日本を「仮想敵」扱いして準備してきた韓国軍

日本を「仮想敵」扱いして準備してきた韓国軍

自衛隊機へのレーダー照射は“突然の出来事”ではない

2019.1.30(水) 古森 義久
韓国国防省で演説する鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相(2018年9月21日撮影、資料写真)。(c)KIM HONG-JI / POOL / AFP〔AFPBB News
(古森 義久:ジャーナリスト、産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
 韓国軍による日本の自衛隊に対する敵性のにじむ行動が波紋を広げている。実は韓国軍は伝統的に日本を脅威とみなす軍事強化策をとっており、米国から警告を受けた歴史がある。これは日本ではほとんど知られていない重要な事実である。
 北朝鮮の軍事脅威が顕著な1990年代、韓国は北朝鮮に対抗する軍備として最も必要な地上部隊の強化を後回しにして、日本を仮想敵と見立てて海軍や空軍の増強に力を入れた。そして、その施策について米国当局から抗議を受けたという現実が存在するのだ。

今に始まったことではない韓国軍の反日姿勢

 韓国軍が日本の自衛隊に対して挑発的な行動をとっている。現在日本では、その動きの理由として「一部の将兵が勝手に行動したのだろう」あるいは「日韓の政治的な対立のために韓国の一部の軍人が感情的となり、腹立ちまぎれに日本への威嚇的な動きに出たのだろう」という見方が多数派であるといえよう。
 日本と韓国はともに米国の同盟国であり、近年の北朝鮮や中国の軍事脅威に備えて、米日韓三国で防衛協力する必要性が叫ばれている。そんな中で、韓国軍による日本の自衛隊機への危険なレーダー照射などが起きるのは、韓国軍が一時の感情に突き動かされて、過剰な反応へと走ってしまったのに違いない、という見方である。また、たまたま北朝鮮漁船と接触しているところを自衛隊機に見つけられたため、追い払ったのだという解説もある。
 ところが、韓国軍部の反日姿勢は今に始まったことではない。韓国は、二十数年前から安全保障戦略や軍事面でも日本を仮想敵および脅威とみなして、対策をとってきた。韓国軍の反日姿勢には長い歴史が存在するのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/1/4/450/img_14faa27164f6a47fbfbc598515255fec205406.jpg韓国海軍の駆逐艦からレーダー照射を受けたP-1哨戒機の同型機(資料写真、出所:Wikipedia

「中長期の日本の潜在的軍事脅威に備える」

 その事実を、私自身がワシントン駐在の記者として書いてきた産経新聞の記事を通して紹介しよう。
 まずは今から25年前、産経新聞の1994年12月5日の朝刊国際面に載った記事である。《韓国軍の空・海強化計画 「日本脅威」傾き過ぎ 米共和党 次期議会で調査開始》という見出しが付けられていた。
《【ワシントン4日=古森義久】米議会の共和党は、韓国軍の軍事能力強化の計画が日本を潜在的脅威と見立てた空、海軍の増強に傾きすぎている─として1月の次期議会で公聴会などを開き、本格的な調査を開始することになった。米議会側では、「韓国は在韓米軍と共同で北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)の脅威に備えるため、地上防衛軍の強化に最重点を置くべきだ」と主張しており、ウィリアム・ペリー国防長官も韓国が日本を仮想敵として中長期の防衛計画を立てている実態を認め、韓国側に抗議したことまで明らかにしている。
 共和党筋が3日までに明らかにしたところによると、議会共和党は上院外交委員会などを中心に第104議会で、韓国軍の兵器調達計画などの調査を開始する方針を決めた。特に在韓米軍の任務に関連して、韓国の中長期の軍事計画が日本を潜在的脅威とみての増強に比重を置きすぎているとの認識に立ち、米国の防衛予算の使途という見地から下院予算委員会なども加わって公聴会を開くことも予定しているという。
 米議会では、韓国軍の軍事計画の現状を「米韓共同防衛態勢のゆがみ」ととらえ、下院が今年(1994年)6月、「米韓共同防衛では北朝鮮の現実の脅威に対し、原則として韓国軍が地上防衛、米軍が空、海の防衛と責任分担が決まっている。だが、韓国軍は地上防衛能力になお欠陥があるにもかかわらず、その改善計画では費用の顕著な部分を地上防衛以外の分野に向けている」と指摘。その是正を目指すために、米国防総省に調査と報告を求める決議案を可決した。
 この決議は「他の分野」として、(1)潜水艦(2)駆逐艦(3)高性能の航空機─をあげ、「これらの兵器は地上軍事能力の改善に役立たず、その分、米軍への負担が増す」としている。
 この決議には、韓国がなぜ北朝鮮からの攻撃への対処に直接、有用ではない潜水艦などの増強に力をそそぐのかは明記されなかったが、その理由が主として中長期の日本の潜在的軍事脅威に備えるため─とされることは、米側の議会筋や朝鮮問題専門家が明らかにしている。
 事実、今年5月にペリー国防長官がワシントンで朝鮮半島の安全保障について演説した際、議会調査局のアジア安保問題の専門家ラリー・ニクシュ氏から「議会では最近、韓国軍が日本からの仮想脅威に対処するため、空、海の軍事能力強化を優先させていることに批判がある。韓国側にその是正を要請したか」という質問が出た。
 これに対し同長官は「確かにここ数年、国防総省も韓国軍のそうした(日本を仮想脅威としての)目的の兵器システム開発計画の不適切な優先順位に懸念を抱いている」と述べた。さらに同長官は、4月の韓国訪問では韓国側にその現状を抗議し、是正を正式に求めたことを明らかにした。
 共和党議員には、米韓軍による「北朝鮮からの総攻撃に対しては北の中枢への通常戦力での大量報復」という抑止戦略が実効を失いつつあるとの認識がある。》

