つの驚異的な能力を備えている。“ステルスキラー”の実力とは-。(岡田敏彦)
 空のレーダー基地
 E-2D「アドバンスド・ホークアイ」は米国ノースロップ・グラマン社が製造する早期警戒機。現在航空自衛隊に配備されているE-2C「ホークアイ」(13機)にプラスする形で導入される。

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 9月10日には米国務省が最大9機まで日本に売却する方針を議会に通告。日本でも8月末に防衛省が発表した平成31年度概算要求で「新早期警戒機E-2Dの取得」として2機分、計544億円が計上された。
 その目的は「南西地域をはじめとする周辺空域の警戒監視能力の強化のため」(同概算要求)だが、秘めたポテンシャルは未来を先取りするものだ。
 最大の特徴は、従来のC型から飛躍的に発展したレーダー「AN/APY-9」にある。従来のC型でも探知距離は約560キロと、ほぼ東京-倉敷間にあたる遠距離を探知可能なうえ、約2000個の目標を同時に識別・追跡し、味方の迎撃機40機に対し飛行方向や高度などを命令、指揮することができるが、D型に備わったレーダーはアクティブ電子走査アレイ(AESA)式を導入したのだ。これは米国のステルス戦闘機F-35などの最新鋭戦闘機や、あるいは敵戦闘機を寄せ付けないイージス艦と同様の方式で、同時に多くの目標を追尾できる。

 この驚異的な能力から「空飛ぶレーダー基地」といっても過言ではないが、2つ目の驚異は、E-2Dではレーダーに使う周波数をUHF帯としたことによるステルス探知能力だ。
 “隠密”ステルス機を暴く
 F-35搭載のレーダー「AN/APG-81」や空自も運用するF-15戦闘機のレーダー「AN/APG-63」など多くのレーダーはXバンド(マイクロ波、波長2・5~3・7センチ)。対して極超短波のUHFはデシメートル波とも呼ばれ、波長が長い(10センチ~1メートル)のだが、この違いにより、レーダーに映らないはずのステルス機が“見える”という。

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 アメリカの軍事研究団体「米国海軍学会」はホームページで専門家アレンド・ウエストラ氏によるE-2Dの能力分析を紹介している。このレポートによると「ステルス戦闘機はKa、Ku、X、Cバンドのいずれか、あるいは一部のSバンドの高周波の電波による探知を困難としている」のだが、「航空機の翼端など構造物の寸法が波長の8分の1以下と等しくなると共振現象が発生し、レーダー断面積が変化する」と指摘する。
 簡単に言えば、波長の長いUHF波をレーダーに用いれば、ステルス機といえどもレーダー断面積が大きくなる=レーダーに映ってしまう、というのだ。ウエストラ氏は「非常に大きな構造物で構成されるステルス爆撃機B-2スピリットなどはともかく、小型のステルス戦闘機なら、(尾翼など小さい部分が複数あるため)、UHF波を使うE-2Dのレーダーで探知できる」と強調している。
 「星空の決闘」から…
 ただし、UHF波レーダーは解像度が低くなり、正確な目標探知には使えないというのがこれまでの一般的な認識だった。

 第二次大戦前、世界の最先端の科学技術を誇っていたドイツでは世界で初めてレーダーで航空機を探知することに成功した。戦時中は夜間戦闘機にレーダーを搭載して英軍爆撃機に対する迎撃作戦を展開したが、Me110GやHe219といった夜間戦闘機に搭載されたリヒテンシュタインなどのレーダーはUHF波、つまりメートル波だった。
 一方、対する英軍はマイクロ波を発生させるマグネトロンの実用化に成功し、モスキート夜間戦闘機などに搭載した。波長の短いマイクロ波レーダーは、高度や方位の正確さにおいてドイツ機の搭載するレーダーを大幅に上回る性能を持ち、ドイツ夜戦を返り討ちにする事態が頻発した。

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 日本では第二次大戦の最後まで実用の域に達しなかったレーダーを用いた電子戦が、欧州では毎夜のごとく繰り広げられたわけだが、このとき既にメートル波よりマイクロ波という波長が短いレーダーの方が高性能だということが明らかになっていた。
 これ以降、波長の長いメートル波=UHF波は、レーダーにおいては日陰者の技術として表舞台から退場した。だからこそステルス機を作る人々も“無視”してきたわけだが、UHF波を最新のAESAレーダーに採用し、かつ「強力なコンピューターによるデジタル処理能力を組み合わせた」(同学会)ことでUHF波の潜在能力が生かされたことになる。

 失われたテクノロジーを見直したことが、ステルス機を発見可能という2つめの驚異につながった。そして3つ目が、従来の早期警戒機の枠を打ち破る「NIFC-CA」(ニフカ)における中核機能を持つことだ。
 司令塔
 ニフカとは「Naval Integrated Fire Control-Counter Air」の略。海軍の艦艇や陸上の基地からでは探知できない水平線以遠の目標を、高い位置にある航空機のレーダーなどで見つけ、その位置情報をデータリンクで味方全てと共有して対処するという構想だ。このコンセプトにおいて、E-2Dは全体を統括する司令塔の役目を果たす機能を持っている。

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 強力な電子の目(レーダー)で戦闘地域の全てを見通し、敵はもちろん味方の艦船や航空機の位置、その火力などを把握。海上の複数の艦船のレーダーが得た情報をリアルタイムでまとめて敵機の迎撃官制が可能だ。
 さらにイージス艦が搭載するSM-6ミサイルの誘導を引きうけることも可能だ。イージス艦のレーダーでは水平線下となり敵を探知できない場合でも、とりあえずE-2Dの指示に従って発射すれば、あとはE-2Dが誘導を引き受ける。さらには敵地奥深くへ進出したステルス戦闘機を「センサー役」として、言い換えれば自分の“目と耳”を遠くに投げて情報を集め、味方と共有することができる。米海軍はすでにNIFC-CA対応能力を持つE-2Dとイージス艦を日本に配備しており、自衛隊のE-2D導入で連携能力は大きく向上するとみられる。
 もちろん、実際にNIFC-CAの能力が発揮されるような危険な状況は望ましくない事態だが、一方で日本が脅かされているのも事実だ。平成29年度に航空自衛隊の戦闘機が実施した緊急発進(スクランブル)は904回。うち中国の500回が最多で、ロシアは390回。

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 逆の例、つまり自衛隊偵察機が中国領空に近づいて中国機のスクランブルを受けた例はなく、一方的に受けて立つばかりの状況にある。中国やロシアがステルス機を開発するなか、強力なレーダーとステルス機をも見つける能力は、今後ますます重要になりそうだ。