 1994年当時、米国側はビル・クリントン政権、韓国は金泳三政権だった。金泳三政権自体は比較的安定していたが、ちょうどこのころ、北朝鮮核兵器開発への動きが米朝関係を緊迫させるようになった。北朝鮮の軍事脅威が米韓両国に重大に認識されるようになっていたのだ。
 ところがそんな時期であるにもかかわらず、韓国軍は北朝鮮との戦闘に不可欠の地上戦力を強化せずに、海軍や空軍の増強に力をそそごうとした。その動機は、日本を脅威とみる認識だった。
 この歴史的な事実は現在の日韓関係の悪化をみるうえで重要な意味がある。韓国側の日本敵視はこれだけ根が深いのである。

WSJが伝えた米国政府の強い不満

 日本を脅威と捉える韓国側の認識と、その認識に基づく防衛政策について、私は翌年(1995年)にもワシントンから同じ趣旨の記事を発信した。1995年1月19日の産経新聞朝刊国際面の記事である。見出しは《米、韓国の防衛政策に不満》で、内容は以下のとおりである。
《【ワシントン17日=古森義久】韓国の防衛が当面最大の脅威とされる北朝鮮地上軍よりも日本へ重点を置き軍事力整備が進められていることに対し、米国政府が強い不満を抱いていることが17日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道で伝えられた。
 同紙はソウル発で米国の国防当局が同盟国の韓国の防衛政策に強い不満を抱いていることを報じた。この記事は「韓国国防省は長期の脅威としては北朝鮮よりも日本を恐れている」「米国政府当局者は韓国の北朝鮮への対抗戦闘能力を疑問視している」という見出しで、ソウルの韓国防衛関係者や在韓米軍当局者の説明を伝えている。
 同記事によると、韓国軍当局は「360度防衛」の標語の下に長期の脅威としては北朝鮮よりも日本を第一に位置づける方針をとり、北朝鮮への抑止、防衛の中心となる地上兵力の強化よりも海軍、空軍の増強に重点を置く傾向が続いてきた。この政策の表れとして韓国軍は潜水艦、偵察衛星駆逐艦などの調達に力を入れているという。
 さらに同記事によると、韓国の同盟国として共同防衛にあたる米国としてはこの韓国の「日本脅威」戦略に明確に反対し、韓国軍が北朝鮮への防衛を在韓米地上軍に依存する度合いを減らすことを要請している。(以下、略)》

日本の防衛態勢を専門に研究する部門も

 さらに私はこの記事に対して、「視点」というタイトルの短い解説記事を書いた。その記事は本体の記事と同じ日の紙面に掲載された。全文を引用しよう。

《【視点】韓国軍の空・海強化計画 「日本脅威」傾き過ぎ 対日認識屈折あらわ
 米議会の共和党が韓国軍の日本を潜在的脅威とする増強計画に批判を強めたことは、韓国の安全保障面での屈折した対日認識に光をあてることになった。一方、米国側ではこの動きは共和党主体の新議会が同盟国との共同防衛の責任分担区分をより厳密に求める傾向を示したといえる。
 米韓防衛関係を長年、研究する米海軍大学院のエドワード・オルセン教授は「想定可能のあらゆる事態に対応する軍事シナリオを考えるのが軍の任務だから、危険視する必要はないが、韓国軍が日本を将来の潜在的脅威、あるいは仮想敵として軍事対処を検討しているのは事実だといえる」と述べる。
 別の米国軍事筋は、(1)韓国軍部には北朝鮮が現状の政体のまま続くのは10年未満とみて、朝鮮半島の統一、米軍の撤退という展望を踏まえ、日本が地域的に新たな軍事的脅威となるとの見方がある(2)韓国の国防省所属の国防研究院には最近、日本の防衛態勢を専門に研究する部門が新設され、女性研究者の宋永仙博士の下に専門家6、7人が勤務し、あらゆる事態を想定した机上演習をしている(3)韓国軍のドイツ製ディーゼル潜水艦の購入や、駆逐小艦隊の整備は日本の自衛隊に対抗するため(4)しかし近代兵器の調達には長期間を要し、調達は将来に備えてで、日本を目前の敵とみていることを意味しない─などと述べている。
 ブッシュ政権国家安全保障会議NSC)のアジア担当官だったトーケル・パターソン氏は「日本を対象とするようにみえる韓国の兵器類の調達や開発には、防衛産業育成という側面も大きい」と指摘する。だが、日本といま安全保障面でも交流や連携を広げる韓国が、一方で長期の視点にせよ日本を潜在的脅威と認識しているとの屈折した側面があることは否定できない。》
 

ちらほらと見える「衣の下のヨロイ」

 以上を、古い話だというなかれ。韓国はこんなにも前から日本を軍事面での脅威と認識してきたということなのだ。
 そしてなによりも、2019年1月の現在、日本側の防衛省自衛隊の複数の幹部たちの言によると、韓国軍の「日本潜在脅威認識」はいまも存在し、韓国の防衛態勢にはちらほらと「衣の下のヨロイ」が散見される、という。
 この経緯をみると、最近の韓国軍の自衛隊機に向けての攻撃用のレーダー照射事件も、まったくの別の様相をみせてくるといえるだろう。